パチ、パチッと薪が爆ぜる。いい音しやがる、と五匹の川魚を焼いている焚き火を見詰めながら思う。さっき捕まえたばかりで鮮度バツグン。味付けなしだがいい味出してくれるはずだ。焼き上がるまではまだ時間がかかるから、俺はじっくり待ち続ける。時折、恐れ知らずな鳥が急降下して勝手に取りやがるから油断は出来ねーがな。
そう思いながら待っていると、ふと近くからカサカサと草葉がこすれる音が聞こえてくる。すぐに音のした方に目を向けてみれば、草の中から頭だけを出した小せー猫がいた。
「……なんだよ」
その猫の視線が俺の焼いている川魚に向いていることに気付き、すぐに睨み付けてやった。やるつもりなんざこれっぽっちもねー。帰れ。
しかし、この猫は怯むことなく、むしろ俺に擦り寄ってきやがった。オイコラ、頬を押し付けんな! 毛が付くだろーが!
「コラ、あっち行け!」
そう言って片手で軽く払ってやっても、猫は意に介することなく俺のすぐ隣に陣取りやがる。……コノヤロー、まさか焼けたところを掠め盗ろーなんざ思っちゃいねーだろーな? 俺がちょびっとだけ優しくしてやってる今のうちに去っておいた方が身のためだぞ……。
頬を引くつかせながら隣に座ってやがる猫を見下ろし、俺は手刀をゆっくりと振り上げた。
『待ってください』
『んがっ!?』
しかし、その手を鋭く振り下ろす前に内側に引っ張り込まれた。すぐさま振り向いて首のあたりを掴んでいる手を振り払いつつ、俺を内側に引っ張りやがったのを睨みつける。が、どんなに目付きを鋭くしても碌に効いちゃいねー。チクショーめ。
『そのような行動は見過ごせません』
『ハッ! 見過ごせねーだ?』
馬鹿言ってんじゃねー。俺はいつだって奪われてきた。より強い者に力尽くで、より賢い者に狡猾に。今も俺の命さえババアに奪われ握られている。クソが、ふざけてんんじゃねーぞ!
思い出してたら腹が立ってきた。ふつふつと腹の底から沸き上がってくる。だからこそ、どんな手を使おうがより強くならなきゃならねー! 強くなければ何も得られねー! 何処までも伸し上がり、どんなものだろーが盗られねーように!
『まぁまぁ、落ち着けって』
そんな俺の頭をポンと叩きやがったのがいた。俺の上を叩きやがったのはどいつだ、と怒り心頭で振り返ってみれば、胡散臭い顔で笑ってやがった。その顔を見て、腹から湧き上がっていたものがブシューッと一気に抜けていくのを感じてしまう。
それでも腹の底に燻ぶった怒りのままにジットリと睨み付けてやったが、悔しいが何処吹く風だった。
『どうやらあの猫はただ単純に懐いているだけのようだよ。実は何かしてあげたんじゃないかい?』
『俺がぁ? んなもんするわきゃねーだろ』
『なら他のどれかがしたかもしれないねぇ。知らないけど』
そう言ってケラケラ笑われる。それを聞かされる俺は全く気分がよくねー。
『……もしかしたら、橙のしもべ候補だったりしてね』
だが、俺の耳元で囁いた言葉は俺の心を震わせた。それはつまり、俺が橙から奪えるかもしれねーってことだから。
話すことは終わりだと言わんばかりに、俺は背中をドンと押された。
『いいのですか?』
『大丈夫でしょ』
そんな会話を背後に、押された勢いのまま俺は表へと押し出された。振り上げたままの手刀をそのまま振り下ろさず、ゆっくりと腕を下ろす。俺を見上げていた猫が小さく鳴き、俺はため息を吐いてしまう。……クソ、あの言葉は嘘かもしれねーって分かってても踊らされちまう。癪だが乗せられてもいいかと思っちまう。こういうところが厭らしくて、だからこそ気に入っている。
……とりあえず、一匹くらいやってもいいか。くそぅ。