東方九心猫   作:藍薔薇

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さっさと強くなりてーな

 妖怪の山に流れる小川の川上へと歩きながら、雪解け水が流れる小川を見下ろす。おーおー、いるいる。冬が明けただけあって、簡単に見つかるもんだな。んじゃま、いい感じの場所を見つけてさっさと仕掛けるか。俺お手製、少し待つだけで川魚が捕まる手頃な罠であるかご網。川の流れが緩やかでかつ川底が平らな場所を見つけ、そこに放り投げる。

 ババアのところから勝手に拝借した紙屑と乾燥した薪に、着火したマッチを放り投げて点火。さーて、待ってる間に川魚を突き刺す串でも作っとくか。近くに生えている樹々の細い枝を右手の爪を伸ばして切断し、そのまま余計な葉を切り落とす。何本作っときゃあいいかな? とりあえず、五本もあればいいか。遠火で暖まれる場所に腰を下ろし、伸ばした爪を使って枝をガシガシ削っていく。ある程度細く、そんで先っちょが尖がってりゃあ串として使える。

 

「……あん?」

 

 三本目の完成間近、といったところで違和感を覚える。ガサガサと俺に向かって急接近してくる音! 足元に削りかけの枝を置き、音のする方角に視線を向けると、樹の裏側から何者かが飛び出してきやがった。右手を出して迎えてやれば、そいつは引き裂かれる直前で大きく後ろへ跳び上がり、樹の枝に両脚をつけて着地した。

 

「チッ」

「……んだよ、ネコ。今いーとこなんだから邪魔すんなボケ」

「るっさい! 藍様のお使いの帰り道にいるのが悪いんだッ!」

 

 ギャーギャー喚くネコを見上げ、その右肩から左腰に提げられている鞄を見遣る。……ま、手ぇ出してきたんなら受けてやるしかねーよな?

 俺は立ち上がりながら樹の枝の上にいつまでも居やがるネコを睨み付け、妖力を纏わせながら両手の爪を伸ばす。ネコの鋭い目付きと、グッと力が込められた両脚。

 

「相手になってやるぜ? 仕掛けを揚げる時間潰しだッ!」

「しゃあっ!」

 

 一直線に飛び出してきたネコの突進を左に跳んで避け、少し距離を取った場所に左手を突き刺して着地する。目の前の焚火を挟んでネコの様子を窺ってみると、真っ赤な華を散らすような弾幕を放ってきていた。ハッ! その程度、造作もねーな!

 

「オラァッ!」

 

 地面深くに突き刺していた左手を持ち上げ、土やら石やらと一緒くたに焚火を思いっ切りぶちまける。放物線を描いて飛んでいく石ころと燃えている薪が、ネコの放つ弾幕に被弾して破壊されてそこら中に飛び散る。だが、その全てが破壊されたわけではなく、一部はそのままネコへと飛んでいった。

 

「んにゃっ!? チッ!」

 

 驚愕したような声を上げ、ネコの舌打ちが聞こえてくる。そりゃそうだよなぁ? 壊せなかったのに一つでも当たれば、それは被弾だもんなぁ?

 さて、この咄嗟の判断でネコは何処に逃げようとするか。それは右だ。つまり、俺から見て左側ッ!

 

「爪符『スーパーメガスラッシュ』!」

「ぎにゃっ!?」

 

 妖力を込めた左腕を横薙ぎに振るい、その爪先から巨大な爪撃を放つ。予想通り、右側に回避していたネコに直撃した。

 何故回避した方向が分かったか? それは肩掛け鞄があったからだ。おそらく、あのキツネのお使いとやらが入っているんだろう。そんな鞄を前に出すような回避をあのネコがするだろうか? しねーよ。だから、自分の身体が前に、鞄が背後になる右側に避けざるを得ない。

