「遂に見つけたわッ! 私のしもべ候補を何匹も奪いやがって!」
「あぁん? んなもん奪われる方が悪ーに決まってんだろ」
俺が焚き火で川魚を焼いているところに擦り寄ってきた猫に餌付けしてやっていると、小川を挟んだ向こう側の茂みから猫が現れて俺にそう言い放ってきやがった。そうだな。本当にしもべ候補かどうかは置いといて、積極的に侵略する気はねーが、擦り寄って来るなら奪ってやるかくらいには思ってた。んで、しもべ候補なら奪えて喜ばしいし、違うなら将来の候補の先取りだ。
俺の右肩の上に乗って焼き魚を食ってる猫と目の前で怒り心頭のネコを交互に見回し、俺はニヤリと笑ってやる。そうして挑発してやれば、いとも容易く釣り上げれちまうもんだ。
「ッ! 返せッ!」
「ハッ! テメーに奪えんなら奪ってみな!」
橙が真っ直ぐと跳び出してきた瞬間、身体強化を掛けた右脚で地面を踏み抜いて燃え盛る薪をバラバラと浮かび上げる。さて、あのネコがこのまま真っ直ぐと突貫してくることはねー。右か左に回り込んでくるが、上はねー。薪の向こう側で目を見開いたネコを見遣りながらそこまで考え、爪を伸ばした左手で浮かばせた数本の薪を刺し貫く。さて、どちらに回り込んでくるか?
「シャッ!」
「だろーな!」
頭に血が上って小難しいこと考えてる余裕なんざねーネコが利き足である右脚で方向転換し、俺の右側に回り込んでくるなんざ手に取るように分かる。それに、俺の右肩にはネコが奪い返してー猫がいる。しかも、奪ってみろと挑発したばかり。そりゃあ、ご自慢の速度を生かして掠め取ろーとするよなぁ?
左腕をネコに向けて思い切り振るってやれば、爪に突き刺しておいた薪がすっ飛んでいく。流石にこの程度の投擲でネコが被弾することはねーことぐらい分かってる。だから、次の一手として尻尾に妖力を込めた。
飛んできた薪を見たネコは途中で大きく曲がることでほとんど速度を落とさずに薪を躱して俺に迫ってくる。
「極彩『彩色剣尾』」
尻尾に込めていた妖力を解き放ち、ネコが俺に向かって駆け抜けていく軌道を逆走するように走らせる。突然の攻撃にネコが目を見開いて驚愕しているのが分かる。今まで俺が見せたスペルカードは爪からぶっ放すもんばっかで、その両方の爪に妖力が込められてねぇからあれでお終いだと思ったか? どうやら尻尾までは見てなかったようだな。そりゃそうだ。俺の身体で隠してんだから見えるわきゃねーか。
ネコはすぐさま右に跳んで避けようとはしていたが、それより早く妖力を加速させてネコを飲み込ませる。……悔しいが、俺一つじゃあネコ一人気絶させるのはちょいと厳しーよーだな。
「……んだよ、飯食ったら帰んのか。別に構わねーけど」
尻尾の妖力を出し切ったところで、俺の肩に乗っていた猫がぴょんと飛び降りて向こうの茂みへと行っちまった。茂みの中に入る前に振り向いて一声鳴かれたが、だから何だって気分にしかならねー。ま、いつかまた擦り寄って来んだろ。他の猫みてーに。
地面を転がってたネコが起き上がると、俺の肩に猫がいねーことに気付いて目を見開いた。
「あーっ! 逃げられた! ……ッ!」
「オイオイ、何睨んでんだよ。テメーのが強けりゃ奪えてただろーが。とろっちーテメーが悪い」
「っ……、だ、あああぁぁぁーっ! 私のしもべ候補を奪ってるって藍様に言いつけてやるッ!」
「ハッ、言ってろ」
そう負け惜しみを言い放って猫が去っていった茂みのほうへと走り出していったネコを見遣りつつ、俺は焚き火があった場所の近くに土と一緒になって転がってた焼き魚を拾い上げた。ま、キツネに何言われよーが関係ねーな。
俺は強くなる。強くねーと、全て奪われ失っちまう。ぶっ壊れちまった俺達の『中心』みてーに絶対に諦めたりしねー。だが、俺達の『中心』がまたいつか強さを求めたなら、俺は喜んで従うぜ。