団子屋にて串団子と緑茶を注文し、品が出来上がるまでの間は人間の里を監視する。ちょっとした人だかりが出来ているのが気になって少し耳を澄ませてみると、最近幻想入りしてきた守矢神社の巫女が入信を勧めているらしい。こういった宣言効果は大きく、まず知らなかった者の目に付くというのがあり、そして努力しているところを見せることで応援してあげようと思わせることも出来る。多少の不興を買ってしまう場合もあるが、それが少数派であるうちはめげずに続けていればいいでしょう。
さて、それ以外では特に目立ったもの、あるいは不自然に目立たないものはなさそうですね。よくある人間の里の光景。ちょうど注文したものが置かれましたし、監視は一度切り上げましょうか。
「彩様は少し変わられましたね」
「おや、そうですか?」
緑茶を一服しようとしたところで、向かいに腰を下ろしている阿求が私にそう言った。手に取った緑茶を静かに置いて阿求を見ると、興味あり気に私のことを見詰めていた。
「何かあったのではないですか? 差し支えなければお聞きしたいのですが。私、気になります」
「構いませんよ」
何があったかと言われれば、私達の『中心』が自死しようと思い、そして失敗し、結局それでもいいかと思い至ったことでしょうか。
そもそも、何故自死に思い至ったかは、以前から考えていたようですね。既に終わった存在として、キチンと終わらせたいと思っていた。『九心九尾』という存在してはならない全てを覆す力を抹消するためにも。けれど、その一線を踏み越えれなかったのは、なんだかんだ言いながらもこの余生を手放し難かったから。
その一線に踏み出せたのは、転生という単語から裁判長である映姫に言われた一人に戻るべきだと言われたことを思い出し、そして過去に縛られっぱなしで今日を生きておらず楽しくも楽もしていないと思ったから。生者として生きるには、既に遅過ぎた。だから、全てを壊し、全てを殺し、ついでに傍迷惑で一方的で独善的で身勝手な恩返しとして勝ち星を押し付け、そして自分も殺す。一度キチンと終わらないと、次に進めないから。たとえ進む先が次なんてない終焉だとしても。
けれど、残念ながら失敗してしまった。『九心九尾』を発動させて一人に成って死ぬつもりが、今も紫様の式神としてのうのうと生きている。私達の『中心』は、そして私達は今更になって気付かされた。もう一人には成れないと。私達は九つの個として分かれ過ぎていたがゆえに『九心九尾』を発動しても完全に混ざり切れない。私達の『中心』に従って死んでも構わないと思っていたのは確かですが、死にたくないと思っていたのも多数いたのも事実。
一人に戻れない。勝ち星は不要。自死を望まない。これだけ揃ってしまい、一線を踏み越えた理由が瓦解した。だから、自分の意見を覆した。手の平返しとも言いますが。
しかし、それを正直に語るつもりはない。存在してはいけない力を口にするのは、私達の『中心』が忌み嫌っていること。思い出したくもなく、知られるべきではない。
「時折、人間の里を歩いていると紫様の式として声を掛けられるようになったのですよ。ですから、あまり舐められないようにと気を遣っているのです」
「そうですね! まだ里中に知れ渡ってはいませんが、彩様もようやく人里に認められるようになりましたもの」
嘘はあまり得意ではないのですが、これもまた事実。私は多少気を遣うようにしているのは確かですし、これでよいでしょう。
私達の『中心』はどうでもいいと、もう済んだことだ、と言ってこれ以上考えないようにしているでしょう。また覆そうだなんて思わないように。ですから、私が代わりに考えましょう。それが記憶と思考を抜き取った私に出来ることですから。