東方九心猫   作:藍薔薇

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理由なし。時期不明。

「んー? 里中宴会してる理由? 知らんなぁ。ま、楽しいからいいんじゃねぇの?」

「酒が旨いから呑む! それ以外の理由が必要か? 否ッ! 要らんッ!」

「皆呑んでるし、別にいいでしょ? あー、私も早く呑みたいわぁ」

「ふと急に呑みたくなるんだよ。普通だろ? ところで嬢ちゃん、この後俺と一軒どうだい?」

「ほら、あそこ小鳥が飛んでる。綺麗でしょう? いいことがあると、少し味わいたくなるんです」

「理由なんざ知るかってんだい! 俺ァ呑むぞォ! 親仁! もう一本!」

「お父さんもお母さんも楽しそうに呑んでるよ? 僕も大人になったらあんな風になりたいなぁ」

「いやー! 愉快! 痛快! 豪快! はっはっは! ……え? 理由? いいじゃないですか、そんなのどうでも」

「朝は目覚めに、昼は花見に、夜は月見に呑むのさ。桜が散っても、また次の花が咲くだろう?」

「最近お酒の売れ行きがよくてねぇ。おかげで大変なのよぉ。ま、嬉しい悲鳴って奴さね! 終わったらアタシも一杯やるよ!」

 

 表のが人間の里のそこら中で何故酒盛りをしている理由を尋ねて回っているようだけど、残念ながらいまいち要領を得ない。ただ酒を呑みたいから呑んでいるだけのようだ。別にそれだけで済むならいいんだけど……。

 

『ほらー! やっぱ楽しいからなんだよ!』

『まぁ、そうみたいだね』

『何が引っ掛かってんだよ?』

『……阿求も呑んでたことかな』

 

 普段外に出ない阿求にも伝わるほどの活気であり、それを浴びたことで急に酒を呑みたくなった。そこまではまだいい。けれど、自分で自制出来ないほど呑むのはらしくない、気がする。変だとは思うけれど、そんなこともあるさ、で流されればそれまでなくらい些細なことだ。

 

「今日も酒が旨いのぉ……。 ん? いつからじゃとぉ? ……いつじゃったかのぉ」

「そうね、いつだったかしら? 昨日、一昨日じゃなかったと思うけど」

「覚えてねーよ、んなもん。別にどうでもいいだろ」

「この一杯のために生きているんだよ、俺は! いつから呑んでるかって? ずっと前からさ!」

「はぁ、この宴会の流行りがいつからか、ですか。そう言われると、いつからなのでしょう?」

「知らん。つまらんこと訊くな。酒が不味くなる」

「聞いて驚け!? 昨夜から夜通しさ! ……え? 違う?」

「いつからなんてそんなどうでもいいことよりよぉ、俺らと一緒にどうよ? たっぷり楽しもうぜぇ?」

「私は毎日呑んでるわ。周りはあんま気にしてなかったから分からないわね」

「お酒がよく売れ始めたのはいつだったか? そうねぇ……。詳しくは覚えてないけれど、三日より前かしら」

 

 表のが人間の里のそこら中でいつから酒盛りをし始めているのかも尋ねて回ったのだけど、こちらもあまり要領を得ない。三日よりは前のようだが、それ以降は記憶に残っていないらしい。皆が皆阿求のように覚えているわけではなく、何日も前のことを詳細に覚えているわけではないのだ。

 

『こんな雰囲気になったのがいつからか分からないのね……』

『事の始まりも分からず呑みまくりかぁ……。人間らしいちゃらしいか?』

『発端の方はどなたなのでしょう? 誰かいらっしゃると思うのですが……』

『逆でしょ。いないんだよ、発端なんて。全員一斉かつ曖昧に浮かれ始めたんだ』

 

 私は思い付きのまま言う。人間の里全体で理由もなく、時期不明瞭で酒盛りをしていたのなら、そうだと思った。……本当のことを言えば、他のとは違うことを、逆のことを、と考えた末に思い付いたのだが。

 

『はぁ? 何でそーなんだよ?』

『待て待て、そう突っかかるなよ。……で、一つくらい理由はあんのか?』

『理由なし。時期不明。だったら、知らぬ間に刷り込まれた、って考えたほうが私は楽だよ』

 

 嘘だ。全然楽じゃない。今度は誰が、あるいは何が人間達に浮かれた気分を刷り込んだかが気になってくる。……それが分かれば苦労はしないか。

 

『ただ宴会が流行してるだけじゃない?』

『人間の里全体で流行の始点が未だに見つかってない』

 

 隣のが言った言葉を、思い付いたままに否定してしまう。偶然見つかっていない可能性だって否定出来ないくせに、私は何を言ってるのやら。

 

『不特定の誰かを原因に仕立てるようなことはしませんよね?』

『しないよ。……むしろ、別の理由があるなら教えてほしい』

 

 そっちの方が楽だから。単純明快な方がいいに決まってる。私にとっては、世の中は難しいことばっかりだ。……生きるのだって、こんなにも難しい。

 そんなことを話しているうちに、表のが人間の里の外に出て少し距離を取った場所の木陰に腰を下ろした姿勢を取ってから内側に戻ってきた。

 

『興味深いですね。始まりの時期はおそらく一週間ほど前でしょうが明確には不明。始まりの地点はなく、さらには流れすらもない。そして、理由も不明。これは様々な推測が立てられそうですよ』

『人間の里全体に誰か、あるいは何かが刷り込んだ可能性は?』

『有り得ますね。否定する明確な理由がありません』

 

 ……有り得ちゃったよ。真面目なのが肯定しちゃったよ。あれだけ言っておきながら、私としては否定してほしかった……。

 はぁ、とため息を吐いていると、いくつかの周りのが表を見上げていることに気が付いた。それに釣られ、私も表の様子を窺う。

 

「おい、起きろよ化け猫。狸寝入りなんざ似合わねぇぞ?」

 

 ……えぇと、この声って魔理沙だよね? 私、何かしたっけ?

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