幾分軽くなった瞼をゆっくりと開いて、体を起こしながら周囲を見回してここが内側だと思い出す。あぁ、そうだ。私は二度寝してたんだ。で、表は他のに任せて、多分何か食べてるんでしょ。もしかしたら、もう食べ終えてるのかも。そんなことをぼんやりとした頭で考えながら、私はのそのそと歩き出した。
『お、起きたか』
『……うん、おはよう?』
『今はちょうどお昼時ですから、もうこんにちはですよ』
『そっか、こんにちは』
『はい、こんにちは』
まだ少しばかり空回りしている気がする頭のまま挨拶を交わし、寝ぼけ眼のまま表を見上げる。……えぇと、あれは川魚の串焼きかな? 焚き火がパチパチ音をたてて燃えているんだけど、どうやって準備したんだろう? 火を扱う妖術は今は扱えなかったと思ったんだけど、どれか出来るようになったのかな? もしそうならば、羨ましいばかりである。
『そういえば、朝食は食べてた?』
『ん? あぁ、食ってたぞ。その辺に生ってた木の実をな』
『そっか。なら、よかったかな』
阿求のお屋敷で食べていれば、何て言うのは流石に野暮ってものだろう。私が勝手に二度寝している間に、色々ちゃんとしていたみたいだね。うん。よかったよかった。
『春が早々に流れていったとはいえ、探せば見つかるものですね』
『調理道具はまだしも、調味料がないことが最大の誤算ね……。よく考えれば、そんなものが山の中にあるはずないもの……』
少し離れたところからは、そんな言葉が聞こえてくる。改めて表を見上げてみれば、焚き火の横に敷かれた大きめの葉っぱの上に、木の実が小さな山を作っていた。それと、調味料はしょうがない。せめて、塩だけでもあればよかっただろうに。……一瞬、迷い家なら、と思ったけれど、言わないでおく。言ったところで今から変わるわけではないし、あそこには藍と橙がいる。仲良しなお二人の邪魔はしないほうがいいだろうからね。
そんなことを考えていると、表のが串焼きに手を伸ばした。どうやら、焼き上がったらしい。早速川魚の腹を骨ごと豪快に齧り付いているのを見るに、美味しいのだろう。あるいは、それだけお腹が空いていたのかな。空腹は最高のスパイスだそうだからね。食後には葉の上の木の実をポイポイと口の中に放り込んでいる。
「……あー、食った食った」
満足気である。しかし、それで終わりにせず、ザラザラと土と石が混じったものを焚き火に被せて鎮火を済ませたようだ。駄目押しに、近くの小川の水をバシャリと掛けている。これで万が一山火事になるようなこともないだろう。うん、安心。
私が表のの行動にホッとしていると、表のは何故か振り返って空を見上げた。何かあったのかな、なんて軽く思っていたら、そこにいた者に度肝を抜かれてしまった。
「で、俺に何の用だよ、コーハク?」
「あんたのお食事をわざわざ待ってあげたのよ? それなのに第一声がそれじゃ、躾がなってないのね」
なんで博麗の巫女が私なんかに用があるんですかー!? 僅かに残っていた眠気が丸ごとぶっ飛んだ。
右手には退魔の霊力が宿るお祓い棒。左手は空いていて自由になっているけれど、袖の中に札、針、陰陽玉といった投擲武器が隠されているのが見えてしまった。どう考えても、そのための左手である。
表のはふわりと浮かび上がり、霊夢に思い切り近付いて思い切り睨み付けた。……いや、近いよ。見え見えの挑発に乗らなくていいから。けれど、残念ながら表のに私の意思が伝わるはずはなかった。そりゃそうである。
「躾だー? 知るか、んなもん!」
「ま、別にいいわ。あんたはあの宴会に参加した。だから、とりあえず叩きのめさせてもらうわよ。ついでに訊き出したこともあるし、ちょうどいいわ」
……はい? 今、何と言いましたか? 宴会に参加したから叩きのめす、とな? 私、何か粗相したっけ?
『んー? 僕を見ても何にもないよー?』
……してたわ。霊夢に対して直接何かしたわけではないけれど、レミリアとか幽々子とかに好き勝手抱き着いてたわ。いや、まさか、そんな理由じゃあないでしょうね? そうじゃないと言ってください、お願いします。
まぁ、少し落ち着いて考えてみれば、前に魔理沙が私に妖霧について力尽くで訊いてきたんだ。異変を解決する霊夢が同じことをしてきたとしても、何ら不思議なことではない。もしかしたら、目に付く容疑者を手当たり次第に叩きのめして回っているのかもしれない。そう考えると、こちらとしては傍迷惑な話ではあるものの、とりあえず霊夢に叩きのめされ、それから無実であると認めてくれるのなら、叩きのめされるのも別に悪くないように思えてきた。ただし、私は痛いのは嫌だから、叩きのめされるのは別のに任せるとしよう。うん。
「つまり、俺とやりてーわけだろ?」
「えぇ。スペルカードは三枚、被弾は三回。それでいいでしょう?」
「あぁ、いーぜ?」
霊夢のお祓い棒を突き付けられてサッと距離を取った表のは、それはもう好戦的に笑う。即座に両手の爪を伸ばし、やる気満々である。いやはや、やってくれるなら私はそのまま任せるだけである。
後は、妙なことをしないことを願うばかりである。頑張れ、表の。応援してるよ。応援はね。