されど戯曲は終わらない   作:§K&N§

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 見滝原中学校は、見滝原市のコンセンプトに合わせて近代的に改装されているため、他地方の中学校に比べて、外観、内装共に大きく異なっている。とはいえ、いくら近代的になろうと、生徒達一人一人はごく普通の中学生である。

 

 時刻は放課後。

 

 見滝原中の生徒達は、部活動に励む者、学校に残って勉学に勤しむ者、街へ遊びに繰り出す者など、世間一般の中学生達となんら変わらない中学生活を送っている。まどか達仲良し三人娘も例外ではなく、元気いっぱいに街へ繰り出していた。

 

 ただし、いつもと違う事は、その輪の中に晴政が加わっているということであろう。

 

 センター街の中心に位置する大型ショッピングモールの中に出店している、とあるファーストフード店の一角に、三人娘と晴政の姿があった。

 

「なんか、悪いな? 三人の時間を邪魔しちゃったみたいで……」

 

 そう言って苦笑する晴政はバツが悪そうに頬をかいた。

 

「なに? アンタ意外とそういうの気にするクチ?」

 

「そりゃお前、流石に俺だって多少は気にするっての」

 

 そんな晴政を見やりながら、さやかは意外そうな表情を浮かべる。

 

「そんなの気にしなくて良いって! ね、まどか、仁美?」

 

「そうだよ! 昨日だってハル君に見滝原の街を案内するって言ったもん!」

 

「鞍橋君は昨日この街に来たばかりですし、ちょうど良かったんじゃないですか? 私は気にしませんよ?」

 

 三人の言葉に、晴政は嬉しそうに微笑みを浮かべる。

 

「いやぁ、そう言ってくれると助かるわ。正直、この街の事、まだ全然分かんねぇんだ。一応、資料とかでは見たんだが……」

 

「分かんなかった、と?」

 

「まあな。けど、実際にこうして案内して貰うと、案外すぐ覚えるかもな」

 

「百聞は一見にしかず、と言いますしね?」

 

「そうだな」

 

 仁美の言葉に、晴政も頷く。

 

(早いとこ、この街の事も覚えねぇとな。このままじゃ、満足に“仕事”もこなせねぇ……)

 

 そう思いながら、ふと、まどかに目をやると、何やら難しい表情を浮かべていた。

 

「どうした、まどか?」

 

「ふぇっ!?」

 

 自分の世界に入り込んでいたのか、突然の声掛けに奇妙な声をあげるまどか。

 

「ちょっと、そんな声出して、どうしたのよ?」

 

「えっと……あの……」

 

「っ! はっは〜ん。さては、愛しのハル君の事を考えてたなぁ?」

 

 まるで玩具を見つけた子供のようにニヤリと笑みを浮かべるさやかに、瞬時に赤面したまどかが慌てて口を開いた。

 

「ちっ、違うよ! ハル君の事なんて考えてないよ!? あっ、でも嫌いとかそういう訳じゃないよ!? あの、家族として好きなだけで、あのっ、そのっ……」

 

「うん、分かったから落ち着け」

 

「あぅぅぅ……」

 

「ふふっ……」

 

 苦笑しながらそう言う晴政を見て、まどかは恥ずかしそうに唸る。そんなまどかを微笑ましげに見ながら、仁美はクスリと笑みを浮かべる。

 

「おい美樹、あんまりまどかを刺激すんなよ?」

 

「へへっ、ごめんね、まどか」

 

 そう言って、チロリと舌を出すさやかに悪びれる様子はない。そんなさやかに溜息をつきながら、晴政はまどかに向き直る。

 

「ったく……。で、実際は何考えてたんだ?」

 

 そう問われたまどかは、言い辛そうに俯く。

 

「……笑わない?」

 

「笑わねぇよ。なぁ?」

 

「ええ、笑いませんよ」

 

「当ったり前じゃん! 多分……」

 

 恥ずかしそうに呟くまどかの問い掛けに、若干一名、不安のある回答だが、晴政と他二人は即答する。

 

「うぅ……えっと、じゃあ、恥ずかしいけど話すね? うーん……どこから話せば良いかな……」

 

