東方九心猫   作:藍薔薇

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東方萃夢想
花見酒ならぬ葉見酒


 私は帽子を目深に被り、人間の里をのんびりと歩く。別に仕事があって来ているわけではなく、完全に暇潰しで来ている。理由は、紫様が今朝になって唐突に出て行くよう命じられたから。その時の私は何かやらかしただろうかと頬を引きつらせたが、別に解雇というわけではなく、単純に紫様が一人になりたかったらしい。ついでに、当分の間は何かあっても余程のことがなければ通信せずに自分で解決してほしい、とのこと。まぁ、一人じゃなきゃ出来ないこととか守秘義務とかがあるのだろう。……しかし、当分の間とはいつまでなのだろう? 一週間くらいかな? ……ま、帰還を命じられるまで帰らないようにしておこう。

 と、いうことで。藍は早速橙が住んでいる迷い家に飛んでいった。私は人間の里で暇を潰そうというわけだ。定期的に与えられている金が使われずに無駄に余っているのだし、使えそうなときにパーッと使って人間の里の経済を回してあげなくちゃね。ただし、いつまで長引くか分からないので使い過ぎ注意。その辺の金銭管理は内側の真面目なのにお任せしよう。

 ……それにしても、やけに明るいなぁ。眩しいってわけじゃなくて、人間達の活気が強い。神輿でも手渡せば何が目的ということもなく楽しそうだからみたいな理由で即座に祭りが始まりそうなくらい。まだ朝っぱらだというのに、酒盛りまでしてる人間がチラホラ見当たるし。最近、何かあったっけ? ……あー、春雪異変があったか。

 

「おーい! そこの可愛い嬢ちゃんやーい!」

「ん?」

 

 そんなことを考えていると、青々とした葉桜の下に茣蓙を敷いて酒を呑み交わしている青年に声を掛けられた。既に頬が赤く、相当酔っぱらっているのだろう。周りにいる同じく頬を赤く染めた数人が肩やら背中やらをバシバシ叩いてはやしている。うわぁ、若干痛そう。というか、桜が散ってるのに呑んでるのか。花見酒ならぬ葉見酒かな? ……んー、だったら木陰で呑んでるだけだ、って言われた方がまだ納得出来そう。

 まぁ、彼らに呼ばれたわけですし、私も曖昧なものだけど反応しちゃったわけですし、多少付き合うくらいはしましょうか。どうせ暇だし。帽子の中に隠している耳と服の中に隠している尻尾が彼らにバレないようにしないといけないけど、そのくらいなら多分大丈夫でしょう。きっと。

 茣蓙の端のほうに腰を下ろし、とりあえず微笑んでおく。にっこり。すると、彼らは大はしゃぎしながら私の前に新しいお猪口を置き、トポトポと酒を注いでいく。……あの、ちょっと零れてるんですけど。しかし、彼らはまったく気にしてないようである。

 

「最近は気分がいい! どうだい、嬢ちゃん? 俺に奢られてくれねぇかぁ?」

 

 私が嬢ちゃんねぇ……。口調、それっぽいのにしといたほうがいいよね。多分。

 

「えっ、私にくれるんですか?」

「応ともさ!」

「そうですか。ありがとうございます」

 

 というか、注いでから言われたら流石に断りにくい。……ま、いっか。ここは素直に奢られましょう。

 

「いやー、愉快愉快!」

「俺らの奢り酒だ! ほら、景気よくグイーッと!」

 

 景気よくかぁ……。私、そこまで酒が得意ってわけじゃないんだけど。

 それ、グイッと。お猪口の酒を一口で呑み干し、空になった底の二重丸を彼らに見せる。すると、彼らは何故か拍手喝采し始める。そんなに愉快かなぁ?

 

「ヒューッ! いい呑みっぷりだ!」

「こんなんじゃ全然呑み足りねぇ! まだまだ呑むよなぁ?」

「次はこれなんかどうだ? 辛くていい酒だ!」

「いやいや、嬢ちゃんには甘ぁいこっちのほうがいいに決まってらぁ!」

 

 えっと、どうしよう? 是非とも代わっていただきたい。けれど、この状況で代わったら怪し過ぎる。……はぁ、私がどうにかしないといけないのかぁ……。

 いつものように微笑みを維持しながらどうしようかと考えていると、青年の一人が辛いと言っていた酒がお猪口に注がれていく。ズイッと目の前に突き出されたそれを受け取り、グイっと呑み干す。お猪口が空になったらすぐに甘いと言っていた酒が注がれたので、それもグイっと呑み干した。どっちも美味しいからそれでいいじゃん。あっははー。

 それからも青年達の酒盛りに付き合い続け、時に注がれた酒を呑み、時に愚痴っぽい話に相槌を打ち、時に空になったお猪口に注いであげていると、気付けば既に夕暮れ。茜色の空がぼやーっと滲んで見える。というか、回って見える。……これは呑み過ぎたかなぁ。あははー。……はぁ。

 

「うっへっへー……。俺ぁ楽しかったぜぇ、嬢ちゃぁーん」

「いやー、強いな嬢ちゃんは! 将来有望だな!」

「えらく別嬪さんだなぁ、嬢ちゃん! おかげで酒が進んだ進んだ!」

「縁があればまた呑もうなぁ!」

「……そうですね。それでは、縁が合ったらまた会いましょう」

 

 愉快に笑いながら手を振る青年達に別れを告げ、私も若干ふらつく足取りで歩き出す。お持ち帰りされないでよかった、と頭の端に思い浮かんで消える。うあー、かなり呑んだよぉ……。身体が熱いぃ……。頭グラグラするぅ……。あははー。

 とりあえず、阿求のお屋敷に行こう。で、無理言ってでも泊まらせてもらおう。そうしよう。きっと翌朝は二日酔いで頭痛行きだ。嫌だなぁ……。はぁ。

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