東方九心猫   作:藍薔薇

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またしても、二日酔いである。

「……頭、痛い」

 

 肩を軽く揺らされて目覚めてすぐ、ズキズキと内側が締め付けられるような頭痛に思わず頭を押さえる。……またしても、二日酔いである。夜分に大変迷惑だと思いながらも、阿求のお屋敷にいた不寝番の人に無理を言って頼んで部屋を借りたわけだけど、この痛みは結構きつい。迎え酒なんて嘘っぱちだ。信用しちゃいけません。知ってたけど。はぁ。

 昨夜の宴会は日付が変わる前に三日後の宴会を約束して解散となった。ある者は博麗神社に泊まらせてもらったり、ある者は酔い潰れてそのまま博麗神社で強制宿泊となったり、ある者はほろ酔い気分で帰宅したり、ある者は寝る場所を提供しようかと誘っていたりしていた。ちなみに、私は藍からは迷い家に、幽々子からは白玉楼に誘われた。しかし、私は両方断った。藍には御両人のお邪魔は出来ませんよぉ、みたいなことを揶揄いながら言って誤魔化した。幽々子には既に泊まる場所はあるから、と申し訳ないという風を装いながら言った。別にどちらかの誘いに乗ってもよかったのだろうが、それでも断ったのに深い理由はない。完全に何となくである。

 

「おはようございます、彩様」

「……あぁ、うん、おはよう阿求」

 

 ゆっくりと身体を起こしながら隣にいた阿求と挨拶を交わす。前回泊まらせてくれた時の朝とは違い、わざわざ私を起こしに来てくれたらしい。ありがとう。開いている手で帽子を手に取り、痛む頭に強く押し付けるように被る。心なしか痛みが和らいだような気がしたが、それでもやっぱり痛いものは痛い。はぁ。

 のそのそと布団から出た私は、そのまま阿求に引っ張られるように食卓へ向かい、前回と同じくシンプルな卵粥と添え物少々をいただいた。とてもありがたい。箸を手に私がのんびりと卵粥を食べているところを阿求が微笑みながら眺めていて、何だかこそばゆい感じがした。私の食事風景なんて見てても何にも面白くないと思うんだけどなぁ……。

 

「ごちそうさま」

「お粗末様。昨日は私の屋敷に戻ってきませんでしたが、何かあったのですか?」

「あったよ。魔理沙に捕まった」

「それは、……ご愁傷様」

 

 苦笑いを浮かべられてしまった。いざ同情されると、ちょっぴり傷付く。阿求にそんな意図はないことは分かってる。それでもね、何だか悲しくなってくるものなんだよ。はぁ。

 このまま同情めいた苦笑いをされ続けたくなくて、私は無理にでも話を変えることにした。えぇと、話題、話題、話題……。何かないかなぁ? 何でもいいから、少しでも話を逸らしたい。……あ、そうだ。

 

「阿求は二日酔いしてないんだね」

「あれからはちゃんと節度を守ってますよ。翌日に負担をかけるような呑み方はしません」

「なら、よかった。うん」

 

 けれど、呑んでるんだね。しかも、その口振りは毎日呑んでいると言っているように感じる。実際、呑んでいるんだろう。

 人間の里で時期も理由も不明なのに何故か流行している酒盛り。若干隔絶されている阿求にも伝わる程度には影響が強い。三日ごとに博麗神社で開催される宴会。酒、酒、酒。皆挙って酒ばっかり呑んだくれて、そんなに酒が大好きか? ……あぁ、大好きですよね。そうですよね。はぁ。

 

「どうかしましたか?」

「……あー、いや、まだ頭が痛いだけさ」

「そうでしたか。ご無理をなさらず、お大事になさってくださいね」

 

 思わず頭を押さえていたら、阿求に心配されたので咄嗟に嘘を吐く。……いや、まぁ、頭が痛いのは確かだから完全には嘘じゃあないんだけどさ。けれど、違うから。だから、慈しむように微笑まなくていいんだよ。優しい言葉を掛けなくてもいいんだよ。嘘吐きな私には、どれもこれも不相応だから。

 けれど、私はさも分かったかような顔をしてスッと立ち上がる。帽子を目深に被り直し、私は阿求に背を向けた。理由? 阿求のお屋敷から出るためだよ。それ以外に何かあるのかい?

 

「それじゃあ、今日はゆっくりと外を歩くとしようかな。無理しない程度にね」

「そうですか。あの、また戻ってきますか? もしそうならば、部屋を用意しておきますが……」

「あー、どうだろ。分かんないや」

「それならば、用意しておきましょう。いってらっしゃいませ、彩様」

「うん、またね」

 

 軽く手を振り、お屋敷を後にする。これといった目的もないし、人間の里を歩いて回ろうかなぁ。無論、酒は呑まない方向で。あぁそうだ。次の宴会には私も酒を用意した方がいいのかな? それなら、何処かでよさそうなものを買っておかないといけないよね。ついでに、何かつまみになるものも買っておこうか。金なら無駄にあり余ってるし、消費するにはちょうどいい。さっさと使って経済回してあげないと。

 そんなことをだらだらと考えながら、陽気に酔っぱらう人混みの中に紛れ込む。……あぁ、どこもかしこも酒臭い。鼻にくるその臭いに嫌気が差し、顔を上げて空を見上げた。何となくだけど、いつもより空が白っぽく、太陽がぼやけて見えた気がした。

 

「……はぁ」

 

 あのさ、紫様。正直言って早く帰還したいんですが、いつになったらいいんですかね?

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