 樹々の高さを超えた高さまで浮かび上がり、俺の爪撃を派手に喰らったネコを見下ろす。ハッ、やっぱ身を挺して鞄を守ったようだな。さて次は、と思ったところで、勢いよく起き上がったネコが飛び上がり、俺と同じ高さまで浮かび上がってくる。随分と睨み付けてきやがる。

 

「んだよ、ネコ」

「私を見下ろすなッ! 仙符『鳳凰卵』ッ!」

「知るかバカ! 爪符『超絶激烈連発爪波』!」

 

 ネコが放つ橙色の妖力弾がいくつもの妖力弾に拡散しながら球状に広がる。俺が両腕を交互に振るい、一振りの爪撃をいくつもの爪撃に分散させながら放つ。お互いの妖力弾がぶつかり合うと、打ち消し合って消滅する。

 ……チッ、流石にここまで分散さちまうと相当弱っちいな。打ち勝たせるならもう少し強くしなきゃあいけねーわけだが、名前負けさせたくねーから爪撃の分散を減らすのはナシだ。

 そのまま互いに被弾せずにスペルカードが尽きてしまう。……まずいな。ネコに一つ被弾させているとはいえ、向こうはまだ二枚残していて、こっちは既に二枚消費しちまってる。

 

「天符『天仙鳴動』ッ!」

「ッと! あっぶねーな!」

 

 宣言と共に急加速したネコの突進を、咄嗟に上半身を大きく後ろに逸らして回避する。続く弾幕を爪で引き裂いているうちに、今度は右からやって来たところを後ろに跳んで回避。そして、ネコが置いて来た弾幕に爪で対処している間に次が来る。

 

「だあああぁぁぁーっ! 面倒くせぇ!」

 

 思わず叫んじまう。俺はこういう意味のない地味な作業は大嫌いなんだよ! だからと言って、デカいの一発叩き込んでしまえば俺のスペルカードが尽きて負けちまう。……クソッ!

 

「しゃぁっ!」

「ッ痛、ラァッ!」

「にゃっ!?」

 

 弾幕に対処している隙に背後に鋭い痛みが走る。しかし、その瞬間に急速反転しながら右腕を横薙ぎに振るう。すると、すれ違い際に攻撃してきたネコの顔面にちょうどよく右手の甲がぶつかる。あんだけの速度で突進してきたところに当たったせいか、結構いい音が鳴り響く。

 両手で顔を押さえつつジタバタを悶えながら若干涙目で俺を睨み付けるネコ。その顔を見て俺は思わずニヤリと笑っちまう。俺の右手にもかなり痛みが響いたが、これでお相子だ。

 

「ふしゃーっ! 鬼符『鬼門――」

「爪符『ライトニングスラスト』」

 

 身体強化の妖術を掛けた右腕を全速全力で突き出し、その爪先から五本の刺し貫く爪撃を放つ。その弾速は突き出した腕の速度も重なり、今の俺の最速を誇る。この至近距離で外すはずもなく、宣言前のネコの左頬を引き裂いた。

 

「んじゃな、ネコ。今日はもう邪魔すんな」

 

 呆然としているネコにそう言い放ち、俺は罠を仕掛けた小川の元へ下りていく。……あー、川魚の串焼きのための色々、全部撒き散らしちまってるじゃねーか。ネコの所為で。……俺がやったけど。

 

「だあああぁぁぁーっ! やっぱ気に食わないぃーっ!」

「……うっせぇな」

 

 遥か上空に響き渡るネコの絶叫を聞きながら、俺はかご網を小川から揚げて帰ることにする。かご網に引っ掛かった川魚は内側のに頼むとして、勝手に持ってきた薪とマッチをババアにどう言い訳するか考え、そしてネコの機嫌が悪くなるとキツネの機嫌も悪くなることを思い出し、ため息を吐いた。

 騒ぐネコも、苛立つキツネも、叱るババアも、まとめて全部ブチ抜きてぇ。さっさと強くなりてーな……。

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