東方九心猫   作:藍薔薇

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もふもふはもふもふのもの

「今日もよく集まってくれたな。それじゃあ、乾杯!」

 

 魔理沙を乾杯の音頭を取り、宴会は始まった。各々が酒やら料理やらに手を伸ばし、ペラペラと語り出す。表のは早速酒に手を出しているけれど、大丈夫だろうか? ……いや、まぁ、私の言えた義理じゃあないのだけれども。

 今更ながら気づいたのだが、いつの間にやら人形より人形らしい金髪の少女が混じっていたのだけれど、特に見向きもされていなかったので、私は気にしないことにした。

 

『まぁっ、あの料理を調理したのは誰なのかしら?』

 

 隣で表の様子を見上げているのは、並べられた料理の数々に見惚れているようである。私みたいな素人でも見るだけで分かるくらい美味しそうな料理だし、作る立場から見ればそれはもう素晴らしい代物なのかもしれない。ま、具体的に何がどうしてそう見えるのかはいまいちよく分からないし、表のは全く意に介することなくポイポイ口の中に放り込んでいる。表のが味わってるかどうか? さぁ、知らね。

 

「んー、美味しー!」

「あらぁ、案外行ける口なのねぇ。ほら、どうぞ?」

「ありがと、ゆうゆう!」

 

 ケラケラ笑う表のは、何故か幽々子にお酌されている。……いいのかなぁ? ま、いっか。お互い気にしてなさそうだし。むしろ、ドンドン呑ませて酔わせちゃおう、みたいな意思を感じる。

 まぁ、この身体は割と呑める。ただし、呑めば当然表のは酔っぱらう。滅多に酔い潰れることはないだろうけれど、ある程度呑んでると性格が変わるのも多い。ちなみに、私はあまり変わらないらしい。好き好んで呑まないだけとも言う。

 

「春をかき集めた首謀者が猫如きにお酌とは、程度が知れるものだな」

「あらあら、お子様は霧に紛れて呑気に遊んでればいいじゃないかしらぁ? ……あ、日も遮れない程度の霧じゃあねぇ」

「にゃっははーん」

 

 ……あぁ、宴会が始まってからも煽り合わないで……。聞かされる側の身にもなってほしい。吸血鬼と亡霊の頂上決戦なんて私は巻き込まれたくない。表のは実に楽しそうに笑っているのだが、これの何処に楽しい要素があるのか理解に苦しむ。

 

「にゃははっ。すっごーい! たーのしー!」

 

 おや、表のの様子が……? 何が凄いのか、何が楽しいのか、そんなことを考えていると、表のは隣にいた幽々子に突然抱き着いた。表のが二人の間に割って入った形となり、その際に見えたレミリアの目が真ん丸になっていた。今は幽々子の質のよさげな服で視界が一杯だ。お腹に思いっ切り顔を埋めている。

 

「わふぅ……。ひんやりふかふかだー」

「あらぁ、急にどうしたのかしらぁ?」

「……ふん、興が醒めた。その猫に救われたな、亡霊が」

「れみりーおもしろーい!」

「な、何だ急に! 離れろ! 毛が付く!」

「あらあら、振られちゃったわねぇ、私」

 

 何の脈絡もなく表のはレミリアに向かって跳びかかり、表のはそのままガッチリと抱き着いた。……あぁ、そういえば酔っぱらうと抱き着き癖が浮き出るんだっけか。ま、レミリアのお腹にグリグリと擦り付けている頭を両手で挟まれ、すぐに引き剥がされたけどさ。怪我してないあたり手加減してくれているのだろう。

 ……今、一瞬だけど咲夜の非常に冷ややかな鋭い目が見えた気がした。……大丈夫かなぁ、表の。

 

「……何をしてるんだ、彩」

「あー! らんらん、それにだいだいも!」

 

 え、なんで藍と橙がここにいるの? 周囲も急な来訪者に注目している様子。視線が集中した橙が不安気に藍を見上げ、そんな橙に対して藍は頭を優しくなでて落ち着かせている。仲睦まじいようで何より。はぁ。

