東方九心猫   作:藍薔薇

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急に表に出られると困りますよ

『ん……、もう朝……?』

 

 私は内側で目覚めた。そのまま寝ぼけてあまり回っていない頭のまま、ふわふわと表へ浮上していく。……あー、直接床に寝たから身体中が痛そうだなぁ。散々採集に付き合わされて結構疲れてたし。ちなみに、この家の主である魔理沙曰く、化け猫の寝床に布団なんて上等品は不要だそうな。酷いなぁ。紫様は当然、阿求だって布団に寝かせてくれたぞ。

 とりあえず、ガチガチに固くなっているであろう身体をゆっくりと伸ばすことから始めよう。そう思い、私は身体を起こす。

 

「うわ――きゃっ!?」

 

 が、その瞬間、何故か既に立っていた身体が大きく前に傾き、盛大な音を立ててすっ転んでしまう。咄嗟に腕を前に出そうとしたのだが、何かを掴んでいたらしく、変に引っ掛かって被害が拡大してしまった。……えっと、どういうこと?

 少しばかり痛む身体を擦り、上半身を起こしてから周囲を見回す。……何処だ、ここ? 魔理沙の家にしては綺麗過ぎる。私の身体はいつの間にか別の家に移動したんじゃあなかろうか。見回す際に手に持っていたのが箒だと今更ながら気付き、ついでに部屋の壁と窓に見覚えがあり、ここは魔理沙の家であると思い直す。移動なんかしていなかった。多分。

 

「急に表に出られると困りますよ」

 

 この身体の口が勝手に動き、ようやく別のが表に出ていたことに気付かされた。

 

「……ごめん、寝ぼけてた――私が早起きして勝手に掃除をさせてもらってたもの。私も悪かったわ――確認せずに出た私が悪い。邪魔してごめんね――気にしなくていいのよ? けど、次は気を付けてね?」

 

 あー、悪いことしてしまったなぁ……。どうやら、隣のは掃除したいから表に出ていたらしい。そのために内側のどれにも一切告げず、さっさと早起きして活動し始める徹底ぶりである。

 持っていた箒を隣に置き、大きく伸びをする。箒を手放す手がやけに固く、それだけ掃除がしたかったのだと思うと、何とも言えない気分になる。いや、まぁ、悪いことじゃないんだけどね? ここは魔理沙の家であって、これから何日も邪魔するわけじゃないだろうし、別にやらなくてもいい気がするんだけど。ま、気にするのはやっぱり気にするのかねぇ。

 

「ところで、部屋中に雑に置かれてたものは?――一旦外に出したわ。後で綺麗に拭き取ってから戻すつもりよ――ま、流石に捨ててはないかぁ――棄てるのも考えたけれど、取捨選択は魔理沙にさせなくちゃ」

 

 そう言ってから軽く笑う。私はあまり笑える気分じゃなかったのだけど、隣のは笑っているのだ。それはもう、出来の悪い娘を語る母親のような感じで。

 きっと、そんな気分だったからだろう。私は、視界の端で光る何かに気付いた。即座に視線をそちらに移し、それが魔力弾であることを察する。まずい! この上半身を起こしただけの体勢では避けれるものも避けれない。さらに言えば、仮に避けてしまうと家の壁に傷が付く。それはそれで魔理沙に何を言われるか分からないから嫌だ。

 ならば、私がやることは一つだ。

 

「右腕を前に出して結界!――え、えぇ!」

 

 隣のに私がやりたいことを告げながら右腕を上げる。直後に後押しされるように右腕が加速し、右腕を真っ直ぐと魔力弾に伸ばして前方に結界を張る。二つ分の妖力を込めた結界だ。魔力弾は目の前に張られた結界に阻まれ、この身体にも家の壁にも傷を付けることなく消え去った。……ふぅ、助かった。

 しかし、やっぱりわざわざ言葉にしないといけないのは……、いや、これ以上考えるのは止めよう。考えたところで、詮無い話だ。

 私はすぐに起き上がり、結界を挟んだまま私を攻撃してきた者の正体を見詰める。すると、向こう側にとても見覚えのある人間が見覚えのある八角形のものを手にしている姿が見えた。というか、魔理沙だった。

 攻撃してきたのは魔理沙だと考え、とりあえず目の前の結界を消した。すると、唐突にガッと胸ぐらを掴まれる。……おぉう、かなりお怒りのご様子。幸い、持ち上げられるほどの力はなかったようなのでそこまで苦しくはないのだけど、こんなことをされてはあまりいい気分ではない。

 

「この魔理沙様から泥棒とはいい度胸じゃねぇか……」

「待って。何か勘違い――今、掃除をしている途中ですよ。こんな埃っぽい不衛生な部屋でよく生活出来るわね」

「……ん? 何だ、化け猫か。というか返せ! それは私の箒だ!」

「手頃な掃除道具がこれしかなかったもの。しょうがなかったのよ」

 

 そんなことを隣のが話している間に、魔理沙は胸倉から手を離した。どうやら勘違いは自己解決してくれたっぽいし、表は隣のに任せて私は内側へと戻るとしよう。私が一緒になって出ていたら、魔理沙を困惑させてしまいそうだしね。

 内側に戻ってみれば、いくつか目覚めていたようだ。私と違って、寝ぼけて別のがいるにもかかわらず表に出るようなことはしていない。はぁ。

 

「それと、私が集めたものを何処に隠しやがった!」

「隠してません。外に出しただけです」

「おまっ! そんなことしたら盗まれ放題じゃねぇか! なんてことしてくれやがる!」

「そんなものより、この不潔な空間の掃除のほうが大事ですから。不摂生はよくないですよ?」

 

 しかし、魔理沙は表のの言葉を最後まで聞かずに弾かれたかように外へ飛び出していった。そして、外からガチャガチャと音が伝わってくる。まぁ、本当に必要ならいつでも取り出せるように整理して置いておいた方がいいと思うんだけどなぁ。あのままじゃ一つや二つくらいなくなっても気付けなさそうだったし。

 そんなことを考えながら表の様子を見ていると、すぐにでも外に出されたものを家に戻したい魔理沙と、埃を拭き取っていないものを家に戻したくない表のが言い争いを始めていた。……あれ、何だか昨日似たような状況を見たような気がするんだけど、気のせいかな?

 まぁ、別に放っておけばいいか。私の出る幕じゃあないし。宴会の荷物持ちを任されたときに私が表に出ることになったら出るくらいで、後は他のに任せておこうかな。

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