 両頬に手をやりながら、まどかは話す内容をまとめていく。

 

 そんなまどかに微笑ましげな視線を送りながら、三人は耳を傾けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 見滝原市で若者達が集まる場所といえば、センター街にあるこの大型ショッピングモールである。当然の事だが、まどか達以外の見滝原中生もこの場所を利用していることが多い。

 

 穏やかな春の午後、もうすぐ空が朱く暮れ始めようかという時間帯に、一人の見た目麗しい少女がショッピングモールの入口付近に佇んでいた。見滝原中の制服を着込み、春の清々しい風によって二つに下げた金色の巻髪が揺れている。見滝原中3年、巴マミの姿がそこにあった。

 

「えぇ、そうなの。ちょっと、友達に誘われちゃってね……」

 

 ショッピングモールを見上げながら、マミは耳に当てた携帯電話に話しかける。

 

「今日は先にご飯を食べてて良いから……。ごめんね? うん、うん……ありがとう。じゃあ、また後でね?」

 

 電話を切ると、マミは小さく溜息をついた。

 

(貴方に嘘は吐きたくないけれど……巻き込む訳にもいかないの。許してちょうだい……)

 

 心の中でそう謝辞を述べると、キッと表情を固くして、胸の前で開いた掌に視線を向けた。掌の上には、煌々と光る卵型の宝石が鎮座している。

 

(ここ最近では一番の反応ね。それにしても、よりにもよってこんなに人がいる所に現れるなんて……)

 

 掌を閉じると、マミは瞳を閉じる。

 

(何とかしないと……この街は、私が守らなきゃ!)

 

 そう思いながら、マミはショッピングモールに足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 暁美ほむらは今、最高潮に機嫌が悪い。その原因としては、彼女の視線の先に存在するモノが理由である。

 

 彼女は今、見滝原市のセンター街にあるショッピングモールにいる。ただし、彼女の周りにはきらびやかな洋服などが置いてある店などなく、暗く埃っぽい空間が広がっている。そこは、ショッピングモールの上層階、まだ工事中の場所であり、一般人が入れるような場所ではないのだが、彼女は平然とそこにいた。

 

 そんな彼女の視線の先には、イタチ程の大きさの、白い生物が歩いている。ただし、その白い生物は、おおよそこの世のモノとは思えない体型をしていた。四足歩行の動物と同様に歩いているが、その体はまるで何かのマスコット人形のようであり、現存する動物とは明らかに異なっている。

 

 一方で、ほむらの出立ちも、一般人のそれとは明らかに違う点があった。薄紫を基調とした服装はまだ良い。だが、その左腕には、盾のような円盤を取り付けている。アクセサリーとは言い難い、異形がそこにはあった。

 

「今度こそ、好きにはさせない……」

 

 そう呟くと、ほむらは右手を彼女の眼前まで上げる。すると、虚空に淡い紫の光が走り、次の瞬間には、その右手に黒く光るモノが握られていた。

 

 ベレッタM92F。

 

 アメリカ軍で正式採用されている拳銃であり、各国の警察や軍でも採用されている人気製品である。当然のことだが、この日本において、彼女のような一般人が手に入れることのできるものではない。

 

 しかし、彼女はそれを平然と所持し、尚かつ、白い生物に向け構える。

 

「ここで、終わらせる……」

 

 そう呟き、ほむらはその引き金にかけた人差し指に力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 晴政は今、目が点になっていた。周りを見ると、さやかと仁美も同じような表情になっている。

 

「えぇっ? 何それ?」

 

「訳分かんないよね……」

 

 引き攣った笑みを浮かべながら、さやかが尋ねると、まどかは溜息をつきながら頭を抱えた。

 

 まどかの話の概要はこうだ。

 

 転校初日から、卓越した頭脳と身体能力を披露した暁美ほむら。当然、周囲の生徒達は彼女に殺到した。だが、彼女は体調不良を訴え、保健室に行くことを希望した。その際、同伴者として彼女が指名したのが他ならぬまどかだった。

 

 保健委員でもあるまどかもそれを了承し、ほむらを伴って教室を出たのだが、保健室へ向かう道中、まどかは彼女にあることを言われた。

 

