されど戯曲は終わらない   作:§K&N§

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第二話 魔法少女
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 夕暮れに染まる部屋には、真剣な表情を浮かべた少年少女達が居た。部屋の中央にあるガラスのテーブルには、ティーカップとケーキが置かれており、それを囲うように少年達は座っている。

 

 一人の少女――巴マミが口を開く。

 

「さて、改めて自己紹介ね。私は巴マミ。貴女達と同じ見滝原中の三年生。そして、キュゥべえと契約した魔法少女よ」

 

「あの……さっきキュゥべえも言ってたんですけど、そもそも魔法少女って何なんですか? それに鞍橋も陰陽師って……」

 

 さやかがそう尋ねると、隣りのまどかも頷く。あれから一時間程経ったため、幾分かは冷静になったものの、未だ二人は混乱の真っ只中にいた。

 

 だが、それも仕方がないだろう。まどかは両親によってそれを秘匿され続けていたし、そもそもさやかはそういった超常現象とは無縁の一般人である。晴政のように、幼い頃から超常現象に関わってきた訳ではないのだ。自分の常識から外れた今日の出来事に混乱してしまう事は、むしろ一般人としては当然の反応だった。

 

「ふむ……どうします? 巴先輩?」

 

「そうね……」

 

(鞍橋君は力を持ってる。彼の目的が分からない以上、こちらの手の内を晒すことは避けたいわね……)

 

「なら、鞍橋君から説明してあげて頂戴」

 

「俺ですか? ……分かりました」

 

(警戒する事は分かっていたよ。だからこそ、先に俺の話を聞いておこうって訳だ。なるほど、中々に慎重じゃないか? ってことは、少なくとも暁美よりはコミュニケーションが取れそうかな?)

 

「さっきも言ったけど、まあ、改めてキチンと自己紹介しとくか……。陰陽庁退魔課所属、鞍橋晴政だ」

 

「陰陽……庁? え……国の機関なの?」

 

「はい、一応ちゃんと国の機関です」

 

「国レベルの組織に居るのね……」

 

 そう言って、ポカンとした表情を浮かべるマミ。まどかとさやかも、思いがけない単語に面食らっている。晴政は、"やっぱりか"と呟きながら苦笑した。

 

「何それ? 陰陽庁なんて聞いた事無い……。えっ? 所属って事は、鞍橋はそこの職員なの!?」

 

 身を乗り出してそう尋ねるさやかに、晴政は首肯する。

 

「キチンと説明するとな、陰陽庁っていうのは、一般的には知らされていない、非公開部署なんだよ。当然、学校とかじゃ教わらないし、テレビやネットとかでも紹介されない。だから、お前らや巴先輩が知らなくて当然だし、知ってる人も、関係者以外は居ないんじゃないかと思う。で、俺はそんな秘匿に溢れた部署のお抱え陰陽師って訳だ。とりあえず、ここまではオッケー?」

 

 晴政の言葉に頷くまどか達。一方、キュゥべえは静かに晴政を見つめている。

 

「よしよし……んで、俺はさっきの大蜘蛛のような妖魔や悪霊から人々を守る仕事をしてるんだ。だから……」

 

「だから、貴方はあれだけ戦い慣れていたのね?」

 

「まあ、ざっくり言うとそういう事です」

 

 晴政の説明を引継ぎ、納得した表情を浮かべるマミに、春政は首肯を以って応じる。

 

「けど、分からない事が一つだけあるわ」

 

「何でしょう?」

 

「貴方達陰陽師が国の管理下にあって、あの蜘蛛のような化物から人々を守っているという事は分かったわ。けど、そこまで大きな組織がどうして今まで秘匿にされてきたの?」

 

「……まあ、その理由自体は色々あるんですけどね、一番大きな理由については、恐らく、"巴先輩達"と一緒ですよ」

 

「……もしかして、そういう事なの?」

 

「はい。そういう事です。世知辛い話ですけどね……」

 

 マミから向けられる真剣な視線に、晴政は苦笑する。

 

 だが、このやり取りに納得いかない者が一人。

 

「ちょっと、二人だけで納得しないでよ!」

 

 さやかである。

 

 その声に、マミと晴政がさやかに向き直る。そこには、困った表情を浮かべるさやかとまどかがいた。

 

「あー……なんつうか、分かんない?」

 

