薄っすらと開けられた視界がゆっさゆっさと揺れていて、その際に時折見える黒い靴や箒はきっと魔理沙のものだろう。この身体の肩を掴んで揺らしているに違いない。
『どうしましょうか?』
『どうする、って……出るしかないだろ』
『いや、このまま無視を決め込むのも悪くないかも?』
どれかが今すぐ表に出て魔理沙と話し始めるのもいいけれど、このまま寝ていることにして魔理沙に諦めてもらうのも悪くない。私はそう思う。
そんなことを考えているうちに、この身体の揺れが徐々に激しくなってきている気がする。……うっわ、今表に出たら頭痛に加えては吐き気まで込み上げてきそう。嫌だなぁ……。
『というか、そもそも! 魔理沙が私に何の用があるってのよ?』
『知るかよんなもん』
『申し訳ありませんが、私には何も……』
どうやら、どれも知らないらしい。つまり、魔理沙が私に対して一方的な用件があるってわけだ。そして、どんな用かは知らないけれど、きっとこの期待には答えられないだろう。
私はパンパンと手を叩き、周囲に呼び掛ける。ちょっとの間でいいから注目してほしい。
『全員集合! 表に出るか出ないか、棄権なしの多数決。私は出ない』
『さっき言った通り、俺は出るべきだと思う』
『私は出て話を聞いてあげてもいいと思うけれど』
『出て話からこちらの欲しいものを引き出しましょう。具体的には、人間の里について』
『出る出る! まりまりと遊びたい!』
『ケッ! すぐ出て叩きのめしてから考えればいいだろーが』
『……ん』
『私は……、このまま放っておいてもよろしいかと』
『出る。そして討つ』
出る派六つ、出ない派三つ、か。ちなみに、無関心なのは軽く首を横に振っていたので出ない派だろうと推測。……まぁ、一つどっちに傾こうと変わらない差が既に付いてたのだけどさ。
私は思わずため息を吐いてしまう。どれもこれも前に出るのに躊躇がない。羨ましい限りだよ。はぁ。
「……本気で寝てんのか、これ? ……ったく、しょうがないな」
多数決を取り終えたところで、魔理沙が痺れを切らしたのか、この身体を揺らすのをようやく止めてくれた。このまま帰ってくれるならそれでいい。さて、何をしてくるのやら……。
出るといった六つはというと、どれが出るか話し合っていた。別にどれが出てもいいと思うんだけどなぁ……。
なんて考えていると、地面を見ている視界に魔理沙の服が見えた。つまり、彼女がこの身体に近づいているということ。それを理解したと同時に、話し合っていた六つのどれから表へと飛び出していった。
カッと目を見開き、腰に回そうとしていた手を左手で弾きながら、折り畳んでいた身体を右側へ倒しながら右手を前に出し、思い切り両脚を振り上げる。
「あだッ!?」
その拍子に、振り上げた両脚が魔理沙の顎を蹴り上げた。偶然ではない。身体強化の妖術を含んだ故意的な攻撃だ。そのまま地に付けた右手が地面を指で抉りながら掴み、身体を引き寄せて距離を取る。身体を縦に回転させて両脚で着地し、真っ直ぐと立ち上がる。その際に両手の爪を伸ばし切っていた。
「ほぅ……? 起き抜けにこれとは、いい度胸してんじゃねぇか」
表のが魔理沙に対して不意討ちしたのだから、当然命名決闘法案が始まる。魔理沙は左手で蹴り上げられた顎を擦りながら、右手に持った八角形のものを表のに真っ直ぐと向けて獰猛に笑う。それに対し、表のは酷く冷たい無表情のまま重心を前へと傾ける。まさに一触即発。……あ、もう触れてたわ。
魔理沙から四本の白いレーザーが飛び出し、表のがそれを真横に跳んで回避。その後すぐの事だった。
『ちょっと! 魔理沙とは穏便に話し合おうってことでまとまりかけてたでしょ!?』
『あれは敵だ。俺を、この身体を、持ち去ろうとしたからな』
こんな状況だってのにもかかわらず、表のを内側に引きずり込んだのがいた。あぁ、今はそんなことでもめてる時間はないよ! ほら、次の攻撃が来るよ!? この身体の現状は横っ跳びの途中で表のが内側に引っ張られ、そのせいで着地もままならずに思いっ切り地面を滑っている。棒立ちよりも酷い有様だ。今すぐにでも立ち上がらないと、回避すら出来ない。
ザっと周囲を見回すと、一つだけ目があった。私の意図を察したのか、それはすぐに表へと飛び出していく。そして、表のは地面を横に転がりながらミサイル型の魔力弾を回避し、それから跳ね上がるように起き上がる。……あぁ、よかった。
「何だ、調子でも悪いのか? 今すぐ楽にしてやるぜ?」
「確かに調子は悪いが、御免蒙るぜ。俺に何するか分かったもんじゃねぇからな」
「あん? 知ってる事洗いざらい吐いてもらうだけさ。恋符『マスタースパーク』ッ!」
膨大な魔力が宣言と共に発射され、表のが横に跳んですんでのところで回避する。……さて、命名決闘法案は果敢にも率先して突撃してくれたのに任せておこう。正直、あの様子ではそこまで不利益を被ることもなさそうだし、勝とうが負けようがどちらでも構わないだろう。
未だに話し合うだ敵だと言い争っているのはいつも通り聞き流し、私は隣にいた真面目なのに何となく話しかける。
『魔理沙、何が訊きたいんだろうね?』
『私には分かりかねます。情報が足りませんので』
ですよねー。それに、真面目なのが分からないなら、私が分かるはずもないか。
まぁ、私は何も知らないよ。知ってることすら忘れるからね。