「……はぁ」
目覚めてすぐに思わずため息が漏れ出てしまった。晴れやかな気分とは程遠い、鬱々とした気分の嫌な目覚め。この身体に酒気はもう残っていなさそうだけど、そういう問題ではない。
昨日の人間の里の散歩は朝っぱらから夜にかけて何度も酒盛りに誘われては断り、目に付いたお店で食事をしていれば周囲の人間達は酒を呑んでおり、小腹が空いて間食を買えば酒のつまみに最適だよなんて赤ら顔で言われ、そしておそらく日を跨いでも人間達は酒ばっかりでウンザリしたのだ。しかも、阿求のお屋敷に帰ってみれば、なんと阿求に月見酒を誘われる始末。丁重にお断りしたけどさ。
つまり、誰も彼も酒に溺れてる。ただでさえ好きとは言えない酒が、これを境に嫌いになってしまいそうだ。はぁ。
「そうだ、外に出よう。……うん、そうしよう」
人間の里から離れれば、この酒臭い空気も薄まってくれるはずだ。食事に関しては、内側にいるどれかに任せれば何かしら捕まえられるだろう。外の何処に行くか? 考えてなかった。けれど、日が落ちる頃に戻ってこれる距離なら別に何処でもいいかなぁ。流石に阿求のお屋敷で寝泊まりさせてくれると分かっていながら外で野宿をする気にはなれないし。
『と、いうわけで。どれか採集か狩猟してくれない?』
『なーにがというわけだ! 意味分かんねー!』
もぞもぞと布団の中に潜り込み、早速内側に戻って話してみれば、目の前にいたのに怒鳴られてしまった。この様である。おっと、説明が足りなかったかな?
『いやね? 人間の里は酒臭いからさ、外に出て少し落ち着きたいの。だけど、外で何か食べるためには採集か狩猟をする必要がある。だから、採集か狩猟が出来るのにそこは任せたい。分かった?』
『……あー、そんなに表が嫌なら俺が代わってやろうか?』
『別にそれでもいいよ、私は』
……ああ言っておきながら、要は私の代わりにどれかが表に出てくれればそれでいいのだ。昨日の人間の里には嫌気が差したからね。少しくらい休ませてほしい。
不足していた説明を終え、私は内側を見回す。すると、目の前にいるのは拳を手の平に打ち付けた。
『よーく分かった。狩りなら得意だぜ!』
『毎日お酒ばかり呑んでいては身体に悪いですもの。澄んだ空気に包まれるのはいいことだと私は思いますよ』
『そう思うよね? だからさ、いっそ外に出てしまえば酒なんぞ見ずに済むと思ってさ』
『えー? 皆でワイワイ呑むのって楽しいのにー』
『あん時酔い潰れやがった癖に何言ってんだ』
『私は食用植物の判別なら出来ますが、狩猟はあまり得意ではありません』
『ふん、鬱陶しい』
『ん』
『集めた食材の調理は私に任せてくれていいわよ? 道具がなくても出来ることはあるんだから』
おおむね良好。内側も酒に飽き飽きしてるのが多かったらしい。もしも多数決を取れば、賛成多数で外に出ることが出来そう。そして、私は内側でゆっくりと休めそう。どうせだし、この身体も多少は休ませてほしいものである。
『それじゃあ決まりだね。どれが表に出る?』
『俺が出る!』
『俺が出ようか?』
『僕もが』
二つかぁ。……え? もう一つ名乗り出てた、だって? 知らないね、口を塞がれたのなんて。つまり、誰が何と言おうと二つだ。
どちらが出るか少し時間が掛かるかもなぁ、と思っていたのだが、後者のほうがすぐ譲ったようだ。ま、昼に何か食べるつもりなら、狩りが得意なのに早めに任せたほうがいいだろう。直接捕まえるにせよ、罠を仕掛けるにせよ、時間があったほうがいい。
「さーて、早速出るか」
譲られて即座に表に飛び出したのは、布団から飛び起きてすぐに窓に顔を向けた。……ん? 窓に?
『まさか……?』
『そのまさかだろうなぁ』
表のが次に起こすであろう行動が読めてしまい、思わず言葉が漏れる。それを律儀に拾ってくれたのも、きっと同じことを考えているに違いない。
「ソラッ!」
案の定、表のは窓を抉じ開け、威勢のいい掛け声と共に外へ一気に飛び出していってしまった。そのまま真っ直ぐと飛び上がっていき、人間の里の遥か上空で身体を水平に直し、豆粒のように小さな人間達を見下ろしながら飛んでいく。……嫌な予感というものは、得てしてよく当たるものである。はぁ。
『……朝食、食べてからでもよかったのに』
私の呟いた言葉にはどれも答えてくれなかった。……表の、即断即決もいいけれど、用意することが一つ増えてしまったじゃあないか。それに、阿求に無断で出て行くことになってしまった。さらに言えば、阿求のお付きの人が用意してくれているであろう朝食も無為にしてしまうわけだし……。はぁ。
内側に響いた言葉が表に伝わるはずもなく、表のは山へ向かっていく。あそこは迷い家のある山だけど、多分そう言うことは考えていなくて、食材があるから向かっているのだろう。実際、あそこでよく採っているのを知っている。
……ま、いいや。今から阿求のお屋敷に戻ろう、何て言うのも面倒だ。表のが自ら起こした行動なわけだし、私はもう止めるつもりはない。表の様子を窺って四苦八苦するとあんまり落ち着けないし、奥のほうで休むとしましょうか。
それじゃあ、二度寝になるけどお休みさない。