……頭、痛い。ガンガンする。案の定、二日酔いである。阿求のお付きの人に無理を言ってお屋敷の一部屋を貸してもらい、目覚めて真っ先にこれである。ま、しょうがないんだけどさぁ……。
すぐに体を起こす気になれず、改めて布団の中に潜り込む。その間にちょっと内側の様子を窺う。
『おや、どうかしましたか?』
『……あー、代わってくれるのはいないかなぁー、なぁんて』
『バッカじゃねーの!? あんなバカスカ呑みまくった表に誰が行くかってーの!』
『私としては、今のところ表に出る用事はありませんので』
『あっ、そうですかー』
周りを見渡したけれど、生暖かい目で見られたり、若干非難するような目で見られたり、そもそも目が合わなかったりと、結局のところ駄目そうである。……まぁ、私がやったことなのだから、しょうがないよなぁ……。はぁ。
渋々表に戻り、二日酔いの頭痛を感じながら起き上がる。部屋を出て廊下を歩く足取りが若干重い。途中ですれ違う阿求のお付きの人に挨拶をすれば、食事を用意してあるとのこと。痛む頭を押さえながら人間の里のお店を探すのは面倒だと思っていたので、素直に嬉しかった。
「いただきます」
出されたのはとてもシンプルな卵粥。添え物として、たくあんと梅干しが少々。二日酔いの朝食にこれほど素晴らしい食事があるだろうか? いや、ない。多分。
ふーふーと覚ましながら一口ずつ食べていると、顔色が若干悪い阿求が現れた。……そういえば、昨晩顔を合せなかったし、体調が悪いのだろうか? 風邪でも引いていたのかな?
「……おはようございます、彩様」
「おはよう、阿求。顔色悪いけど、大丈夫? 風邪?」
「いえ、昨日はなんだか急にお酒を呑みたくなりまして……」
「……まさか、二日酔い?」
「……はい」
阿求は頭を押さえながら頷いた。おぉ、同志よ。こんな同志、嬉しくもなんともないけど。むしろ虚しい。
いただきます、と口にしてから私と同じ朝食を食べ始めるのを眺めていると、ふと違和感のような引っ掛かりを覚える。阿求は酒を呑まない娘ではない。だが、自分自身が病弱であることを誰よりも理解していて、飲酒の適量を弁えているほうだ。それなのに、何となくで二日酔いだと言う。……何か、ヤケ酒でもしたくなるような、嫌なこととか面倒なことでもあったのだろうか?
そんなことを考えていると、阿求は卵粥を食べ終えていた。それを見て、食事の手が止まっていたこと思い出し、私は慌てて若干冷めつつある卵粥を掻きこんだ。ふぅ、ごちそうさま。
「彩様はこれからどうするおつもりですか?」
「別に用事はないけど、長居するつもりはないよ。紫様次第だけど」
「そうですか」
「そういう阿求はどうなの? 面倒事とか抱えてない?」
「いえ、特には……」
コテリと首を傾げるところを見るに、少なくとも面倒なことがあったわけではなさそうである。何でヤケ酒なんかしたのやら。周囲が呑んでいるから、それに当てられたのかな? ま、こういうのは私よりも内側にいる真面目なのが考えたほうが色々と早い。考える理由があるかどうかは知らないけれど。
私は痛む頭を帽子と一緒に押さえ込み、ゆっくりと立ち上がる。急に動くと頭痛は加速するから、慎重にしなくてはならない。
「それじゃあ、私は外に出掛けるとしますね。夜になったらまた来ると思うんで、その時はよろしく」
「分かりました。それでは、いってらっしゃいませ」
阿求に軽く挨拶を済ませ、見張りの人にまた来るかもしれないと伝えておき、私は外に出た。少し歩いて人間が多い場所に行けば、愉快に酒盛りしている姿がチラホラと見つかる。やっぱり、何かあったのかなぁ? ……駄目だ。昨日と同じ春雪異変くらいしか出てこない。
阿求のヤケ酒の件もあって何となく気になっているので、人通りの少ない路地裏に隠れてから内側へと潜り込む。
『なんかあったか?』
『いや、そうじゃなくてさ。あれだよ、あれ。人間達がやけに浮かれてるからさ、何かあったっけ? って訊きに来ただけ』
『……あったか?』
『いいことがあったんじゃない? 楽しいことはいいことだよ!』
『んー、冬明けにしてももう随分前でしょ?』
『そのような話は聞いていませんね……』
『んなこと俺が知るかよ!』
『そのような話題は耳にしていませんが、何かあったのでしょう』
どうやら誰も知らないらしい。二つ答えてくれなかったけれど、知ってたら言ってくれているだろう。多分。つまり、そういうことだ。
けれど、気になったことを放置するのはなぁ……。数日モヤモヤしそう。で、さらに数日経てばきっとモヤモヤしたこと自体を忘れるのだろう。忘れるまでが長いのだけど。
『訊いて回ってみる?』
『意味あんのか? それ』
『少しばかり興味が湧いてきましたので、聞き込みは私が代わっても構いませんよ?』
『え、本当? 代わってくれるの?』
『えぇ』
『是非是非! 頭痛いと思うけど、代わってくれるならどうぞ!』
真面目なのが自主的に表に出てくれるそうなので、私はその背中をグイグイ押して表に押し出した。いやー、代わってくれるのがいてよかった! 私、嬉しい。
「……これは、相当ですね」
表のがボソリと呟いた言葉は聞き流すことにした。