東方九心猫   作:藍薔薇

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無血の勝利

 紫様が開いたスキマを黙って通り抜け、既に聞かされた罠と最新兵器について自慢げに語る少女の話を聞き流し、そのままフェムトファイバーで縛られ竹林に放置された。まぁ、しばらくしたら鈴仙が私達を解放してくれたけど。口にはしていなかったが、永琳にでも命じられたのだろう。きっと。

 それから一ヶ月ほど経過した。私はといえば、どうして生き残ってしまったのだろうか、と頭を悩ませながらちょっとした後遺症と闘っている。

 

「もー! くやしー!」

「また今度頑張ればいいじゃないですか。その時はあの月の民もぎゃふんと言わせられますよ」

「そうそう。別に殺せねー敵じゃ、……まぁ、どうにかなりますよ。きっと」

 

 冥界の白玉楼へ続く長ったらしい階段を登りながら、実に胡散臭く実際に嘘っぱちである紫様の態度に適当なことを返しつつ、自然と口から零れた言葉に辟易してしまう。

 『九心九尾』による意識統一。その過程で、私の記憶には九つがどう思い、考え、行動したかが未だにこびり付いている。何故そう思えるのか私にはいまいち理解出来ない思考回路であり、しかし同時にこびり付いた記憶に引っ張られるようにそう思って当然だと思ってしまう。非常に気持ち悪い。まぁ、新たに積み重なる記憶にいつかは埋もれていくだろうが、それまではもう少し時間が掛かりそうだ。

 ……まぁ、私と違って他のは割と早く解消したみたいなんですけどね。随分と我が強くて羨ましい限りだよ。はぁ。

 そういうこともあってちょっと余計なことを口走りそうになる口元を押さえていると、紫様の元へ鴉が飛んできて静かに肩に止まった。そして、紫様が怪しく微笑んだ。

 

「はいはい、悔しがっている振りはこれでお終い」

「え?」

「久し振りの大勝利よ! 最近いいことほとんどなかったから」

 

 そう言って諸手を挙げて大喜びしている紫様に、何が起きたのか理解出来ていなさそうな藍を見遣り、私は二人から目を外して静かにため息を吐いてしまう。

 ……あぁ、やっぱり。私ってのは、本当にどうしようもねぇなぁ。

 そんなことを思いながら階段を登り切った先に、紫様を待っていたらしい幽々子が立っていた。

 

「あら、遅かったじゃない。ずっと待ってたんだからぁ」

「しばらくは宇宙人に見張られていたからね。悔しがっている振りをしてなきゃね」

「まだ準備中だけど、とりあえず上がって上がって」

 

 そう言われ、私達は幽々子の後を付いていく。藍は未だに首を傾げているけれど、どうして分からないんだろう? あぁ、紫様の言葉を全部鵜呑みにしているからか。式神としては、それが正しい姿なのだろう。

 白玉楼に上がると、疑問符で頭がいっぱいそうな藍が紫様に説明を求め、紫様は種明かしをする子供のように喜々として語り出した。

 月の使者のリーダーは二人いる。神様の力をその身に降ろして戦う実力派と地上と月を結ぶ援護要員。実力派をレミリア達が、援護要員を私達が囮となって月の都をがら空きにしたそうな。ついでに、地上には月の頭脳というスパイ、永琳を引っかけるために私達は囮にならなければならなかったとか。紫様は援護要員を引き付ける囮になりつつ、もう一つスキマを開けておいたそうで、既に浄土の住人であり穢れのない幽々子達ががら空きとなった月の都に堂々と侵入したそうな。

 

「流石紫様。でも、事前に説明してくれてもよかったのに。地上に戻された時は本気で焦りましたよ?」

「敵を騙すにはまず味方から。幻想郷にはスパイだっているのだから」

 

 紫様の策略に感心している藍には悪いけれど、私の記憶にそういう筋書きなのだろうという推測がこびり付いているせいでいまいち驚けない。いや、実際に出来ることが凄いんだと思いたいのだけど、凄いと思うのが癪だと思ってしまう。あぁ、そうじゃない。私はそんなこと考えてない。はぁ。

 妖夢が机に並べた豪華な料理でも眺めて余計なことを考えないようにとでも思ったのだが、今度はどう調理しただろうかと考え始めてしまう。……あー、どうでもいいどうでもいい。

 

「それで幽々子様には何をしてもらったのでしょう?」

「空き巣目的よ、空き巣。幽々子が手荒い真似をしてくるとは思えないし、何か宝物を盗んできているんじゃないかしら。それに気づいた綿月姉妹がぎゃふんと言ってくれるはずよ」

 

 ぎゃふん、ねぇ。あの姉妹がそんなことを言う姿はいまいち想像出来ないけれど、どうなんだろう?

 そんなことを思っていたら、幽々子がごそごそと何かを取り出しながら言った。

 

「賢者の家には珍しい物も置かれていたけど、剣とか玉ばかりであんまり面白そうなものがなかったの。で、これにしたわ」

「……幽々子、この古臭い壺は何かしら?」

 

 コトリと机に置かれた見るからに古びた壺。確かに、宝物というにはちょっとどうかと思いたくなる見た目をしている。

 

「お・さ・け。月の都に置かれた千年物の超々古酒よ」

 

 頬を上気させながらそう言った幽々子に、藍はポカンとしてしまい、その隣で紫様はケラケラ笑い出す。

 

「ぎゃふんと言わせるための宝物が、お酒」

「うふふふ、上出来よ上出来! それでいいのよ。敵が取り返しに来ない物を盗んだ方がいいのよ。どうせ呑んでしまうだろうし、あの綿月姉妹が悔しがっている姿が想像出来て愉快だわ」

 

 ……酒かぁ。まぁ、無限のエネルギーの技術とか持ってこられても使えるかどうかも分からないし、単純なもののほうが盗む価値あるのかなぁ? お酒って呑んだら楽しいもんね! 楽しくねぇよ。

 

「早速このお酒で勝利の祝いをしましょう? 第二次月面戦争の無血の勝利を」

 

 血に染まった勝利もあったんだがな。まぁ、既になかったことになったんだ。関係ないか。はぁ。

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