ダンガンロンパ短編集 作:弾丸 論破
最原終一の、とある夜の一幕
僕、最原終一は、ダンガンロンパと呼ばれる、視聴者参加型のデスゲームを強制された。正確には僕自ら志願したのかも知れないが、今となっては真実を知ることはできない。
才囚学園と名付けられた檻に閉じ込められ、その中での大切な仲間との出会い、そして別れの連続……得るものはなく失ってばかりの辛く悲しい日々だったし、その果てに待っていた、全て
それでも僕らは諦めず、何とかこの理不尽なデスゲームを終わらせるべく奮闘し、決断をして、結果生き残ることができた。最後には諦めていたとはいえ、それを選んでもらえた以上はこれからのことを考えていくべきだ。
………そうするべきなのだが、今僕らは、とある危機に直面していた。
僕の両隣には、共に生きて学園から出ることが叶った二人、夢野秘密子と春川魔姫がいるのだが、二人もまた絶句していた。僕らは学園から外に出て、これからどうするかを話し合おうとしていたのだが………目の前にはあまりにも衝撃的な光景が広がっていた。
「な、なんじゃこれは………!?」
「……っ、成る程、白銀の言ってたことは嘘じゃなかったってことね」
「そう、みたいだけど、でもこれは一体………」
どういうことだ、という僕の掠れた呟きは、押し寄せてきた喧騒に掻き消された。
「出てきたぞ!あれが生き残りの三人だ!」
「カメラ回せ!」
「すいません、最原さんですよね!?最後のお話をしていたときの心境を教えていただけませんか!?」
そこには、数百を数えるほどのカメラをこちらに構えた報道陣と、さらにその十倍はいるだろう野次馬たちが大勢待ち構えていたのだ。
どうやら、最後に白銀さんが話していた平和で退屈な世界というのは本当だったらしい。簡単に説明すると、僕たちは軽く時の人扱いを受けたのだ。
これまで53回も続いていたダンガンロンパを終了させ、希望でも絶望でもない、新たな道を選び抜いた三人。
悲しみを乗り越え、フィクションすらも受け入れ先に進んだ勇敢で聡明な三人。
とんだ過大評価というか、事実誤認もいいところだが、あのコロシアイを娯楽として楽しんでいた世界だ。やはりフィクションの存在であった僕らとは感性が違うのだろう。
話を戻そう。それから僕らは、『チームダンガンロンパ』と名乗る会社の人達に保護された。彼らはダンガンロンパを運営していた会社だ。曰く、直接手を下した人はいないにしても、10日近くコロシアイゲームを行っていたのでいきなり普通の生活に戻すわけにはいかないし、できないだろうから我々の保護下のもと生活をしていただく、とのことだ。
要は社会には危なくて出せないから俺らの監視下で生活してね、ということだ。あんなデスゲームを運営しておいて何を言っているのだと思う。
夢野さんはかなり不満そうな顔をしていたし、春川さんに至っては「殺す………」などと呟いていた。もうコロシアイは終わらせたのだから、その物騒な考え方は止めた方がいい気もするが、超高校級の暗殺者、なんて記憶を植え付けられているわけだししょうがない部分はあるのだろう。
かくいう僕も、あの憎いゲームを運営していた会社に保護されるというのは良い気はしない。だが、もうダンガンロンパは行われないという決断に至っているし、それが破られることは僕らがこんな扱いを受けている時点で無いだろう。
それにあの世界はフィクションであるということを認めた上での説得なわけだし、本来なら僕らは死んでいたのだから、変な意地を張るよりも「生きる」ことを大切にするべきだ。
僕らはその後、彼らの保護下で再び高校に通うことになった。一応高校は卒業、というより修了したが、まだ高校生としての勉強は修めていないからだ。
とはいえ僕らは文字通り超がつくほどの有名人。普通の高校には通うことはできないので、通信制と呼ばれる、登校が必要のない学校に通うことになった。
それから半年ほどが過ぎた。
季節は秋から冬へと移りゆくちょうど間、という頃合い。僕は順調に学生生活を営んでいた。『超高校級の探偵』という能力のお陰か物覚えもかなり良かった僕は、通常三年かかると言われたカリキュラムのうち、既に半分ほどを消化していた。
植え付けられた記憶のお陰、というのは複雑な気分だが、それが今の自分であると考えると、不思議と納得できてきた。
「はあ……なんていうか、もう少し難しい問題はないのかな?」
「へえ?流石は超高校級の探偵さん、今の問題は簡単すぎるって言いたいわけ?」
「え、違うよ春川さん、もう少し………なんというか、深いところの頭を使うような問題っていうか………」
「最原は何を言っておるのじゃ………?」
「さあね…」
僕は今、チームダンガンロンパが所有している特別な呼ばれる家に住んでいる。名前の通り、本来は社員に住まわせる家だが、特別に使用許可を出したのだとか。
この会話から分かる通り、僕と春川さん、そして夢野さんの三人で一緒に生活をしている。もちろんそれぞれに自室は与えられており、そのそれぞれの部屋に風呂やトイレは設置されているのだが、こうして共用スペースとなっているリビングに集まり話したりすることもよくあった。
そして今は、週に1、2回行われている勉強会の途中だ。
(た、確かに自分でも途中から何言ってるのか分かんなくなってきてたけど!)