「分かんないわよ! 悪かったわね、察しが悪くて!」

 

「ごっ、ごめんね、ハル君?」

 

 そんな二人の様子に、晴政は小さく溜息を吐いた。

 

(まあ、今までこんな世界は知らなかったもんな。そりゃ、察しろって言う方が無理な話か……)

 

 そう判断すると、晴政は口を開く。

 

「そうだな……お前ら、今日見た事について、どう思った?」

 

「どう思ったって言われても……とにかく訳分かんなかったとしか……」

 

「それに、すごく怖かった……」

 

 2人の言葉に、晴政は静かに頷く。

 

「そう、一般人にとって、未知の存在はただの恐怖でしかない。それを今、国が公的に発表したらどうなると思う? 間違いなく大混乱になるし、下手したら、社会的に大きな損益が生まれるかもしれない」

 

「けど、そんなの警察に任せれば良いじゃない?」

 

「その警察だって、ただの人間だ。奴らみたいな妖魔や異形の存在は巧みに隠れて、一般人には中々感知出来ない。俺達の仕事は、一般人が理解できない超常現象を解決し、国民の生命と国益を守ることだ。そのためには、秘匿しておいた方が都合が良い。だから、世間には公表しないんだ」

 

「でもそれじゃあ、ハル君達は人知れず、あんな怖いモノと戦い続けるの? 誰にも評価されずに? そんなの、あんまりだよ」

 

 真剣な表情でそう言うまどかに、晴政は苦笑する。

 

(優しいまどからしいな……)

 

「まあ、確かにその通りなんだけど、その代わりそれなりの報酬は貰ってるから」

 

「けど、まったく知られないなんて、有り得るの?」

 

 訝しげな視線を向けるさやか。

 

「実を言うとな、幕末辺りまでは、俺達の存在は庶民の知るところだったんだ。ところが、科学の発展と共に、オカルト的な要素はどんどん否定され始めて、昭和初期の辺りで今の現状に至るわけだ。まあ、こと現代社会においては、秘匿しといた方が都合が良かったりするんだけどな」

 

「都合が良い? 何でよ? 警察みたいに動けた方が良いじゃない?」

 

「まあ、身も蓋もねぇ話なんだがな……世間から見たら俺達みたい訳分からん存在は、結構恐れの対象になっちまうんだよ。そうするとな、俺達の力を制御したがる人間が現れちまうんだ。正直、こっちは命を賭けて戦ってるんだ。一々制御しようと干渉されたんじゃ、仕事にならねぇよ。何より俺達自身の命もそれじゃ危ねぇ」

 

「それは……そういう事ね。理解したわ」

 

 苦々しい表情を浮かべるさやかとまどか。この反応から、晴政の真意は伝わったようだ。

 

(まあ、それ以上に、興味本意で一般人にうろつかれたら邪魔でしかないってのが本音だったりするんだがな……)

 

 そう思いながら、晴政は大きく溜息を吐いた。

 

「ここら辺の認識は、恐らく巴先輩も同じですよね?」

 

「そうね……まあ、私達の正体を明かしたところで、まず理解は得られないでしょうし……」

 

 晴政の問い掛けに、マミはそう答えると視線を伏せる。彼女自身、それは身を以って経験している。だからこそ、これまで誰に頼ることもなく、たった一人で戦ってきた。だが、改めてその現実を突き付けられると、気分が沈んでいってしまう。

 

「まあ、そういう事情が俺達にはあるって事だけは覚えておいてくれ。とりあえず、俺達についての説明はそんな所かな」

 

 晴政はそう言ってまどか達を見やると、二人は晴政の言葉を頭の中で整理しているのか、目を虚空に泳がせている。

 

 しばらく沈黙が続く。思っていたより重い内容だったため、まどかとさやかは次の言葉が見つからなかった。だが、意外にも、この沈黙を破ったのはまどかだった。

 

「あの……もしかして、ハル君がこっちに、転校してきたのって、お仕事が関係してるの?」

 

「おっ、鋭いな。その通りだ」

 

 晴政はそう言ってニヤリと笑みを浮かべる。その様子に、まどかも釣られて微笑む。

 

「俺は陰陽庁の長官から、とある現象の調査を命じられた。で、その現象は、他の地域よりこの見滝原の方が多く確認されてるらしくてな? だから俺は、ここに派遣されたんだ。ちなみに、その現象ってのが……」

