東方九心猫   作:藍薔薇

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掃除をしますよ

「今日の朝食は何なんだ?」

「今日は炊きたてご飯に油揚げの味噌汁、ほうれん草のおひたし、卵焼き、鮭の塩焼き」

「油揚げか。そうかそうか」

 

 藍は嬉しそうに顔を綻ばせている。油揚げ、大好きだものね。少し多めによそってあげましょう。

 それはそうと、食卓に藍しかいない。紫様が普段座っている席が空いてしまっている。一人減ってしまうと、随分寂しい雰囲気になってしまうものね。

 

「ところで、紫様は?」

「……まだ寝てらっしゃる。しかし、昨晩は昼前に博麗神社で改めて霊夢と顔を合わせに行く、とおっしゃっていた」

「まぁっ! では、後で起こしてあげなくちゃ」

「そうしてくれると助かる」

 

 私と藍は手を合わせていただきます、と言ってから食べ始める。……うん、今日もいい味。作りたてのほうが美味しいのに、これを食べられないなんて紫様は損よね。やっぱり、早起きは三文の得なのよ。

 

「私はここの掃除をするつもりだけど、藍は何するの? はい、お茶」

「私か? 今日は橙に会いに行こうと思う。最近、気が立っているようだからな」

「あら、そう……」

 

 藍に食後のお茶を淹れてあげながら、私が問うとすぐに答えてくれた。……そう、橙にね。もしかしたら、あの時に私と顔を合わせたのをまだ引きずっているのかしら? いや、まさかそんなズルズル引きずることでもないわよね。他に何か嫌なことがあったんでしょう。

 藍は私と橙の仲が険悪であることをおそらく知らないと思う。藍と一緒にいる時の橙は輝くような笑顔を浮かべ、藍に甘えている。私に一切見向きせず、一切語らず、関係を一切見せない。私は特段嫌いじゃないし、むしろ仲良くしてあげたいと思っているのだけれど、残念ながら取り付く島がない。

 

「たくさん甘えさせてあげてね」

「当たり前だろう?」

 

 藍はそう言って微笑みながら、ごちそうさまと言って食卓を立ち去っていく。それを見送ってから、私も手を合わせてごちそうさま、と静かに呟いた。

 ご飯粒の一粒も残さず綺麗に食べてくれた食器を片付け、一つずつ丁寧に洗っていく。軽く水気を切ってから、水切りかごに立てて並べて干していく。それから食卓を布巾で拭き取り、一度布巾を綺麗に洗ってから水回りの水気を拭き取る。最後に手を洗えば、ここはひとまずお終い。次に紫様の寝室へ向かう。

 

「……寝ていますね」

 

 静かに扉を開けてみれば、紫様は布団に口元を埋めながらすやすやと眠っていた。その隣にゆっくりと腰を下ろし、耳元に口を近づける。

 

「……紫様、起きてください」

 

 囁くように言葉を発したけれど、紫様は私から距離を取るように寝返りを打ってしまった。当然、その瞼はまだ開いていない。

 私だって、本当は自ら目覚めるほうがいいと思っていますよ? 誰かに起こされるよりも、そちらのほうが気持ちがいいですもの。けれど、ちゃんと顔を洗って、朝ご飯をしっかり食べて、きっちりお召替えをしてから出掛けてほしいのです。

 意を決し、私は立ち上がる。そして、掛け布団の端をむんずと掴み取った。

 

「紫様! 起きなさいっ!」

「うっひゃあ!?」

 

 私は掛け布団を引っぺがしながら、思い切り声を張りました。ビクリと大きく跳ねる紫様を見下ろし、私はやんわりと微笑む。ジットリとした目で見上げてきましたが、それも覚悟の上ですもの。

 

「紫様、もう朝ですよ? それに、今日は博麗神社へ出掛けるのでしょう?」

「……まぁ、そうだけど」

「ですから、顔を洗ってきてください。私は朝ご飯を用意しますから」

「藍は?」

「もう朝ご飯食べて出掛けましたよ、お寝坊さん」

 

 そう言って微笑んでいると、紫様はのそのそと起き上がりました。ここから二度寝なんて流石にしないでしょうから、私は安心して朝ご飯の準備に戻れますね。

 炊飯器から真っ白なご飯をよそい、温め直した味噌汁、少し冷めてしまった卵焼きと鮭の塩焼き、そしてほうれん草のおひたしを添えて食卓に並べておく。急須にお茶を準備して待っていれば、顔を洗って眠気さっぱりな紫様がやって来ました。向かい側に座り、手を合わせていただきますと言って食べ始めるのを私は微笑みながら見守る。

 

「彩、今日は何をするの?」

「留守番をしながら、ここの掃除をしますよ」

 

 紫様も藍も出掛けるのだから、私は留守番ということになりますね。食卓と紫様の寝室を往復する間だけでも、僅かながら埃が散見していましたし、掃除のし甲斐がありそうだわ。

 

「ごちそうさま」

「お粗末様です」

 

 食後のお茶を紫様に渡し、私は食べ終えた食器を片付ける。洗っている間に紫様が湯呑と急須を持ってきてくれたから、それも一緒に洗って干す。しっかりと水回りの水気も拭き取って、ここはお終い。

 着替えるために部屋へ戻っていく紫様の背中に、一つ問いかける。

 

「紫様、何か手土産などを用意しましょうか?」

「んー、そうねぇ。……軽く食べられるものを用意しておいて頂戴」

「分かりました」

 

 軽く食べられるものね。紫様が外の世界から拝借した菓子の中から、箱入りのお煎餅を取り出す。五種類の味を揃えた二十枚入りのお煎餅。これなら、きっと博麗の巫女である霊夢も喜んでくれるでしょう。

 さて、私は掃除を始めましょう。そのために、選んだ手土産と掃除道具を持って歩き出す。そして、紫様の部屋の前に寄り道してちゃんと伝えておきましょう。流石に、お着替え中かもしれない部屋の扉を開けようだなんて思いませんよ?

 

「紫様。手土産は玄関前に置いておきますね」

「そう。ありがと、彩」

「いえいえ、お気になさらず」

 

 それだけ伝えれば、後は掃除です。玄関前に箱入りのお煎餅を置いて、私は濡らした雑巾で廊下をちゃんと木目に沿って丁寧に拭いていく。柱や壁なんかも拭いていると、着替え終えた紫様が玄関に現れた。

 

「行ってくるわ、彩」

「いってらっしゃいませ、紫様」

 

 玄関から出掛けていく紫様を最後まで見送り、私は掃除を再開する。ここの掃除はお終い。次は部屋ね。畳は箒で優しく掃いて、窓は軽く息を吹きかけながら跡が残らないように拭いていく。汚れがなくなって清潔になっていく様は、やっていてとても気持ちがいい。きっと、面倒くさいと思うのもいるでしょう。内側にも一つや二つはいます。けれど、誰かがやらなくちゃいけないこと。だったら、それは私がやりましょう。

 私は、皆が帰る場所を守りたい。そんな帰る場所が汚れたままだなんて、嫌でしょう?

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