魔理沙との命名決闘法案の勝敗? 当然、負けましたよ。負けたに決まってるじゃあないですか。当たり前でしょう? たかが一ヶ月や二ヶ月くらい訓練した程度で劇的に強くなれるような種族じゃあないんですよ、化け猫ってのは。
まぁ、表のは頑張ってたと思うよ。必死に喰らい付いて、垂れた蜘蛛の糸をどうにかして手繰り寄せようとしていた。駄目だったけどね。実力差は絶大だったよ、うん。表のが勝てなかったし、私じゃあ絶対に勝てないね。戦う気も起きないけどさ。
「痛てて……。で、俺に何を訊きてぇんだ?」
「話は後だ。付いて来な」
「……へいへい」
さて、魔理沙は表のに何を訊いてくるのかと思えば、どうやら少し先送りにするつもりらしい。さっさと訊いてくれればいいのに。
まぁ、こちらは敗者。勝者には従うべきだ。表のもそれを理解しているため、特に文句を言わず魔理沙に付いていく。時折、表のが頭を押さえているのは、被弾した怪我による痛みではなく、二日酔いの頭痛の所為に違いない。……うん、ごめん。それは完全に私の所為だ。許してほしい。
しばらく表のが魔理沙の後ろに付いて歩いていると、日がほとんど差さないほど鬱蒼とした深い森の中に入っていく。そこら中に見覚えのない様々な茸が生えていて、なんだかちょっと不気味な雰囲気が漂っている。
『あれ、何処なんだろ?』
『魔法の森ですね。魔力の元にもなる幻覚作用などを引き起こす植物や茸などが自生しており、人間はおろか妖怪ですら近付こうとしないほど危険な森だそうです』
『……大丈夫かなぁ?』
『問題ないでしょう』
真面目なのがそう言うのなら、きっと大丈夫だろう。安心した。
「何処に行くんだ?」
「私の家だ。そこで洗いざらい吐いてもらうぜ」
「はぁ……。何でわざわざ移動なんてするかねぇ……。別にその場でよかったろ」
「その後は明日の宴会の荷物持ちな。それと、研究に必要な物の採集にも付き合ってもらうぜ」
「……要求多くねぇ?」
「どうせお前は私に勝てないんだ。だったら、何回要求しようと同じだろ?」
そう言って、魔理沙は表のに振り向いてニヤリと笑う。……えぇと、つまりだ。一つの要求ごとに命名決闘法案をしてもどうせ全部魔理沙が勝つから、度重なる命名決闘法案を省いてまとめて要求を聞け、と言いたいのかな? ……なんじゃそりゃ。言いたいことは分かったけれど、敢えてもう一度言わせてもらおう。なんじゃそりゃ。いやはや、傲慢な御方ですこと。
表のは魔理沙の言い分を聞いて、頭を押さえている。これは流石に二日酔いの頭痛の所為ではないと思いたい。……思わせてください。
『荷物持ちと採集だってさ。採集、頼んでもいいかな?』
『いいでしょう』
必要なものを探すのは真面目なのに任せた方がいい。ササッと見つけ出してくれるに違いない。決して、無邪気なのに任せない方がいい。探しているものじゃなくて、面白そうなものに意識が引っ張られて、当初の目的を忘れるタイプだから。
表のが魔法の森を歩き続けていると、ようやく日の当たる開けた場所に到着した。そこには魔法の森の不気味で陰鬱な雰囲気に合わない、明るい風貌の家が一軒建っていた。看板には堂々とした文字で「霧雨魔法店」と書かれている。どうやら、魔理沙が経営している店らしい。マジックアイテムでも売っているのだろうか。……需要あるのかなぁ? ま、別に気にしなくていいか。
「さ、入れ入れ」
「はいはい」
表のが霧雨魔法店の中にお邪魔すると、まず目に付いたのが所狭しと置かれ積み上げられている雑多な道具。……これは酷い。足の置き場を探すのも一苦労だ。
『……すぐに掃除しましょう。えぇ、そうしましょう』
『しなくていいと思う』
表の様子を見上げてわなわなと震えながら怒気を纏わせ呟いたのに、私は思わず待ったを掛ける。任せればきっと綺麗サッパリ清潔に整理整頓してくれるに違いない。しかし、そんなことをするためにここに呼ばれたわけではないのだ。やらなくていいことをする必要はないだろう。うん。面倒だし。
表のは魔理沙が指さした椅子に座り、質問を黙って待っている。視線は魔理沙に真っ直ぐと向けられているあたり、多少の警戒はしているらしい。
「さて、お前に訊きたいのは妖霧についてだ」
「妖夢? 冥界に住んでる庭師のことか?」
「そっちじゃねぇ! 妖しい霧と書く妖霧だ! ここ最近、幻想郷中に広がっている妖霧! お前なら絶対に何か知ってるはずだ! この魔理沙様の勘がそう言っている!」
「妖霧だぁ? 知らん」
「いいや、絶対に隠してるね! あん時の黒幕を知ってたお前なら知ってるはずだ!」
「だからんなもん知らねぇって。他を当たってくれ、他を」
妖夢、じゃなくて妖霧についてかぁ……。そんなのが幻想郷に広がってたんだ。知らなかった。もしかして、紫様が私達を排した理由って、この妖霧について調べるためだったりするのかな?
『妖霧、知ってます?』
『いいえ、私は知りませんよ』
『そっか』
真面目なのも知らないなら、私が知ってるはずもないか。一応、他のにも訊いて回ってみたけれど、どれも知らなかった。つまり、魔理沙の勘は大外れなわけだ。大体、その黒幕は私じゃなくて紫様が知ってただけだし。
それから、表のと魔理沙は知ってるはずだ、知らない、と延々と繰り返し続ける羽目になった。諦めが悪いのは美徳かもしれないけれど、粘着質なのは嫌われるよ。多分。