 

「さっきの現象って訳?」

 

 さやかの言葉に、晴政は首肯する。

 

「加えて、その現象について詳しく知ってそうな存在が居るんだ。それが……」

 

「私達、魔法少女……」

 

「理解が早くて助かります」

 

 マミはそう言って、納得した表情を浮かべる。晴政はそれに満足しながら、キュゥべえに視線を向けた。

 

「ちなみに、今回俺の判断で、人じゃないけど、キュゥべえも重要参考人として扱うから、そのつもりでよろしくな?」

 

「僕もかい? まあ、予想はできていたけどね。ただ、一個だけ教えて欲しい」

 

「何だ?」

 

「君は、魔法少女をどうするつもりだい? その答えによっては、僕は情報を出し渋るよ」

 

「なるほど、道理だな。自らの敵になるかもしれない相手には、情報は与えられないってか?」

 

「その解釈で相違ないよ。それで本題だけど、君達陰陽師は、情報を提供した僕達に対して、どこまで協力してくれるんだい? もし僕達に危害を加えようとするなら、僕は君に教える事は何もないよ」

 

 感情の感じられない赤い瞳が、真っ直ぐ晴政を見つめる。それに対して、晴政もその視線を逸らさない。

 

(そうだった……国民を守る事が大義と言っていたから、つい味方のように思ってしまったけれど、それは別に"私達"の味方であるという証明にはならない。ここは、慎重に見極めなければ……)

 

 そう思いながら、マミは鋭い視線を晴政に向ける。直後、重苦しい空気が部屋に広がる。まどかとさやかは、その空気を感じ取ったのか、オロオロしながら無言で成り行きを見守っている。

 

「それはそちらの情報次第だな。もし、あの現象を起こして人々を襲っているのが魔法少女だと言うのなら、俺は即座に魔法少女を拘束し、然るべき場所に移送しなければならない。加えて言えば、抵抗しようものなら排除する事も辞さないつもりでいる」

 

「排除ですって? 随分乱暴なことをするのね? それが、国民を守る"正義の味方"のすることなのかしら?」

 

 険しい表情を浮かべながらマミがそう言うと、晴政は涼しい表情で言葉を返す。

 

「はぁ……巴先輩、あのですね、勘違いなされているようなので先に言っておきますが、ここで言うところの"正義"とは、俺達()の考える正義であって、一般的な勧善懲悪といったようなモノとは違うとお考えください」

 

「なるほど……"貴方達の正義"に見合わないようなモノは、悪と見なし暴力で以って排除する。つまり、そういう事ね?」

 

「まあ、全部の事象にそうする訳ではありませんが、否定はしませんよ。というより、それが国益と国民の生命を守る事に繋がるのなら、俺達は躊躇いません」

 

「もし、正義(貴方達の都合)にそぐわない力を振るう相手が人間でも、同じ事が言えるのかしら?」

 

「無論です。それが俺の仕事ですから」

 

(迷い無く断じ切った……。って事は、私達も排除される可能性があるわね……)

 

 晴政の言葉を聞きながら、マミは警戒心を露わにする。それを見て、晴政は苦笑した。

 

「アハハ……そこまで警戒しないでください。今のはあくまでも一つの例です。むしろ、話の内容によっては、こちらが全面的に協力、援助する事も有り得ますので、悪い話ではないと思いますよ? ……まあ、実際に巴先輩達(魔法少女)(くだん)の現象を起こして人を襲っているなら話は別ですけどね?」

 

 そう言って、晴政は鋭い視線をマミに向ける。

 

『キュゥべえ……貴方はどう考えてる?』

 

『まあ、ある程度は話しても大丈夫だと思うよ。僕達は別に、魔女を使役して人を襲ってる訳じゃないからね。うまく行けば、魔女退治を手助けしてくれるんじゃないかな?』

 

『そうね……なら、少し話してみようかしら……』

 

 マミはそう決断すると、晴政の問いに答えた。

 

「……それについては否定させてもらうわ。むしろ、私達は"魔女"を狩る立場だもの」

 

「魔女?」

 

「さっきの空間を作った犯人のことよ。私達はそれを、魔女と呼んでいるの」

 

「ふむ……それで、その魔女っつうのは、一体何なんですか?」

 

 晴政がそう尋ねると、テーブルに座ったキュゥべえが答えた。

 