 

「幽々子、これがその二人?」

「えぇ、そうよぉ」

 

 どうやら、幽々子が二人を招いていたらしい。知らなかった。まぁ、紫様の式神と、その式神だからかな? ま、理由なんてどうでもいいか。

 

「うわーい! もふもふだー!」

「あっ、こら、彩!」

 

 そんなことを考えているうちに、表のは早速藍の尻尾に跳びかかって抱き着いていた。……まぁ、藍の尻尾って触り心地よさそうで抱き着くにはちょうどいい大きさしてるもんなぁ。しかも、そんな立派な尻尾が九本もある。羨ましい限りだ。

 まぁ、藍に対してこんなことをしている表のに橙が黙っているはずもなく、藍の尻尾に抱き着く腕を引っ張って無理矢理引き剥がそうとし始める。

 

「ふしゃーっ! はーがーれーろー!」

「えー? いいじゃーん、このもふもふはもふもふのものだしー。……ぐぅ」

「その尻尾は藍様のものだー!」

「……あー、橙。少し落ち着くんだ、な?」

 

 そう藍は言うものの、怒れる橙は全く落ち着く様子はなく、しがみついたまま寝やがった表のを引き剥がすのに必死である。本気で鎮めたいなら表のを引き剥がすをの手伝うべきだったよ。うん。

 

「聞こえてるだろう? どれか出て離れてくれないか?」

 

 ……あー、うん。聞こえてる聞こえてる。けれどさ、表に出ると酒の入った身体の所為で即座に酔いが回るんだよ。だから出たくない。しかし、このまま藍の頼みを放っておくわけにもいかないんだよなぁ……。はぁ。

 

『……どれが出るよ?』

 

 内側に声を出してみるものの、これといった返事がない。スイッと目を逸らされたり、逆に目を思い切り合わされたり、そもそも聞いていなかったり……。出たがらないのは分かる。分かるよ。けれど、どれかが出ないといけないんだ。たとえそれが人身御供だとしても。

 内側が沈黙に包まれる中、とある一つから向けられる視線が滅茶苦茶痛く感じ始める。……あー、はいはい、そうですよ。一昨日、二日酔いするほど呑んだのは私ですよ。だから出りゃいーだろーが、とでも言いたげだなぁ。……はぁ。

 

『分かった、私が出るよ。言い出したのは私だしね』

 

 あぁ、嫌だなぁ……。若干肩を落としつつ表へ向かい、眠っている表のを内側へ引っ張って私が代わった。瞬間、身体に残っていた酒気が頭をぼんやりとさせる。うげぇ、結構呑んでるな、これ。

 頭を押さえながら藍の尻尾から離れ、顔を真っ赤にしている橙の手を軽くあしらって幽々子の元へ向かう。いつの間にやら隣に妖夢がいたけれど、気にせず腰を下ろす。幽々子に酒を勧められたけれど、丁重にお断りしておいた。もう酒は呑みたくない。料理でも食べてるよ。あははー。

 ちまちまと見た目通り美味しい料理を口にしながら、何となく藍と橙を見遣る。早速、レミリアやら魔理沙やら霊夢やらに囲まれて大変そうである。苦笑いを浮かべながら酒を呑み、訊かれたことには丁寧に答えているようだ。あー、大変そうだなぁ。あははー。

 

「……人気だねぇ、藍は」

「そうでしょうねぇ。そのために呼んだんだもの」

「深くは訊かないよ」

「あら、残念ねぇ」

 

 この様子じゃあ、妖霧と紫様は多少なりとも関係があるらしい。面倒事の予感がするので、紫様に命じられない限り関わらなくていいだろう。難しいことも面倒なことも嫌だからね。

 

「彩さん、お水を飲みますか?」

「飲む。頂戴」

 

 妖夢の好意を受け取り、冷たい水を一気に飲み干す。……この何とも言えない嫌な気分も一緒に飲み下せたらいいのに。

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