東方九心猫   作:藍薔薇

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最後の命令よ!

 私は紫様と藍がなんか小難しい会話をしているのを聞き流し、背を向けて夜空に浮かぶ満月を見上げた。これからあそこに行くのか……。既にレミリア達がロケットを使って月の都に飛んでいっているはずなので、彼女達を囮にでもして別方向から攻め入るわけか。

 

「聞いているのか、彩?」

「いや、聞いてなかった。で、何?」

「おい。……これから私達で空き巣をしてめぼしいものを奪いに行く。隠密に、だ。分かったな?」

 

 背を向けていたところを藍に呼ばれ、訝し気に睨まれながら問われたことに正直に答えてみれば、呆れられながら教えてくれた。んー、攻め入るだとか戦争だとか言ってたくせに、随分みみっちいことをするなぁ。……まぁ、そちらの方が楽そうだしいいか。私にとっても。

 そんなことを思っていたのがバレたのか、妖しく笑う紫様が私を見詰めてくる。

 

「彩。遙かに進んだ科学力、強靭な生命力、妖怪には手に負えない未知の力。地上の民は月の民には決して敵わないわ。特に、月の都ではね」

「……へぇ、そんなもんなんですねぇ」

 

 無限に等しいエネルギー、不老長寿に不老不死の薬、何の脈絡もなく隣に現れる。……うん。輝夜を月の民としていいのか知らないけれど、そう考えれば理解は出来る。理解するだけだが。

 だって、紫様は嘘を吐いている。具体的には、決して敵わない、というところ。科学力、生命力、能力では敵わなくても、それ以外では敵うとでも思っているのだろう。思っているだけかもしれないけどさ。はぁ。

 そんなことを考えながら、私は藍を見遣る。そんなこと微塵も考えていなさそうな実に真剣な表情。そんな私の視界の端で、大きなスキマが開く。

 

「さぁ! 藍、彩、最後の命令よ! 中に入って私を満足させる素敵なものを盗んできなさい!」

 

 まぁ、対峙しないのならその三要素はほぼ関係ないだろう。さっさと行ってさっさと盗ってさっさと帰ればいいか。

 そんなことを考えながら、私は早速スキマに飛び込んでいった藍の後ろを付いていく。スキマを通り抜ける寸前、紫様がスキマを開くのが見えたけれど、まぁどうでもいいだろう。

 藍が着地する前に、目の前の背中に一つ妖術を叩き込む。続けて全く同じ妖術を私にも付与。藍が振り返って私を睨んできたが、手仕草で前を向くよう促せばすぐに前を向いた。消音の妖術。気休め程度だが、その身体から発する音が消える。一割くらい。ショボ過ぎて効果なさそうだけど、まぁ、ないよりはマシだろう。きっと。

 私の背後にスキマを通り抜けた紫様が来たところで、改めて降り立った場所を見回してみる。竹林だった。へぇ、月って竹が生えてるんだなぁ。

 

「違うッ! ここは迷いの竹林だ!」

「え?」

「いけない! 満月が閉じてしまうわ!」

「はぁ?」

 

 何やら二人が慌てている中、若干置いていかれながら私は紫様が開いていたスキマが独りでに閉じていくのを眺めていた。……えぇーっと、満月同士を繋げて月の都に行くはずだったのに、通り抜けた先は何故か地上のままで、繋いでいたはずのものが閉じようとしている。というか、今閉ざされた。……あれ? 失敗した? この最重要そうな局面で?

 

「そう。月の公転周期の僅かな乱れ。それは完全な数であるはずの二十八を僅かに欠いたトラップ。もう貴方は月に戻れない。師匠が千年以上も前に仕掛けたトラップでね」

 

 いまいち空回りしてそうな頭でそんなことをぼんやり考えていると、背後からそんな言葉が聞こえてきた。振り返ってみれば、腰まで伸びた金髪と金色の瞳を持つ少女と月の兎が立っていた。

 ……よく分からないけれど、紫様は罠に嵌められてしまったらしい。あーあ、何やってんだか。はぁ。

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