「魔法少女が人々に希望を与える存在だとするなら、魔女は人々に絶望を振りまく存在だ」

 

「ちなみに、理由の分からない事件や事故は、魔女の仕業である確率が高いわ」

 

 マミの補足に、まどかが質問を投げ掛ける。

 

「でも、そんな怖い存在なのに、どうして誰も気付かないんですか?」

 

「魔女はね、普段は結界の奥に潜んでいるの。加えて、その結界は普通の人には見えないから、まず気付かれないでしょうね」

 

 マミがそう答えると、晴政は納得した表情を浮かべた。

 

「なるほど。つまりさっきの空間は、魔女の結界の内部だったと?」

 

「そういう事。そして、魔女は人を襲う時だけ、結界内を動き回るの」

 

「それがさっきの毛玉ですか?」

 

「あれは魔女の使い魔よ。大抵は、魔女の近くで、集団で動き回っているわ」

 

「ふむ……ボスに群がる下っ端みたいなモンですかね?」

 

「まあ、その解釈で問題ないわね。とにかく、魔女はとても危険な存在なの。放っておいたら、人々にどんな危害が及ぶか分からないわ」

 

「だから、人々を守るために、巴先輩達(魔法少女)は魔女を狩る……と?」

 

「少なくとも、私はそうよ。けど、全ての魔法少女がそう考えてる訳じゃない」

 

「例えば、暁美ほむら……ですか?」

 

 晴政の言葉に、マミは首肯する。

 

「アイツ、ホンットにムカつくわ! 魔法少女は正義の味方なんでしょ!? なのに、まどかとキュゥべえを襲うなんて、最低よ!」

 

 ほむらの存在を思い出したのか、さやかが吼えた。

 

「けど、何でアイツはキュゥべえを襲ってたんだ? 巴先輩、何か分かります?」

 

「多分、これが理由ね」

 

 そう言って、マミは黄金色に輝く宝石を取り出した。

 

「うわぁ……」

 

「綺麗……」

 

 その輝きに、さやかとまどかが歓声を上げる。だが、晴政はある事に気付いた。

 

「……ん? その宝石、さっきより濁ってません?」

 

 晴政の言う通り、マミの(てのひら)で輝く宝石は、中が微かに黒ずんでいる。

 

「よく気付いたわね? これは……」

 

 そう言って、マミは宝石--ソウルジェムについて説明を始めた。所々、キュゥべえによる補足をはさみながら説明するマミを見ながら、晴政は微かに違和感を感じる。

 

(ソウルジェムとグリーフシード……この2つの関係は分かったけど、どうも何かが引っ掛かる……。多分、何か隠してるんだろう。まあ、初日で全部分かるとはこっちも思っちゃいねぇからな。ここは慎重にいこう……)

 

 そう思いながら、晴政はマミとキュゥべえに視線を戻す。ちょうど説明が終わったようだ。

 

「……とまあ、こんなところかしら? 纏めると、キュゥべえに選ばれ、契約した者だけがこれを手にするの。つまり、これは魔法少女である証って訳ね」

 

 マミがそう締めくくると、まどかとさやかの前にソウルジェムを置く。二人はキラキラした目でそれを見つめていた。

 

「こんなに綺麗な宝石がゲットできるなら、アタシも契約しちゃおうかなぁ……」

 

「さやかちゃん、いくら何でも理由が軽過ぎだよ……」

 

「……美樹はギャンブルで大損するタイプだな」

 

「何だとー!?」

 

「ウフフ……」

 

 三人のやり取りに微笑むマミ。実に和やかな場面だが、その一方で、キュゥべえは晴政を見つめ思案する。

 

(僕の事が見える段階で只者ではないと思っていたけど、やっぱり陰陽師だったか。昔から、彼らだけはどうもやり辛かったんだけど……まあ、良い機会だ。しっかり観察させて貰うよ、鞍橋晴政)

 

 感情のない2つの紅い瞳が、晴政を映し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、晴政達は話し合いを重ね、マミからの提案で、まどかとさやかの二人に対して、魔法少女体験ツアーをしてみようという話に落ち着いた。勿論、それに晴政も同行する事となっている。

 

「魔法少女かぁ……。何だか、夢でも見てるみたい……」

 

 晴政の隣りを歩くまどかは、夜空をみあげながらポツリと呟く。

 