『貴女は家族や友達が大事?』

 

『なら、絶対に今とは違う自分になりたいなどと思わないことね』

 

『さもなければ、全てを失うことになる』

 

 まどか曰く、まるで何かを見透かしたような表情でそのように言われたそうだ。

 

「文武両道で才色兼備かと思いきや、実はサイコな電波さん……。クゥーッ、どこまでキャラ建てすりゃ気が済むんだあの転校生はぁっ!? 萌えかっ、そこが萌えなのか!?」

 

 机に突っ伏してそう吠えるさやかに苦笑を浮かべながら、仁美はまどかに再度確認した。

 

「まどかさん、本当に暁美さんとは初対面ですの?」

 

「うーん……常識的にはそうなんだけど……」

 

「常識的には?」

 

 まどかの言葉に、晴政が不思議そうな表情を浮かべる。

 

「何それ、非常識な所で心当たりがあると?」

 

「あの……ね? 昨夜あの子と夢の中であった……ような?」

 

 さやかの問いに、まどかはたどたどしくそう答える。その瞬間――

 

「「アハハハハハ!」」

 

 さやかと仁美は心底面白そうに笑った。

 

「すげー! まどかまでキャラが建ち始めた!」

 

「ひっ、ひどいよ! 私真面目に悩んでるのに!」

 

「あー、もう決まりだ。それ前世からの因果だわ。アンタ達、時空を超えて巡り合った運命の仲なんだわ!」

 

 ケラケラと笑いながらそう言うさやかに、まどかは渋い表情になる。

 

「夢って、どんな夢でしたの?」

 

「それが、何だかよく思い出せないんだけど、とにかくよく分からない夢だったってだけで……」

 

「もしかしたら、本当は暁美さんと会ったことがあるのかもしれませんよ?」

 

「えっ?」

 

「本人は覚えていないつもりでも、深層心理には彼女の印象が残っていて、それが夢に出てきたのかもしれませんわ」

 

 仁美の言葉に、まどかの隣で聞いていた晴政も頷く。

 

「まあ、普通に考えればそれが妥当だろうな。ただ……」

 

「ただ?」

 

「『全てを失うことになる』ってのは、随分と穏やかじゃねぇな」

 

「うーん……ドラマとかでよく聞く、脅し文句みたいな感じね? まどか、アンタ何かした?」

 

「しっ、してないよ! 本当だよ!?」

 

「まどかさんに限って、人に恨まれるようなことはないと思いますが……」

 

「確かに、そうなんだよなぁ……。でも、人間はどこで恨まれるか分かんねぇし、何とも言えねぇなぁ……」

 

 晴政の言葉に、さやかと仁美も難しい表情になる。まどかに到っては、怯えた様子で瞳を揺らしていた。

 

「まあ、考え過ぎも良くねぇな。だいたい、本当に恨んでるんだったら、わざわざまどかに話しかける必要がねぇ」

 

 真面目な表情から一変、晴政は苦笑しながらそう言うと、三人の少女達の表情も柔らかくなる。

 

「確かにそうよね。恨んでるんだったら、そんな忠告なんてしないで、後ろから蹴飛ばした方が効率的だわ」

 

「うっわ、えげつねぇ……。おっかねぇ女だな、お前……」

 

「フッフッフッ……このさやかちゃんに目を付けられたら最後だぜぇ? 」

 

「あー……そういうノリはちょっと……」

 

「何でよ!? ここはノるところでしょー!?」

 

「だそうだぞ、まどか?」

 

「えぇっ!? 私!?」

 

「まどかはノッてくれるんだね! やっぱり、私の将来の嫁は違うわー。もう結婚しよう!」

 

「しないよ!? 何でそんな話になってるの!?」

 

「うーん、お前らの結婚式はいくら包めば良い?」

 

「ハル君!?」

 

「10万くらいで」

 

「たっけぇ! ったく、しゃあねぇなぁ……。んじゃ、筑紫には友人代表スピーチを頼もうか」

 

「あらあら……大役ですね。どうしましょう?」

 

「仁美ちゃんまでノッた!? もーっ!」

 

