東方九心猫   作:藍薔薇

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付き合ってくれねぇか?

 日の当たる縁側の角を曲がると、黄色い九尾が見えた。それを見た俺はすぐに駆け出し、そして袖を掴み取る。すぐに足を止めて振り返った藍はその手にマタタビを持っていた。……あぁ、いい香りだ。

 

「なぁ、藍。今、暇か?」

「彩か。特に紫様から命じられたことはないが、どうかしたのか?」

「んじゃ、ちっとばかし付き合ってくれねぇか?」

「昼頃には橙の元へ行きたいから、それまでなら別に構わないぞ」

「そうかい。俺もあんま時間は取らねぇから安心しな」

 

 そう言いながら、俺は首と指を庭へと向ける。と、同時に両手の爪を一気に伸ばした。藍は僅かに眉をひそめたが、それでも庭に跳び出していく俺の後を付いてきた。

 藍との間を少し大きめに取り、向き合ってから両腕をだらりと下ろす。一度大きく息を吸い、全部吐き出す。……よし、準備はこのくらいでいいか。

 

「軽く攻撃してくれねぇか? んで、俺は往なす。避ける。引き裂く。……分かりやすいだろ?」

「あぁ、訓練の一環か。いいだろう」

「おう、よろしく頼むわ」

 

 そう返事し終えた瞬間、一発の妖力弾が飛んでくる。狙いは眉間。上半身を軽く右に傾けて回避。続く三発の妖力弾を右手を軽く振るって引き裂きながら、藍を中心にして右回りに駆け出す。俺を狙って放たれる妖力弾を急加速、急減速、急停止、反転を織り交ぜて躱し、弾幕を置き去りにしていく。チラリと藍の様子を窺うと、真っ直ぐと狙いを定めている目と合った。ニヤリと笑ってやると、藍の口端も僅かに吊り上がる。

 それを境に藍から放たれる弾幕が俺を狙うことがなくなり、全範囲に無差別に放たれることとなった。移動によって狙いをずらし、弾幕のない安全地帯を創り出せなくなってしまったわけだ。しかし、まだ問題はない。妖力弾の合間を縫うように、時には両腕を振るい妖力弾を引き裂きながら駆け回っていく。

 

「まだだ! もっといける!」

「そうか。ならば、お望み通りさらに強くしよう」

 

 俺の要求に対してそう言い放った藍の弾幕の軌道が大きく変わる。先程までは真っ直ぐと鋭く射貫くような軌道だったが、大きく湾曲して狡猾に攻める軌道へと変貌した。それに軌道だけではなく、弾幕密度も倍程度に跳ね上がっている。流石に駆け回りながらでは辛いため、その場に一度停止して俺に向かってくる妖力弾を全て引き裂いていく。

 ……あぁ、魔理沙の命名決闘法案の時の弾幕はこんな感じだったな。もう少し多彩な形状と軌道が混じっていたが、それでも今の俺にとってはこれくらいがちょうどいいらしい。悔しいが、この程度なのだ。

 その場で弾幕を往なし、避け、引き裂き続けていたのだが、何かを感じると同時に半ば勝手に右腕が大きく背後に振るわれる。爪の感触から察するに、どうやら背後から妖力弾が迫っていたようだ。そして、それを引き裂いた。

 

「……む」

「ぐ……っ」

 

 が、その右腕の動きは少しばかり無理があり、その所為もあって右側から迫ってきた妖力弾をもろに喰らってしまった。幸い、訓練として放たれてたためあまり痛くはないのだが、被弾は被弾。命名決闘法案ならば被弾一つである。

 ふーっ、と息を大きく吐き出し、爪を仕舞った両手を広げながら顔の横に並べて降参を示す。瞬間、藍が放っていた弾幕は一斉に消滅した。

 

「あんがとな。俺の都合に付き合ってくれてよ」

「構わんさ」

 

 そう言ってくれた藍に感謝しつつ、縁側に座り込む。昼頃にはまだ早いが、藍の橙好きは知っている。右手を軽く振るってさっさと出掛けるよう示したつもりだが、藍は逆に俺の隣に腰を下ろした。

 

「どうした? 橙の元へ行かねぇのか?」

「まだ時間はあるからな。それにしても、先程の奇襲、よく見破れたな。視覚外を大きく迂回させたつもりだったが」

「そりゃ勘だ。何となく、不意討ちは感じ取れるもんだろ」

「野生の直感、というものか……?」

 

 敵の攻撃を察知し、攻撃を躱し、そして撃退する。時には脚を使って逃避だってする。死ななきゃ安い。死角からの不意討ちだろうと、何となく分かる。音だとか、空気の流れだとか、気配だとか、雰囲気だとか、そういう理屈はよく知らんが、とにかく感じ取れるんだ。

 そう考えていたところで、左手が頭の上に伸びる。しかし、手で防ぐ前に頭に何か硬いものが当たってしまう。すぐに振り向いてみれば、閉じた扇子を手にした紫様が上半身だけをスキマから出して微笑んでいた。

 

「けれど、貴方の反応以上の速度なら当てられるわよ」

「そうだなぁ……。まだまだ精進が足りん」

「ふむ……。是非、橙にも身に付けてもらいたいものだな。……いや、私が守るから不要か……?」

 

 昔はこのような訓練など不要だと思っていた。しかし、これからは一歩ずつ歩んでいかねばならない。少しずつ、強くなろう。

 ……そうだ。俺はこの身体を傷つけさせない。この身体は俺だけのものではなく、他にも八ついるんだ。俺の傷は皆が共有することになり、そして死は皆を巻き添えにしてしまう。だから、守らねばならない。

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