東方九心猫   作:藍薔薇

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来てしまったよ紅魔館

 私は満天の星空を見上げ、隠す気もなく盛大にため息を吐いた。……あーあ、来てしまったよ紅魔館。命じられたことだけど、しょうがないことだけど、面倒臭いものは面倒臭いのだ。やるけど。はぁ。

 ここに住んでいる吸血鬼にお邪魔するなんて事前の連絡は一切していないのだが、紫様には関係ない、行けと言われているので、勝手に入らせてもらうとしましょうか。壁を背にして立ったままぐっすり眠っている門番の横を堂々と歩いて中に侵入していく。……夜に眠るのは健康的だと言うべきか、寝るなら部屋で布団を敷いたらどうだとか、不寝番じゃないのかと呆れればいいのか。まぁ、もう通り過ぎたことだ。どうでもいいか。

 施錠されていたら破壊しても構わない、と言われているけれど、別に鍵は掛かっていなかったので、普通に開いて紅魔館へ侵入した。破壊すると後々面倒そうだと思っていたので、壊さずに済んでよかった。解錠の妖術あるけど、通用するか怪しいし。はぁ。

 

「……目が痛くなりそう」

 

 とにかく紅い。壁にも床にも天井にも血を塗ってんじゃないか、と思いたくなる。吸血鬼だし。壁に立てかけていあるランプがところどころ光っているのだが、中途半端なところが逆に不気味だ。全部灯してくれていればそう思わないで済むのに。ならば私が点けてあげようとは思わないけどさ。はぁ。

 時折、給仕服を着た妖精とすれ違う。一応侵入者なのに、何もしてこない。いいのか、これで。別にいいか。楽だし。

 そのまま特に何事もなく、紅魔館の主であるレミリア・スカーレットがよく居るという部屋の前に着いた。そして、目の前の無駄に大きい扉を叩こうとしたその時。

 

「入っていいぞ」

 

 不思議と惹きつけられるような声が、扉の向こう側からした。わぁお、バレてたのか。まぁ、それならそれで楽でいい。

 とりあえず許可は出たので、扉を開けた。……うっわ、重っ! もうちょっと軽量化しないと開けるの面倒じゃない? 吸血鬼の力ではこのくらいが普通なのかな? どうでもいいか。

 部屋に入ってすぐ、一際豪華な椅子にふんぞり返ったレミリア・スカーレットが目に入った。その両脇には給仕服を着た見覚えのある少女と、これまた見覚えのある不健康そうな紫髪の少女。……誰だっけ? まぁ、別にどうでもいいや。

 少し振り向いて扉を一瞥し、また動かすのが面倒で扉を閉めずに置いておこうと思ったら、気付けば扉が閉まっていた。へぇ、これが噂の時間を操る能力ですか。こんなもんか。

 

「私に用がある者が来ると感じてはいたが、化け猫が来るとは。少し驚いたわ」

「来たくて来たわけじゃねぇんですがね。……まぁ、時間掛けたくないし、さっさと事を済ませましょうか」

 

 何を話せばいいのかは、ここに来る道中で聞かされた。ただし、一回だけ。大体覚えているけれど、細部は忘れた。まぁ、多少欠けてても伝わればそれでいいでしょう。多分。

 

「えーと、月の都に行って珍しいものとか凄い技術とかを見つけてほしいそうです。紫様曰く、それらを盗み出して停滞しつつある妖怪の生活向上を目指したいとか。そのようなこと、貴女のような強力な妖怪なら容易いことだろう、と」

 

 私が紫様、と言った瞬間、レミリアが露骨に眉をひそめたが、気にせず話し切った。……そんな睨まないでよ。はぁ。

 

「月の都には、例えば無限のエネルギーがあるそうですよ。ずっと遊んで暮らせる夢のような技術だそうで、紫様が今から数百年前に一度そんな技術を奪おうと思って月の都に行ったみたいだけど、不慮の事故で手に入れることが出来なかったとか何とか」

「知ってるわよ。不慮の事故って、月の民にコテンパンにされて逃げ帰ってきたんでしょ?」

 

 ……へぇ、そうだったんだ。聞いてないよ、そんなこと。というか、負けたんかい。紫様は見栄っ張りだなぁ。そうかもしれない、とは思ってたけど。はぁ。

 そんなことを考えながら苦笑いを浮かべていると、さらに目付きを鋭くしたレミリアが口を開いた。

 

「で、どうして今更そんな計画を持ちかけてくるのかしら?」

「数が増えたから。全員が協力すれば今度は容易いでしょう、と」

「ふぅん。どんな計画なのかしら?」

 

 ……何だっけ。満月の境界がどうとか言ってたけれど、忘れちゃってる。

 さてどう説明すればいいだろうか、と言い淀んでいると、隣にどれかが出てきたのを感じた。そして、私が悩んでいるうちに口が勝手に動き出す。

 

「紫様が今年の冬に湖に映った幻の満月と本物の満月の境界を弄り、湖から月に飛び込めるようにします。貴女には紫様が結界を見張っている間に月の都に忍び込んで頂きたいのです」

 

 あー、そういえばそんな話だったなぁ。流石、覚えててくれて助かったよ。

 私が声を出さずにありがと、と唇を動かすと、隣のは微笑んでから内側へと戻っていった。

 

「まぁ、そんな感じです。で、どうでしょう?」

 

 そのまま微笑みを絶やさず、私はレミリアに対して返事を求めた。

 

「くだらないわ」

 

 うん、知ってた。

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