 クスクスと笑う仁美を見ながら、まどかは頬をプクッと膨らませる。

 

「あらら……まどかが拗ねちゃった」

 

「ウフフ……ごめんなさいね、まどかさん」

 

 完全にご機嫌斜めのまどかをあやす二人にクスリと笑いながら、晴政は思考を切り替える。

 

(ただ……)

 

 チラリとまどかを視線の端に捉えながら、晴政は一考する。

 

(まどかの体に流れている“血”は、一般人のソレとは訳が違う。この国で、古くから人妖問わず数々の“敵”を葬ってきた、裏社会における名門の血族。長い歴史の中で、その血族に恨みを持った者達は数知れず、今もなお恨みを持っている奴が居たとしても、何ら不思議じゃない……)

 

 機嫌が直ったのか、さやか達と楽しげに話しているまどかに目を細めながら、晴政の思考は続く。

 

(まどかの話通りなら、暁美の言葉は間違いなく何らかの警告。それは、陰陽師の仕事に関する警告か、はたまた別の何かか……それがハッキリしない限り、俺もおおっぴらには動けねぇ……。まあ、警戒くらいはしとくべきか)

 

「あら、もうこんな時間……。ごめんなさい、今日はお先に失礼させて頂きますね」

 

 そう言って、仁美は立ち上がる。

 

「今日はピアノ? 日本舞踊?」

 

「お茶のお稽古ですの」

 

「へぇ……筑紫も大変だなぁ」

 

「もうすぐ受験だっていうのに、いつまで続けさせられるのやら……」

 

 苦笑する仁美を見て、さやかが溜息をつく。

 

「うわぁ……小市民に生まれて良かったわー」

 

「私達も行こうか」

 

「だな」

 

 まどかの言葉に従い、晴政も立ち上がるが、さやかがまどかに小さく呟く。

 

「あ、まどか、帰りにCD屋寄っても良い?」

 

「良いよ。……また上条君の?」

 

「エヘヘ……まあね」

 

 照れ臭そうに笑うさやかを見て、晴政は苦笑する。

 

(何だ、男か? 青春してんなぁ……)

 

 そう思いながら、晴政は出入口付近に目を向ける。

 

(つーか……さっきから平然と浮遊してる奴がいるな……)

 

 店の出入口付近をフラフラとしながら、虚ろな目で道行く人々を見つめる着物を着た妙齢の美女がそこにいた。

 

 美女は晴政と目が合うと、妖艶な笑みを浮かべながら、階段の先へ消えた。

 

(やれやれ……転校初日から早速“仕事”かよ。先が思いやれるね……)

 

 小さく溜息をつくと晴政はまどか達に向き直る。

 

「悪い、俺、本屋行きたいんだ。お前ら、CD屋行くんだろ? ちょっと別行動で頼むわ」

 

「うん、分かった。じゃあ、買い終わったら、私に電話してね?」

 

「了解」

 

 まどかの言葉に申し訳なさそうに頷くと、晴政は先程の美女を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 まどか達と別れた晴政は、一人階段を上がっていく。上層階は未だ整備が終わっておらず、建築資材などがまだそこかしこに置かれている。辺りは薄暗く、夕日もうっすら射している程度だった。

 

『ウフフフフ……』

 

 辺りに響く妖艶な笑い声。その声を聞きながら、晴政は鼻で笑う。

 

(早く来いってか? ハッ、言われねぇでもそのつもりだよ!)

 

 晴政は階段を駆け昇る。そのまま、とある階で立ち止まった。

 

「ここか……」

 

 工事が終わっていないそのフロアーは、所々に鉄骨で組み立てられた足場が設置してあるだけで、ガランとだだっ広い空間が広がっているのだが、光が届かない所為か、どの程度の広さなのか目視では判別がつきそうもなかった。

 

 晴政は険しい表情でそのフロアーに足を踏み入れた。視線は忙しなく辺りを観察しており、彼の警戒心が高まっていることが分かる。

 

(俺の予想が正しければ、さっきの奴は恐らく……)

 

 晴政は慎重に歩みを進める。その動きに、“油断”の二文字は見当たらない。

 

