「彩、貴女は、まさかそこまで……」
「満身創痍と全力全開とを比べねぇでください」
死にかけのところしか見てないくせに、それでも私を式神にしたのは紫様の慧眼かと思ったのだけど、案外そうでもなかったのかもしれない。まぁ、別にどうでもいいか。
「……彩、お前、そんな力を」
「猫が九匹並んでりゃあ九尾になれますか? 否、九尾は……一匹だ」
それでも、表に九つ揃えても不完全ながら『九心九尾』が発動してしまうあたり、そこのところの境界は曖昧なのだろうが。まぁ、明確に決めてなかった私が悪いのか。……偶然? 必然? どっちだよ。はぁ。
しかし、まぁ、いつまで保つかな。当然、いつかの破滅と隣り合わせである。そして刻一刻と近付いている。九つの意思を一人としてまとめあげ、一人でありながら九つという矛盾を孕みながら、それを妖術で無理矢理成立させてしまう。意識の完全統一。『九心九尾』の圧倒的な力の根幹はそこにある。
つまり、この力の代償は多重人格の否定である。全てが全く同じ考えを持つのならば、多重人格に存在意義はない。ゆえに自我統一。すなわち、八つの死だ。どれが死ぬか? ……私が残る? 何を馬鹿な。
それでなくとも、下手に扱えば自壊する力なのだから、身体が滅びれば当然死ぬ。今だって、常に自己修復をし続けて最良の肉体を無理矢理維持しているのだ。気を緩めれば身体は一瞬で木端微塵に弾け飛んでしまうかもしれない。そうなっても治癒出来る、だって? ……死ぬ前なら出来ちゃうんだよなぁ。はぁ。
「気分はどうだい?」
私が見下ろす焼け爛れた少女が見上げ睨む最中、ふと私は少女の隣にいた月の兎を見遣った。すっかり青ざめており、目が合った瞬間後退ってしまう。しかも、その際に足元が引っ掛かって尻もちをついてしまう始末。それでもなお私から距離を取ろうとするあたり、随分と情けないものだと思ってしまう。はぁ。
「……ぁ、っ」
そんなことをしていたら、踏み潰していた手首が忽然と消えてしまい、足が地面に付いてしまったっましてい付に面地が足、いましてえ消と然忽が首手たいてし潰み踏、らたいてしをとこなんそうやって消えてしまう前に、私は加重力の妖術を少女を対象に叩き込んだ。
「ぃ……っ、っ!」
あーあ、余所を見る暇があったら少女に瞬間移動なんかさせる余裕を与えるべきじゃあないのか。そんなことを思いながら、少女に加える重力を徐々に増していく。まぁ、殺すのは後でいい。しかし、もう既に三桁倍になってるはずなんだけど、少女の身体はまだまだ耐えられそうだ。月の民ってのは、想像を絶するほどタフらしい。
それでも少女は落としてしまった扇子に手を伸ばしば伸を手を動かされる前に氷の妖術による氷柱で地面に縫い付けた。はぁ。
「とりあえずさぁー……、うん、死んどく?」
「っ……!?」
加重力の妖術を極限まで高め、やがては光を捻じ曲げ飲み込み始める。おいおい、何だよその絶望しましたって顔は。
「侵略者だろう? それに、ここを壊すつもりなのよね? あと、私を殺すつもりだったでしょう? あとさー、面白くないんだよねぇ。しかも、踏み越えた壁だ。……ん。貴女のような危険は取り除くべきです。敵は殺す」
少女の身体が潰れ出し、徐々に圧縮されていく。血が流れない。流れる前に、集まり潰れ一つになってしまう。
「それに何より、私は、貴女みたいなのを殺したくてこの力を手にしたんだから」
それだけ言い残し、既に石ころほどに圧縮された少女だったものを消滅の妖術で文字通り消し飛ばした。流石に、ここまですれば月の民だろうと死んでしまうらしい。
一人殺したってのに、何も思わない。そりゃそうだ。私は何をしても、意味なんてないのだから。