東方九心猫   作:藍薔薇

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退屈過ぎて死んでしまうわ

 ふと空を見上げるが、星明かりはもちろん、月明かりすら届かない。あまりに静かで、私以外誰もいないのでは、と錯覚してしまう。そのくらい寂しい竹林の中、私は足を動かし続けている。とはいえ、ここは迷いの竹林。目的地に到着出来るか少しばかり不安ではある。到着しないなら、まぁ、それはそれで。

 これを道と呼んでいいのか分からないが、右側に脇道らしきものが見え、私は特に考えずに右に曲がる。

 

「違いますよ」

 

 が、脚が突然止まり、飛び出してきた隣のが声を発した。それだけ言うと、隣のはすぐに内側に戻っていく。どうやら、右に曲がってはいけなかったらしい。そう言うのならば、そうなのだろう。私の貧相な記憶なんぞよりもよほど信用出来る。ちなみに、道案内はこれで七回目。大助かりだ。

 そんな感じで後何度か道案内をされながら歩き続け、私は迷いの竹林から開けたところに到着した。一息吐きながら夜空を見上げれば、満月から僅かに欠けた月が見えた。この調子なら、後二日で満月だろう。

 

「月面戦争まで残り僅か、かぁ。……はぁ」

 

 思うことは多々あれど、既に命じられている身だ。残念ながら避けられるものではない。どれだけの脅威だろうか。まぁ、知ったことではないが。

 そんなことを思いながら、私は前を向く。以前、異変で侵入したときと大差なく見える屋敷、永遠亭を眺める。ここが目的地。話したい人と会えるかどうかは、また別の話だが。はぁ。

 永遠亭の敷地に勝手に侵入し、軽く庭を見回しながら玄関へ向かう。なんか丸っこい兎がたくさんいるけれど、これといって敵意はなさそうである。というか、ちょっとこちらに顔を向けただけですぐにやっていたことに戻っていく。警戒する価値がないのか、それともどうでもいいのか。どうでもいいっぽいですね、これは。それならそれで好都合。

 難なく玄関の前に着き、扉に手をかけた。無造作にガラガラと音を立てながら開くと、バシンと張っていたものが一気に縮む音が響いた。一体何の音だろうか、と思っていると、突然冷たいものと硬いものが全身に叩きつけられた。……うげぇ、水じゃん。あと盥。

 

「引っ掛かったー! 侵入者侵入者!」

 

 悪戯に成功したような子供の様な声が聞こえ、私はため息を吐く。そんなことは今、どうでもいい。というか、気にしていられない。

 揺れる。揺らぐ。剥ける。剥れる。……式神が僅かに取れかけてしまった。理由は何だ? さっき思い切り水を叩きつけられたせいだ。まずい。非常にまずい。ほら、内側からいくつも押し寄せてくる。離されていたはずなのに、近付いてくる。

 

「何事!? って、貴女は……」

「……―悪い―けど―俺は―今ね―輝夜さんに―用が―あん―です―よ―で―だ―……―ウサギ―邪魔だ―から―ちょっと―脇に―退いて―くれ―ねー―かい?」

「はぁ!? 急にそんなこと言われても姫様に会わせるわけないでしょう!」

「あっ―そう―かい―それなら―仕方が―ねー―ですね―……―なら―悪ぃが―押し―通らせて―いただき―まーすっ!」

 

 ごちゃ混ぜに口が揺れ動く。一瞬で臨戦態勢を取った鈴仙が見える。極めてスローに見える。人差し指が私に向けられるのを予測し、寸分の狂いなく向けられる。そこから放たれる妖力弾の着弾予測は両膝と眉間。その地点に結界が張られ、鈴仙の目が僅かに見開かれた。

 ……私は誰だ。けれど、ハッキリ分かることがある。これ以上は危険だ。

 

「火術―えぇ―おう」

 

 九つ揃って火の妖術を放った。瞬間、視界が真っ赤に燃え盛る。

 

「きゃぁっ!? ……って、え?」

 

 ただし、燃え上がっているのは私だけだが。手っ取り早く乾かせば式神は再び貼り直される。そうすれば、表に出されたのは内側に戻れるはずだから。

 まぁ、水が乾き切る前に邪魔な鈴仙は退いてもらうとしましょうか。

 

「シッ―っと」

「ぁ……ッ!?」

「らぁっ!―隙あり―申し訳―ねぇ―です」

 

 身体強化で硬化させながら肉薄し、一息で鳩尾、心臓、首と三連撃を叩き込み、怯む隙も与えず踵落としを頭に叩き込む。キチンと硬化出来ればこの程度の速度で皮膚が破れずに済むらしい。まぁ、どうでもいいが。はぁ。

 

「熱ちち。よい、しょっと。……ふぅ」

 

 纏っていた炎を振り払いつつ、動かなくなった鈴仙を脇に寄せておく。あぁー、滅茶苦茶熱い。酷い目に遭った。何処のどいつだ、あんな悪戯しかけたのは。ふと、目が合った妖怪兎が一目散に逃げ去っていった。……まぁ、もういいや。多少面倒事にはなったものの、済んだことだし。はぁ。

 しかし、こんなことをして私は輝夜に会えるだろうか? 出来ることなら、月面戦争が起こる前に一度会っておきたいんだけど。

 

「あらあら、珍しいお客様じゃない」

「……ちょうどいい。貴女に会いたいと思っていたところなんですよ、輝夜」

 

 突然背後から声を掛けられ、振り返れば目的の相手が立っていた。気付いたら、といった風である。ただし、その後ろにいる永琳が付いているのはあまりいいことではないのだけど。……まぁ、そこはしょうがないと割り切ろう。

 口元を隠してくすくす笑う輝夜は、私に一歩近付きながら一つ問いかけてきた。

 

「貴女の主人に何か言われてきたのかしら?」

「いえ、関係ないですよ。私の意思でここに来ています」

「姫様。彼女は……」

「いいのよ永琳。このくらい遊びがないとつまらないじゃない」

 

 本当に紫様は関係ないんだけどなぁ。まぁ、信じてくれなくても結構。それに、私が勝手に輝夜に会いに行った程度で崩れる計画なら既に土台が腐っているだろう。流石にそんな杜撰な計画で月面戦争を仕掛けるつもりではあるまい。

 私は、一つ訊ねたいことが出来ただけなんだ。

 

「輝夜。私はきっと貴女を殺せます」

 

 そう言い来る前に、私に矢先が向けられる。輝夜の背後にいる永琳から発せられた殺意が突き刺さる。が、その矢と私の間に輝夜の手が差し伸べられ、永琳は戸惑いながら弓を下ろした。

 

「その上で訊きます。貴女は生きてて楽しいですか?」

「ふふっ、それをよりにもよって私に訊くのね。楽しいわよ。たとえ無限の過去に押し潰されようと、今がとても楽しい。楽しくないと退屈過ぎて死んでしまうわ」

「……死にたく、ないんですか?」

「死にたいわ。けれど、今じゃないわね」

 

 それなら、よかった。

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