 この時、これまでの経験から、晴政の脳裏には“ある妖魔”の姿が浮かんでいた。その妖魔は集団で行動し、暗闇から一斉に攻撃してくる習性があることから、危険度指標Bランク指定を受けている。

 

 危険度指標とは書いて字の如く、その妖魔、或いは怨霊がどれ程人間に害を及ぼすかを危険度順に『S、A、B、C、D、E』の6つにランク分けしたものであり、Bランクとは『腕利きの退魔師なら単独で担当しても良い』レベルである。

 

 ちなみに、Aランクは『腕利きの退魔師が複数で担当する』レベル、Cランクは『一般の退魔師が複数で担当する』レベル、Dランクは『一般の退魔師が単独で担当しても良い』レベル、Eランクは『新人退魔師が担当する』レベルであり、Sランクに至っては『天災』レベルである。

 

 

 閑話休題。

 

 

 フロアーの中央まで歩みを進めた晴政は、その場でピタリと歩みを止めた。

 

(おかしい……奴らの気配が……無い)

 

 眉間にシワを寄せながら、晴政は辺りを見回す。まるで時が止まったかのように、暗闇と静寂に包まれているフロアー。既に、下の階の喧騒は聞こえない。

 

 注意深く辺りを見回しながら、ゆっくりと歩みを進める晴政。

 

――カツンッ、カツンッ――

 

 辺りには、晴政の靴が地面を鳴らす音だけが広がる。

 

 その時――

 

「ッ!?」

 

 晴政の眼前。突如として、グニャリと空間が歪んだ。

 

「何だ……これ!?」

 

 ジワジワと空間が"侵されて"いく。

 

(これは……奴の能力か? 馬鹿な!? 奴が空間に作用する能力を持っている筈が無い!)

 

 ポケットに忍ばせた護符に手をやり、晴政は臨戦態勢を取る。

 

 わずか数秒にして、"世界"が変わった。まるで、絵画の中に居るような、そんな奇妙な光景が辺りを埋め尽くす。

 

(これは……まさか……)

 

 ここで、晴政はある仮説を立てた。

 

 

 

 

 ――そして、物語はプロローグへと繋がる。

 

 

 

 

 晴政とほむらの間の距離は10メートル弱。互いに、間合いを取りつつ動かない。春政の前方には2体の金剛力士が展開してあり、春政が念じれば即座に敵であるほむらへ飛び掛かるだろう。

 

 対するほむらも、その両腕に支えられた軽機関銃――M249Para――を構えており、トリガーに掛かった指に力を入れた瞬間、晴政を粉砕しようと5.56mmNATO弾がその銃口から吐き出されるだろう。

 

 互いに気を抜けばやられるこの場面、周囲の緊張感が高まる。

 

 次の瞬間――

 

「キャアアアアアッ!」

 

「「っ!?」」

 

 突如として響き渡る悲鳴に、二人は体をビクッとさせる。

 

(今の声は……)

 

「まどかっ……!」

 

 ほむらはそう呟くと、持っていた軽機関銃を消し、晴政に背を向ける。

 

「あっ、おい!」

 

 フワリと飛び去ったほむらに声を掛けるも、既にほむらは何処かへ向かってしまう。晴政は、唖然とした表情でその場に立ち尽くした。

 

「あぁっ、クソッ!」

 

 頭をガシガシと掻きむしり、晴政は金剛力士を元の札の束に戻してカバンに仕舞うと、ほむらの去っていった方向へ走り出す。瞬間、それまで無かった道がドンドンと構成されていく。その光景だけでも、この空間の異常性を表していた。

 

(さっきの声……間違いなくまどかの声だった。って事は、この空間にアイツがいる! ッたく、最悪のタイミングだ)

 

 走りながら、忙しなく思考する。

 

(何で暁美の奴がまどかの窮地に焦るのかは知らねぇが……恐らく、美樹もそこにいるはずだ。この空間にいる脅威がどの程度なのか分からねぇ以上、急がねぇと!)

 

「頼むから、無事でいてくれよ……!」

 

 ギリッと奥歯を噛み締めながら、晴政は走るスピードを上げた。

 

 

 

 

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