東方九心猫   作:藍薔薇

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東方妖々夢
紫様、起きてください


 ゆっさゆっさ。ゆっさゆっさ。

 

「紫様、起きてください」

「……むにゃ」

 

 ……駄目です。もう小一時間肩を揺すっているにもかかわらず、全然起きてくれません。いい加減この役を譲りたいくらいです。ぐーたらな寝息と口端から垂れてしまっている涎で、正直見るに堪えない姿なのですが、それはさておき。しかし、私は諦めませんよ。紫様には早く目覚めてもらわねばならないのです。既に冬は過ぎ去っているのですからね! ……まぁ、もうかなり前に過ぎているのは内緒です。

 ゆっさゆっさ。ゆっさゆっさ。

 

「紫様、起きてください」

「……んぁ?」

 

 あっ! ようやく! 本当にようやく目を開いてくれましたね紫様! まだ寝ぼけ眼で頭が回っていなさそうな間抜けな顔ですが、それでも目覚めてくれたのですね!

 私は慌てて口を開き、とりあえず思い付いたことをそのまま口に出しました。

 

「紫様! もう五月なのですから、冬眠はもうお終いですよ!」

「……こんなに寒くて春なわけないわ。寝る」

「あぁっ!? 紫様ぁ!?」

 

 何と言うことでしょう!? せっかく目覚めてくれたというのに、またその瞼を閉じてしまいました。確かに外ではまだ雪が降っていますが、それでも暦上では既に五月。春なのです。起きて下さらないと、藍の仕事が普段より増えて増えてしょうがないですし、この異常気象について考えてもらわねばなりませんし、このまま再び眠ってしまっては困るのです……!

 

『代われ、邪魔だ』

『あっ』

 

 ……その意識が僅かに揺らいだ刹那、内側から()()()()。それと同時に、私は内側へと押し込まれてしまう。

 

「いい加減目覚めやがれ! こんのババアーッ!」

「げふぅ!?」

 

 あぁ!? 紫様が掛け布団から引き剥がされ、両手両足をそれぞれの手でガッチリと握り締めて固定されながら頭を支点にして背中を逆側に曲げられてしまっています!? あれは痛そう! それはもう物凄く!

 

『紫様に何てことを!』

『けっ! 酷ぇ真似しやがる……』

『起こすためならばあそこまでする必要はなかったでしょう?』

『……ふぅん』

『まぁっ!? どうしましょう!?』

『まぁ、当然の結果だな』

『おっ、派手な技やってんじゃん!』

 

 いや、止めましょう!? ほら、紫様がこのままだと別の理由でまた眠りに就いてしまいますから!

 そう考えていると、内側からまた一人出ていく。そして、表にいるのを引きずり下ろしながら話し始めた。

 

『……これ以上は紫様が危険です。もうおよしなさい』

『ハッ! 起こせっつわれたのはこっちだぜ?』

『だとしても別の方法があるでしょう!?』

『るせーっ! いつまでもババアの馬鹿面眺めてんのがムカつくんだよ!』

 

 ……あぁ、この隙に行け、と。はい、分かりました。いつもすみませんね……。

 ギャーギャー言い争っている二人の脇を通り、私は浮上する。そして、表に出てすぐに頭の上に乗せられている紫様の背中を下ろし、両手両足を掴んでいる手をパッと離す。布団の上に落された涙目な紫様が私を見上げている。……それはもう、キッツい視線で。

 

「……いきなり何するのよ、(さい)

「申し訳ありません。……ですが、起きない紫様も悪いです」

「はぁ……。うぅ、寒い」

「そうですね。ですが、もう冬眠はさせませんよ」

 

 そう言いながら微笑む。もしも紫様がまた寝てしまうようなら、その時はどうしてあげようか? やっぱり、別の誰かに任せるのがいい。私がやるよりも過激的で攻撃的なことをしてくれるはずだ。うん、そうしよう。

 

『それより、話すべきことがあるでしょう?』

『あぁ、そうだった。代わってくれません?』

『いいでしょう』

 

 私が説明するより、今出て来てくれたののほうが分かりやすく話してくれるはずだ。そう考え、私はささっと内側へと戻って交代する。

 

「紫様。私は冬が明けたら貴女を起こすよう任されていました。確かに冬は明けていませんが、時は既に五月。もう起きるべき時期でしょう」

「え、えぇ……。確かに、ふぁ……、そうね」

「そして、五月にも関わらず未だに雪が降り積もるのは異常気象です。何らかの人為的原因があると思われますが、紫様はどうなさいますか?」

「ちょっと待って。まだ寝起きで考えがまとまらないわ」

 

 おぉ、やっぱりちゃんと説明していて真面目だなぁ……。

 

『だーかーらー! 起きたから別にいいだろうが―ッ!』

『よくありません! 紫様に傷の一つでも付いたらどうするのですか!?』

 

 ……こっちはまだ言い争ってるよ。代わらせてくれたのは嬉しかったけれど、うるさいのは何とかしてほしいわ。

 

『ま、いつものことだ。我慢しな』

『そうですね。我慢するしかないですよねー……』

 

 我慢しなきゃならないのは分かってるけれど、やっぱりうるさいものはうるさいのだ。そんな風に雑に慰められながら、私は表の様子を窺う。

 繭のように掛け布団に包まった紫様は難しい顔を浮かべています。その頭の中ではきっと素晴らしい考えが浮かぶに違いありません。

 

「……どうしましょう?」

 

 ……前言撤回。そんなことなかったです。

 

「では、私が調査に出掛けましょう。紫様は藍とも話してください」

「……えぇ、そうね。彩、何か分かったら連絡しなさい」

「了解しました、紫様」

 

 そんな話を聞いていると、表から戻ってきたのが何故か私を引っ張り始めます。

 

『話は終わりました。さぁ、貴女の番ですよ』

『いやいや! あのままでいいでしょ別に!』

『なら僕代わるー!』

『『あっ』』

 

 ちょっとの間表に出るのを譲り合っている隙に、別の一人がささっと浮上していってしまった。……えぇと、どうしよ。

 

「ゆかりん! いってきまーす!」

「え、えぇ……。いってらっしゃい、彩……」

 

 表のが無邪気に笑いながら駆け出し、外へと飛び出していく。いいのかなぁ、こんな調子で?

 

『いつもの事だろ?』

『ですよねー』

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