東方九心猫   作:藍薔薇

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よーし、しゅっぱーつっ!

 すっかり綺麗に片づけられた部屋の中を魔理沙が右往左往している様子を、私は内側からぼんやりと見守っている。ちなみに、そこで黙って待ってろ、と言われたので、表は素直に黙って待ってくれる適任なのに任せておいた。ほら、椅子に座ったまま西日で茜色に染まった壁の一点をジーッと見詰め続け、ピクリとも動かず物音一つ立てない優秀さだ。私ならずっと動かないなんて苦痛だから嫌だね。

 それはさておき、魔理沙がああやって慌てている理由は、今夜の宴会の荷物をまとめているからである。掃除の整理整頓の時についでにまとめておけばよかったのではなかろうか、とも考えたけれど、思い返せばそんなこと許してくれるはずがなかった。外に出したものは全部綺麗に整理してきちんと収納しないと気が済まなかっただろう。多分。

 

『はーい、魔理沙の宴会の荷物持ちになりたいの挙手』

 

 というわけで。荷物持ちとして表に出るのを募集する。無論、一つで十分だ。代わる代わるに運ぶ必要性は皆無である。さて、立候補するのがいるのやら。

 

『はいはーい! 僕やる僕やるー!』

 

 いた。不安だ。

 私以外にも同様に不安を覚えたのがいくつかいるらしく、そのうちの一つが率先して止めに行くようだ。……いや、まぁ、ちゃんとやってくれるならどうぞご自由に、と思う私は止めるつもりはそこまでなかった。だってさ、無邪気に手を挙げているのを止めたなら止めたで、その時は別のが荷物持ちをやらないといけないわけでしょう? だったら、別にいいのではなかろうか、とも思うのだ。不安だけど。

 

『おいおい、しっかり出来るんだろうな? 明後日の方向にふらっと寄り道なんざしねぇよな?』

『大丈夫っ! 僕にまっかせなさ―い!』

『……なら、いいんだが』

 

 頭を軽く押さえながら見るからに仕方なく、あるいは渋々といった風に納得したようである。ま、他に挙手してるのがいないし、別に構わないよ。ただし、表の様子はちゃんと見守るつもりだけどね。不安だから。

 

「よしっ! これだけあればいいだろ」

「……………」

 

 お、魔理沙の荷物がちょうどよく集まったらしい。それなりに値を張りそうな酒が五本に、いかにも保存食って感じの乾燥茸が数種類。それらが手提げ袋に押し込まれている。なぁんだ、思ったより少ないじゃないか。私は数十本の酒瓶を勝手に想像していたので、若干だが拍子抜けである。

 

『いい? 荷物を落としたりしないようにね?』

『はーい! いってきまーす!』

 

 表へ飛び出す直前に注意を受け、意気揚々と飛び出した無邪気なのは表のと交代した。表からすんなりと戻ってきたのは、そのまま奥の方へと下がっていく。

 表に出て、早速手提げ袋を掴み取り、ズイッと魔理沙の顔に急接近する。……こうして近くで見てみると、魔理沙って意外といい顔してるかもしれない。だからどうしたって話だけどさ。

 

「ふっふーん! それじゃあ、行こっか! まりまり!」

「うおっ! き、急にテンション変えんなよ。こっちが驚くだろうが」

「えー? 僕はいつもこうだよ? 変なまりまり」

「うっせぇ! お前の方が絶対変だわ!」

 

 まぁ、確かに表のはいつもあんな感じだ。だけど、私の内側を知らない者からすれば、急に性格がグルリと変わる珍妙な化け猫になるんだよ。だから、魔理沙の意見は間違ってるけど正しい。

 他の化け猫も私と同じだと思ってた頃もあった。けれど、いくら探してもいくら話しても、私と同じ化け猫はいなかった。おかしいよね。そういうものなんだ、って飲み込むまでは、ちょっと寂しかったかな。……あれ、私が寂しかったのかな? 他のが寂しかったのかな? よく分かんないや。ま、どうでもいいか。

 

「よーし、しゅっぱーつっ!」

「おい待て! 何処に行くかまだ言ってねぇだろ!?」

「あ、そっか。何処行くの?」

「博麗神社だよ!」

 

 へぇ、博麗神社で宴会するんだ。じゃあ、霊夢もいるのかねぇ。他に誰が参加してるんだろうか。いや、考えるだけ無駄か。行って見たほうが早いだろう。

 

「ふふふーん、ふふふふふふーんふふーん」

 

 魔理沙の家を出た表のは、魔理沙の隣で鼻歌を歌いながら博麗神社へと歩いていく。視線があっちこっち行ったり来たりしていて、実に楽しそうである。ただ、時折ふらっと別の方向に数歩動いて、それから思い出したかのように戻っているのは少しだけ面白い。……まぁ、荷物持ちを忘れかけていたという点に目を瞑ればだが。

 

「何だ、その鼻歌?」

「楽しいでしょ? 歌うともっと楽しい! だから歌うんだよ。ほら、一緒に!」

「付き合ってられねぇわ……」

 

 その言葉に表のは不貞腐れたが、すぐに切り替えてまた鼻歌を歌い出す。それを聞かされる魔理沙は若干辟易しているようである。ま、しょうがないね。

 それからも私は表の様子を見守り続け、やや難はあったものの博麗神社まで荷物持ちを全うしたことにホッとした。

 

「あら魔理沙。今日は随分とお早い到着じゃない」

「別にいいだろ? それより、一人追加だ」

「れむれむだー!」

「れむ……? ……ま、そのくらい見れば分かるわよ。その分、酒は用意してあるでしょうね?」

「まぁな」

 

 おぉ、表のが勝手に名付ける妙なあだ名を綺麗に流したよ。気にしない系なのかな? それとも、無視する系なのかな? 霊夢は紫様を通して長い付き合いになりそうだから、この宴会を機会に多少は知っておきたいものである。

 

「はいこれ!」

「これ、魔理沙の?」

「そうだよ? それじゃあね!」

 

 表のは魔理沙の荷物を早々に霊夢に手渡し、さっさと博麗神社へと勝手に入り込んでいった。止めたほうがよかったかなぁ? いや、誰も止めてないし、別にいいや。

 さて、宴会をする夜にはまだ少しばかり早い。きっと、他の参加者はこれから集まってくるのだろう。表のは全く大人しくないけれど、私は内側で大人しく待っているとしましょうか。

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