 マミの家を後にした晴政達は、さやかを家まで送り届け、帰宅の徒についていた。

 

「まどかは魔法少女になりたいのか?」

 

「んー……どうだろう? あんまりにも急過ぎて、どうしたら良いかよく分からないのが本音かなぁ」

 

 晴政の言葉に、まどかは困った表情を浮かべる。

 

「……俺は、あまりお薦め出来ないな」

 

「えっ……?」

 

 まどかはキョトンとした表情とした表情を浮かべる。対する晴政は、気難しげに眉をひそめていた。

 

「それは何故かな、晴政?」

 

 まどかの腕に抱かれたキュゥべえが間髪置かずに尋ねる。

 

「魔法少女になるって事は、魔女と戦い続けるって事だろう?」

 

「けど、その代わり僕はどんな奇跡でも起こしてあげられるよ?」

 

「確かに一見すると、それはとても魅力的見える。だが、その一回の為に一生戦い続けるなんて、割りに合わないだろう?」

 

「なるほど、確かにそういう考え方もあるね。けど、戦ってもらう代わりに、僕はどんな"奇跡"でも起せる。それこそ、君達人間がどんなに努力しても叶わないようなものでもね。例えば、死人を生き返らせたり、時間を遡らせたり……本当に、何でも叶えてきたよ」

 

 キュゥべえはそう言って、まどかの顔を見つめる。

 

「まどか、君は叶えたい願いは無いのかい? 君には素質がある。きっと偉大な魔法少女になれるよ」

 

「えっと……」

 

 キュゥべえの言葉に、まどかは目を白黒させながら悩む。

 

「待てよ。まどか、そう簡単に決めんな。戦い続けるって事は、そんなに甘いもんじゃねぇ。当然だけど、苦しみが付き纏うものだ。素質とかそういう問題じゃねぇんだよ。下手したら、死ぬかもしれないんだぞ?」

 

「あぅ……」

 

 晴政が目を細めてそう言うと、まどかは困ったように眉をひそめた。

 

「まあ、じっくり考えておきなよ。僕はしばらくまどかの傍にいるつもりだし、分からない事があればいつでも聞いてくれて良いよ」

 

「うん、ごめんね、キュゥべえ。やっぱり、すぐには決められないよ……」

 

「構わないさ。僕はまどかが結論を出すまで、じっくり待つ事にするよ」

 

「……………」

 

 まどかとキュゥべえの会話を聞きなぎら、晴政は熟考する。

 

(随分まどかに対してご執心じゃねぇか。偉大な魔法少女になれる素質があるとか言ってるけど……やっぱ"一族の血"が関係してんのかな?)

 

 晴政はまどか達に視線を移す。一人と一匹は楽しそうに会話をしている。

 

(やれやれ、こっちの気も知らんで、楽しそうなこった……)

 

 そう思いながら、家路へ急ぐまどか達を見守る晴政だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の帳が降りきり、輝く星々を散りばめた空を眺めながら、マミは先程まで居た後輩達に思いを馳せていた。

 

(まさか、魔法少女(私達)以外で魔女に対応出来る存在が居たなんて、知らなかったな……)

 

 ベランダの手すりを握り締め、マミは晴政の戦闘を思い出す。

 

 呪符の集合体である2体の巨人を操り、大蜘蛛の群へ攻勢を仕掛ける晴政の姿は、明らかに戦闘慣れしていた。戦闘時の位置取り、術式を仕掛けるタイミング、術式自体の強度、どれを取っても一級品と言わざるを得なかった。

 

(恐らく、彼は私達のところに蜘蛛が行かないように立ち回っていた……。それが出来るだけでも、間違いなく強い……。そんな人間が、国のお抱えエージェントという事は、他にもあのレベルの人間が存在していると思った方が良さそうね……)

 

 これまでマミは、自身の持つ異能の力は魔法少女(キュウべぇに選ばれた人間)しか使えないと思っていた。故に警戒すべきは、魔女と、自身と同じ魔法少女だけと、いつしか思い込んでいた。

 

「……っ!」

 

 自身の見通しの甘さに、ギリッと奥歯を噛み締め、眉間に皺を寄せる。

 

(認識を変える必要があるわ……。今後、他の勢力と衝突する可能性も充分あり得る。敵となるのは"魔女"だけじゃない。"人間"による侵攻もあり得るんだ……。この見滝原で、もしそうなった時、私は……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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