「でも、正直羨ましいわね、その才能は。私ももう少し日常生活でも使える才能だったら良かったのに。」
そう言って、春川さんは動かしていた手を止め、ペンをノートの上に放り投げてそのまま机に突っ伏した。
「そうじゃのう………うちなんて魔法使いじゃからなあ…」
夢野さんは既に教科書を開いてすらいない。さっきからノートのページを破いては丸め、もう一度開いて中からビー玉を取り出す、という謎のてじ……魔法を披露している。
どうやら、春川さんも夢野さんもあまり勉強は得意ではないらしい。特に夢野さんは勉強が苦手な性格らしくこうしてしょっちゅう愚痴をこぼし、僕や春川さんに教えてくれと頼んでくることも多かった。
そして、春川さんは教えられるほどに勉強ができている訳ではない。そうして僕のところに夢野さんを押し付けに来て、じゃあ三人で勉強しようか、と提案したのがこの勉強会の始まりだ。
「………そう言えば」
「んあ?なんじゃ?」
「確か夢野さんって
「うぐっ」
「そういえば、そんなこと言ってたね。あれ、それなのにこのレベルの問題を覚えることはできないんだ?」
「うぐぐっ」
ニヤリ、と春川さんの口元が僅かに緩まる。この半年で、彼女は大分感情が豊かになっていた。同じ立場の僕が言うのもおかしいが、超高校級の才能を植え付けられたとはいえやはり高校生。半分は大人になっていても、半分は子供であり、こういう悪戯な顔も十分年相応と言えるだろう。
夢野さんは被っている三角帽子を深く被り目元を隠そうとして、もう自分は被っていないことに気がついて頬を染める。
その様子を見た春川さんが、一層悪そうな顔になった。
………なんか春川さんって、最近百田くんに似てきたよなあ………いや、この意地悪さは王馬くんか?やっぱり大切な人の真似はしたくなるものなんだろうか?
「最原、どう思う?やっぱりあれは嘘だったってことになるよね?」
「なあっ!そ、そんなわけがないじゃろう!これはその、あの、えっとじゃな………」
春川さんからは「ほら、もっと言っちゃって」みたいな視線、夢野さんからは「助けてくれぃ」みたいな視線をそれぞれ送られる。
どっちの味方をするべきか少し迷うが、半泣き状態の夢野さんは、これ以上弄ると本格的に泣き出してしまいそうな感じがする。
感情を表に出してくれるようになったのは嬉しいが、かといって泣かれるのは冗談でも気持ちが悪い。というか春川さんも多分そろそろ止めどきだと思って僕に振ったのだろう。ここは夢野さんに助け船を出すことにしよう。
「ま、まあ得手不得手っていうのは誰にでもあるしさ。夢野さんは魔法が好きで勉強が嫌いってことでしょ?」
「!そ、そういうことじゃ春川よ」
「………ふーん、そうなんだ………」
夢野さんからは感謝するような、春川さんからは落胆と安堵が半々といった視線を送られた。どうやら正解だったらしい。
こういうさりげない会話さえも、ほんの半年前までは到底想像できなかったことだ。半年経った今でも、あの頃の夢を見ることがある。
戻りたい、とは思わないが、懐かしい、とは感じる。これもまたイコールではないということなのだろうか。
「んあー?最原よ、どうしたのじゃ?急に黙りこんで」
「え、いやあ、ちょっと眠くなってきちゃってね」
「………この勉強会を始めたのが8時だったから、もう三時間近く経ってるね。最原、私はそろそろ寝るとするよ。明日は朝から用事かあるから」
「用事?初耳なんだけど、どんな用事なの?」
すると彼女は、何かを言い淀むようにした後、別に隠すようなことじゃないんたけど、と続けた。
「私ね、明日からベビーシッターのバイトをやってみることにしたんだ」
「え、えええ!?」
「な、なんじゃとーー!?」
思わずオーバーなリアクションをとってしまう。夢野さんも聞いてはいなかったらしく僕と似たような反応をとっている。
「………それって、どういう………?」
