「るんるるーん、ざっくざく」
僕は僅かに肌寒さを感じながら何となく思い浮かんだ曲を口ずさみ、日陰に隠れて未だに解けずちょっとだけ残っていた雪をザクザクと踏み締める。雪から聞こえる音が心地よくて、靴から伝わる感触がとっても楽しかった! そうやっていると、気付けば雪が土と混じってなくなってしまった。そのことにちょっとした達成感と満足感を覚える。
ふと、こうやって雪を消していけば、最後の最後まで縋りついている冬が終わるんじゃないかなぁ、と思った。もう春になっているのは、ゆかりんがそう言ってたから分かってるんだけどね? そうだったら楽しいじゃん!
「あーっ!」
次の雪を探そっかなぁ、と思った矢先に、後ろから甲高い声が響き渡る。
振り返ってみれば、僕にビシッと人差し指を向けているちっちゃな妖精がいた。
「ちるるんじゃん。どしたの?」
「アタイが昨日見つけてた雪がー!」
「あったね、雪! うん、楽しかったよ!」
「そっか! 楽しかったならよし! ……じゃっなぁーいっ!」
ちるるんが両手で頭をわしゃわしゃしているのを見ていると、僕も思わず笑っちゃうくらい楽しくなってくる。ひとしきり笑って涙ぐむ目尻を拭いながら、ちるるんの後ろにちょっと慌てているもう一人の妖精がいることに気付いた。えっと、あれは確かだいちゃん。ちるるんとよく一緒にいるんだよね。
そんなだいちゃんがちるるんの隣に立って、肩に手を乗せながら慰めるように呟く。
「チルノちゃん、そんなに怒らなくても……」
「だってだいちゃん! せっかくアタイが見つけたヒンヤリスポットが台無しになっちゃったんだよ!?」
だいちゃんの言葉に、大声を張り上げて言い返すちるるん。んー、どうしよ。
「そうだっ! 代わりのヒンヤリスポット、僕と一緒に探さない?」
「えっ、本当っ!? 探してくれるの!?」
「そうだよー。じゃ、早速レッツゴー!」
ちるるんのだいちゃんの手を取り、すぐにここから出発! 雪を踏み消していく計画は即行撤廃。日陰から日の当たる場所に出て、やがて霧の湖に辿り着く。普段、ちるるん達妖精が遊んでいる場所。やっぱり、ここの近くでヒンヤリスポットを見つけたほうがいいよね? さぁ、青空に太陽が昇っているうちに、新しいヒンヤリスポットを見つけなくちゃね!
「てれれれー、てれれれーれれーん」
「よーし! 見つけるぞー!」
何となく浮かぶ曲を口ずさんでいると、気合十分なちるるんが僕の手から離れて一気に飛び出していく。その後姿を見て、僕も探さないと! と意気込んだところで、だいちゃんが僕の手を握り締めた。その手の感触に、僕は一旦足を止める。
「……あの、彩さん」
「ん? なぁに、だいちゃん?」
「ごめんなさい。付き合わせちゃったみたいで」
「いいのいいの! 僕は楽しくてやってるんだからさ!」
そんな風にしょげなくていいんだよ? 知らなかったとはいえ、ちるるんに悪いことしちゃったのは僕だし、それで僕が楽しくなることを思ってやってるんだから。ちょっと嫌なことがあっても、次は楽しいことをしなきゃもったいない。
そうだ。あの時はこれからもっと楽しくなると思っていたけれど、結果は全くの正反対で、凄く痛くて、凄く辛くて、凄く苦しかった。思いっ切り失敗しちゃった。次がないかも、って思った。死んじゃうかも、って怯えた。消えちゃうかも、って震えた。けれど、それでも僕は生きている。この身体があって、面白おかしく過ごせるんだ。だから、生きてるなら、やっぱり楽しまないと!
だいちゃんの両肩に手を乗せて、僕はめいっぱい笑う。
「だから、一緒に楽しも?」
「……はい!」
「じゃあ、行こっか! ヒンヤリスポットを探しに!」
だいちゃんの手を引いて僕は全力で走り出す。先に行ってしまったちるるんに置いてかれたくないからね! 精一杯僕に付いていこうと必死に足を動かしているだいちゃんに振り返ってみれば、その表情は弾けるように笑っていた。
どうにかちるるんに追いついて、僕はちるるんとだいちゃんと一緒になってそこら中を歩き回りながら、まだ雪が残っているヒンヤリスポットを探す。白く光るところを見つけて駆け寄ってみたら実はただの白い石だったり、途中でお腹が空いてきて近くに生っていた木の実を採って三人で一緒に食べたり、後ろ歩きしてたちるるんが樹に頭を思いっ切りぶつけて目を回しちゃったり、色々あって僕はとっても楽しかったよ!
そして、空が茜色に染まって太陽が地平線に沈み始めたころ。
「見つけたー!」
「やったー! アタイの新しいヒンヤリスポットー!」
「チルノちゃん、よかったね!」
たくさん歩いたから、とっても疲れてヘトヘト。だけど、大喜びしてるちるるんを見れば、そんなのは全部吹っ飛んじゃって、とっても楽しくなる。お腹の奥からぐーっと込み上がって思いっ切り笑いたくなる。三人で一緒になって、みんな笑顔。
ね? これからも、たくさん笑おうよ。痛かったことも、辛かったことも、苦しかったことも、今を笑えば楽しくなるから。過去を想って泣くよりも、未来を思って悩むよりも、今を感じて思いっ切り笑い飛ばせばそれでいい!