霧の湖の岸辺で横になり、夜空を見上げる。随分と細い月だが、これから少しずつ満ちていき、そして欠けていくのだろう。周囲には数多の星々が輝いている。あの中の一つがレミリアが打ち上げたロケットなのかもしれない、と思うとちょっと不思議な気分になる。
レミリアが月の都を目指すよう焚き付けた。霊夢に神様の力を借りる稽古をつけた。そして、次の満月の夜に紫様は藍と私を連れて月の都に侵入する。そう命じられた。つまり、レミリア達は体のいい囮なのだろう。ひょんなことで進行に成功してしまったのならそれもまたよし、とも思っていたりするのかもしれない。流石にないか。はぁ。
ふと、肌に刺さるような冷気を感じて身体を起こしてみると、この辺りでよく見る妖精達が忍び足でこちらに近づいてきていた。その四人の妖精と目が合い、目を見開いて驚いたり、逃げようとしてずっこけたり、苦笑いを浮かべたり、悔し気に頬を膨らませたり、それぞれ違った反応をされた。
「…………、……?」
せっかくだから声を掛けたはずなのだが、喉から音が出てこない。そういえば、思い切りこけたくせに砂利が軋む音も弾ける音もしていなかった。……そういう妖精もいたような。まぁ、いいや。
「さにーのせいだー!」
「チルノがバカだからぁ―っ!?」
「脅かそうと思ったのにぃー……」
「ごめんなさいね、彩」
「いいよ。特に気にしてないから」
私が声を掛けようとしたことに気付いたのか、こけていた妖精と苦笑いを浮かべていた妖精が私に謝ってきた。もう声が出る。やっぱり、チルノを除いた三人の誰かが音を消す能力を持っているのだろう。しかし、その後ろではサニーと呼ばれた妖精とチルノが取っ組み合いの喧嘩をしているけれど、放っておいていいのだろうか? いいのか。
そんなことを考えていると、私に謝った二人は何故か首を傾げていた。何か変なこと言ったかな? ……いや、違うか。普段妖精達を話している彩は私じゃあない。あれと違って、私には楽し気な雰囲気はない。その違いに困惑しているのだろう。
「……ところで、彩は一人で何をしていたんですか?」
「星を見ていただけだよ。ちょっと、一人で考えたくてね」
色々と考えたくなった。特に、映姫に会ってから。あれ以来、私の思考の端で燻ぶっているもの。終わった私がどうあるべきか。
こんな面倒なことを考えているのは、きっと残りカスみたいな私の役目だろう。別に死にたいわけじゃあないが、だからと言って生きていたいとも思えない。ならば今すぐ死ねるかと言われれば、そんな無意味な死は御免だと思う。理由もなく、目的もなく、言われたままに、ちょっと文句を言いながら、生かされている。そんな感じ。
「何を考えてたのかしら?」
「明日やることさ」
「もう日付変わってるわよ」
「じゃあ、今日やることで」
私の雑な答えに笑う二人の妖精に、少し肩から力が抜ける。そして、目の前の四人の妖精を見遣った。毎日が気楽そうだ。笑うこともあるだろう、泣くこともあるだろう、嬉しいこともあるだろう、悲しいこともあるだろう。それら全部ひっくるめて、きっと楽しいのだろう。
「……生きてて楽しいかい?」
「はい」
「うん」
「そっか」
羨ましいと思う。私には出来ない生き方だ。そういう生き方は、あの無邪気なのじゃあないと出来ない。
そう思っていたら、急に内側から一つ飛び出してきた。隣のは私では出来ないような、自然で陽気で溌溂な笑顔を浮かべる。
「つっきー、ほっしー。これからしばらくちょーっと忙しくなるからあんまり会えなくなるかも。ごめんねっ」
「あっ、そうなんですか?」
「忙しいところ、悪戯しようとしてごめんね」
「いいよいいよ楽しいから!」
ほら、私はこんな風に笑えないよ。笑えねぇよ。