「………前も教えたことなんだけどさ、私って孤児院出身で周りの子達から好かれてた、っていう記憶を植え付けられてるんだけど、そのせいか小さい子の面倒をみる仕事がしたい、って感じてたの」
「………………」
僕は黙って先を促す。夢野さんも黙って聞いている。
「それで、三ヶ月くらい前から色んな会社を回って雇ってもらえる所を探してたんだけど………」
「ようやく見つかった、ってわけか」
「うん………そう。」
喜ぶべきだろう。彼女をあのゲームの生き残りだと知りながら、それでも雇ってくれるという判断をしたということは、それだけ彼女が世界に馴染んできたということだ。
何故だか分からないしこりを胸に残しつつ、春川さんに頑張ってね、と告げ、リビングを出ていく彼女を見送った。
それからまもなく、僕も本当に眠気が襲ってきたので自室に戻り風呂に入った。そして現在、ベッドに寝転んで天井を見つめている。
時刻は日付を回ったあたり。夢野さんは僕と同時に解散したのでまだ分からないが、春川さんはもう眠っているだろう。
天井を眺めながら、僕は考え事をしていた。
(僕は何で、春川さんが話してくれたとき、ショックを受けたんだろうか………?)
ショックといっても、知らなかったことを知ったから、というわけではない。なんというか、この感覚は、前にも経験したことのある………
『トントン』
「ん………?」
部屋の扉をノックする音が聞こえた。耳を澄ますと、
「さ、最原~、起きておるかー………?」
この声は、夢野さん?
起き上がり、扉の近くまで行き扉を開ける。そこには予想通り、薄いピンク色のパジャマに身を包んだ夢野さんが立っていた。
「どうしたの?もう日付も変わってる時間だけど………?」
「ん………少し話したいことがあっての。良ければ入れてくれんか?立ち話ではなんじゃ」
「別に構わないけど………どうしたの?」
「すまんの。失礼するぞ」
後者の問いには答えず、そのまま部屋に入ってきた夢野さん。室内にある椅子に座るよう進めると、構わんでいい、と言い、なんと
「………えっ、と、本当にどうしたの?」
流石に不審に感じてしまう。普段の彼女らしくない、なんというか戻ってしまったような感覚に陥ってしまう。
と、そこまで考えてようやく、自分が何に対して動揺していたのかを理解した。
(………そうか、つまり僕は………)
彼女の隣に腰を降ろす。僅かに驚いているようだが気にしない。彼女の目をみて、ゆっくりと話し始める。
「………春川さんのことだよね?」
「……やはり、お主も、感じていたのじゃな………?」
不安、そう、不安。一体何に対して?そんなのは決まってる。
「うん………」
僕は変化していく彼女そのもの………正確には、彼女が馴染んでいこうとしている社会に不安を感じたのだ。
「最原………ウチは、怖いんじゃよ。あのゲームを娯楽として見ておった社会が、ウチらを呑み込もうとしてきておるようで…」
「うん………」
「やっと解放されて、ほとんど死んでしまったが、それでも生き残ったお主と春川、二人と、今度こそ本物の『生』を、享受できるのじゃと、もう誰にも理不尽に奪われない生活を送ることができると、そう考えていたのじゃ」
「………僕も、きっと春川さんだってそうだよ。」
「………でも、春川は外に馴染んでいこうとしておる。ウチらを、置いて、行ってしまおうと、しておる……!」
徐々に目元に涙が浮かんでくる。この涙は、また同じことが繰り返されるのではないかという恐怖と、春川さんを、仲間を奪われてしまうという不安が織り交ざったものだろう。
「………っ、なあ、お主は、大丈夫じゃな………?」
「………え?」
だからこそ、そんな絞り出すような一言を聞いて、僕は凍りついた。
「最原、お主は、ウチを置いては、行かんよな………?」
そのすがるような目線には、紛れもなくあの時の、全てを諦め、死すら受け入れようとしていたあの時の彼女に重なる狂気を感じた。
