東方九心猫   作:藍薔薇

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努力も、意思も

 レミリアが月の都に侵攻するためのロケットを完成させたらしい。紅魔館でお披露目のパーティーまでしているのだから、ここまで大々的に見せびらかして実は未完成だ、なんてレミリアのプライドが許さないだろう。

 あと、霊夢の監視とサポートを終えるよう命じられた。これで終わりではないそうだが、かなり急な命令でちょっと驚いた。命令の時期的にロケットの完成と無関係だとは思えないが、まぁそういうことを考えるのは他のに任せよう。面倒臭い。仕事が終わった。それでいい。

 ということで、次の命令に備えて私はのんびりしていた。また面倒臭い仕事を命じられるだろうし、休める時に休んでおきたい。そんなことを考えながら、縁側で随分肌寒くなった黄昏時の空を見上げていた。このまま何もなければいいのに。そんなはずないけど。はぁ。

 淹れておいたがもう冷め切ってしまったお茶で乾いた唇を湿らせていると、横から足音が響いてくる。そちらに目を向けてみれば、ピリリと空気が張るような雰囲気を纏った藍がいた。どうやら、それなりに緊張しているらしい。まぁ、月の都に攻め入るわけだしなぁ。そりゃそうか。

 

「いよいよだな」

「そうなんだ」

 

 私の隣に立ち止まり、空を見上げながら呟く藍にぼんやりとしたまま答える。

 

「何だ、その態度は」

「そう言われてもなぁ……」

 

 しかし、そんな私の気のない返答に藍は納得していないようで、かなりきつく細めた冷ややかな目付きで睨まれた。……止めろよ。そんな目で私を見ないでほしい。はぁ。

 緊張している藍には非常に悪いのだけど、私としてはいまいちピンと来ないのだ。全容が分からないまま、これをしてどうなるの? まぁいいか別に、なんてことすらも碌に考えることなく、言われるままに何となく熟しているだけ。そりゃそうか。神様の力を借りる練習をし続けていた霊夢の監視しかしてないもんなぁ。

 

「彩。お前はこの大役を成し遂げる気が本当にあるのか?」

「んー……。そんな風に訊かれなかったら、きっとやる気なんて欠片も湧かなかったと思うなぁ」

「……何だと? 彩! お前は、紫様の式神なんだぞ!」

 

 正直に答えた私は藍に思い切り怒鳴られたけれど、耳から逆の耳に通り抜けていくような感覚がした。

 そうだね。私は確かに紫様の式神だ。式神を憑けてくれたことを多少なりとも感謝はしているけれど、それだけだ。私は藍と違って、紫様に仕えたくて式神になったわけじゃあない。ただ死に際に命を拾われただけの関係。紫様の式神だと言われても、それが私のことだと直結しにくい。それと同時に、紫様のために、なんて殊勝なことを考えていないことがほとんどだ。命令されたから、で終わる。

 私は怒気を露わにしている藍を見上げ、とりあえず微笑んだ。この表情に特に理由はない。強いて言えば、悪い表情よりいい表情のほうが会話が成立しやすい。話が通じないと、私としてはどうしようもないから。

 

「まぁ、落ち着いてって。藍、湧かなかった、だよ。今は多少なりともあるさ」

 

 そう言った私を、藍は訝し気に見詰めてくる。止めろよ。その場しのぎの嘘なんだから。

 そう思いながら微笑み続けていると、藍がドカリと腰を下ろした。……あぁ、ちょっと話が長くなりそうだ。はぁ。

 

「彩。お前は紫様の式神なんだ。私達の行動は紫様の行動であり、私達の成功は紫様の成功であり、私達の失敗は紫様の失敗なんだ。ゆえに、失敗は許されない」

「知ってるよ。何度も聞かされた」

「分かっていないだろう。失敗を避ける努力を、成功を目指す意思を、今のお前から感じない。……いや、普段からほとんどだ」

「そうかもね。……努力も、意思も、過去に置いて来た」

 

 ポロリと漏れ出た言葉。喋るつもりがなかったのに、どうして漏れてしまったのだろう。まぁ、いいか。どうでも。

 しかし、藍にとってはどうでもよくなかったようだ。私の言葉を聞いてしまった藍が、私の肩をガッチリと掴んできた。……止めろよ、痛いじゃないか。

 

「それは、その言葉は、お前自身の否定だぞ。少なくとも、その内側にいる他のは努力していた。意思があった」

「私じゃあない。確かに私だった。けれど、私じゃあないんだよ。その努力も、その意思も、もう私のものじゃあないんだ」

「……なら、お前には何がある?」

 

 言葉が出ない。何もない。それが答えだ。

 私は藍を見た。目が合った。僅かに藍の口が動いたが、すぐに閉じてしまう。それ以上、話が続くことはなかった。

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