(………夢野さん………)
僕は何と答えるべきなのだろうか。ここで置いては行かないよ、と答えることが正解だとは思えない。
(………………………でも)
しかし、突き放すというのは間違っている。
夢野さんはこの半年間続いてきた生活が終わってしまうことを恐れているのだろう。だが、この生活はいつかは終わる。いつまでも同じ時間が続くことなどあり得ない。
そんな簡単なことを忘れてしまうほどに、今の彼女は混乱してしまっている。
僕は一度目を瞑り、冷静になるよう努める。この得体の知れない不安に襲われている彼女を、助けなければいけない。
「あのさ、夢野さん。春川さんは、別に僕たちを置いていこうとしている訳じゃないと思うよ。勿論僕だってそんな気はない。だって僕らは、仲間なんだからね」
「仲間、だということは、ウチだって分かっておる。じゃが………」
そう、仲間なんだ。世界に勝ったあの瞬間………いいや、もっと遡れば最初、赤松さんを中心に団結したときから、僕らは仲間だった。
フィクションとして、仕組まれていた通りにコロシアイをしてしまったが、それでもみんな、間違いなく団結した瞬間は確かにあった。その時の暖かさがあったからこそ、僕らは今こうして生きている。
「置いていくんじゃないんだ。少し先に進んでいるだけなんだよ。春川さんは、大切なこと、自分がつくる本当の世界で何をしたいかを、僕らより先に見つけてるだけだよ」
「………………」
夢野さんから返事は返ってこない。だが、涙はもう止まっていた。
「僕はまだ見つけられてないからね。探偵になりたい、っていうのはあるけど、ここは現実の世界だから、簡単じゃあないから、もう少し考えないといけないかな………」
「………じゃあ、ウチと一緒に、探してみんか?」
「もちろんだよ。春川さんだってちょっと先に進んじゃったけど、相談すれば真剣に考えてくれると思うよ。特に夢野さんは、春川さんにも好かれてるみたいだしね。」
「うむ………そうじゃな。同じペースで、というわけにはいかないものな………」
彼女の目をみると、やや赤くなってはいるものの、先ほど感じた狂気は消え去っていた。ホッと息をつき、テーブルに置いてあったペットボトルを掴み水を飲む。
「………そうじゃ、今夜は一緒に寝ないかの?」
その一言を耳にして、ゴホッ、と思わずむせかえってしまった。
「な、なんでそうなるのさ!?」
いくらなんでも突拍子がなさすぎる。
「か、勘違いをするでないぞ?少し心細いからというだけで、他意はないんじゃからな?」
「………なら、春川さんと一緒に寝ればいいんじゃない?」
「何を言うておるのじゃ?あやつは明日早いと言うておったではないか。起こすのは忍びないのじゃ」
「いや、でもさ………」
「なんじゃ~?仲間じゃろう?これくらい別に普通ではないか?」
「………………………」
目を見て悟った。これは、乗りきれないやつだ、と。
だがしかし、やましいことがあるわけではない。ならば、精神的に不安定な今日くらいは、いいのだろうか。
「んあー、誰かと一緒に寝るというのは、いつ以来じゃろうか………」
「ち、ちょっと夢野さん、なんでこっちに寄ってくるのさ!?」
「離れては一緒に寝ておる意味がなかろう?」
「意味ってなん………うわわっ、引っ付かないでって……!いい加減にしないと怒るよ!?」
「お主がそんな玉じゃないことは知っておるわ!今日はおとなしくしておくんじゃな。………それにあまり大声を出すと、春川が起きてくるかも知れんぞ……?」
「!!」
「フフっ、見られたくないのか?他意はないというのに?」
(…………はあ、やっぱり断れば良かったかな?)
結局この夜は彼女が寝付くまで散々ちょっかいを出されて眠れず、翌朝なかなか起きてこない僕の様子を見に来た春川さんによって見つかってしまうことになるのだった。
書き終わって見直すとただの最夢ssな件。