東方九心猫   作:藍薔薇

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あんたは何人いるの?

 表のと霊夢はお互いに睨み合い、表のは両手の爪に妖力を込め、霊夢は右手のお祓い棒を固く握り締める。……さて、どちらが先に出るかなぁ? 

 

「しゃらぁーっ!」

 

 そんなことを考えていたら、すぐに表のが空を蹴り出すように飛び出し、霊夢の胴に向けて右腕の大振りを振るう。ちょ、殺意高くない? ま、そんな心配は必要なかったらしく、霊夢は表のの爪をお祓い棒で容易く受け止めていた。ギリギリと僅かに拮抗したが、割とすぐに表のは弾き飛ばされた。どうやら、霊夢の腕力のほうが強かったらしい。

 表のは空中でどうにか停止し、最初の場所から全く動いていない霊夢を見上げる。……あれ、視線が霊夢から少しズレてない? ……あー、そういうこと。好きだなぁ、本当に。

 

「くそっ! ……なんてな!」

 

 表のはそう言い放ちながら獰猛に笑い、右腕を思い切り引き抜く。その瞬間、霊夢の背後に漂っていた妖力弾が霊夢を襲った。右腕を振るった際に、右手の爪に纏わせていた妖力を既に飛ばしていたらしい。……まぁ、その後にわざわざ右腕を引いて見せるのは、問答無用で勝利をもぎ取りたいのなら無用な行動。つまり、所謂パフォーマンスなのだろう。ルールの無い世界の弾幕はナンセンスなように、不可能弾幕はアンモラル。糸口くらい、見せてやるべきなのだ。

 霊夢は表のの意図に気付いたらしく、即座に背後に振り返りながらお祓い棒で妖力弾を振り払う。……うわぁお。それなりに拡散していたと思うんだけど、一振りで全てかき消してしまうとは。見た目に騙されちゃあいけないね。うん。

 

「案外小賢しいのね、あんたは」

「はっ、知らねーな」

「けど、ちょこまか動かれると面倒なのよ。夢符『封魔陣』」

 

 霊夢は宣言と共に袖から札を引き抜き、青白い光を纏わせて全方位に展開していく。あの一枚の札から全方位へ連なるように広がっているのだが、直接当ててくるわけではなく、移動を阻害してくるスペルカードであるらしい。さらに、札にはパッと見で分かるほど強力な霊力が込められていて、ちょっとやそっとでは破れたりしなさそうだ。確かに、ちょこまか動き回る相手には非常に有効だろう。

 

「……ちっ、面倒くせー」

 

 表のは物は試しとばかりに爪から妖力を放って引き裂こうとしていたが、傷一つ付かなかった。きっと、まとめて引き裂いて逃れようとでも思っていたのだろう。残念だったね。

 しかし、表のは両手に更なる妖力を込め始める。……まぁ、あの程度で諦めるほど素直じゃあないんだよなぁ、今の表のは。はぁ。

 

「だったら力尽くだ! 爪符『スーパーメガスラッシュ』!」

 

 その宣言と同時に両手にまとわせた妖力を巨大な爪撃と変えて霊夢に放った。流石に全部は引き裂けなくても、多少は切り崩せるんじゃないかな?

 

「……んだと?」

 

 ……しかし、結果は大して変わらなかった。なんと、最初の一枚すら破れなかったのだ。表のは瞬間火力なら一、二を争える。つまり、霊夢に対して力業で勝るのは困難であるようだ。無論、私が勝てる要素はない。いやー、流石は博麗の巫女。たかが化け猫に破れることはないらしい。

 

「あんたの実力は既に見させてもらったわ。あんたじゃ私に決して勝てない」

「言ってくれるじゃねーか、コーハク……!」

「事実よ。……ま、魔理沙と最初にやったのの不意討ちなら分からないけど、不意を討たれると分かっているのなら、どうとでも出来るわ」

 

 は? ちょっと待った。今、何と言いました? その口振りは、この身体にいくつもいることに気付いているようじゃないか。一体、何処まで気付かれた?

 

『ねぇ、あの台詞どう思う?』

『霊夢の前で七つも見せていますからね。九つであるとまではいかずとも、いくつかいるとまでは理解出来てもおかしなことではないでしょう』

『別に隠してることでもねぇし、別に構わねぇだろ』

『いや、まぁ、確かにそうだけどさぁ……』

 

 好き好んで露呈したくないんだよなぁ、何となく。こう、他とは違うんだ、って改めて言われてる気がして。人間と化け猫。一つと九つ。ほら、こんなに違う。

 そんな詮無いことを考えていると、霊夢はわざとらしく当てることはなく、しかし逃がすつもりもないとでも言いたげに札の数を増やしていく。動かなければ当たることはない。こちらからは何をしても通じない。そんなことをして何をしたいのか、と思った矢先、霊夢は一つ問うてきた。

 

「ねぇ、あんたは何人いるの?」

「馬鹿言ってんじゃねー! 俺は一人に決まってんだろーが!」

「そう。じゃ、これで詰みね」

 

 一枚の札が表のに投げつけられる。そのまま受けるはずもなく、表のは妖力を込めながら右手を振るう。しかし、やはりというか、込められた霊力と妖力の差が甚大であり、表のはたかが一枚の札に負けてしまったのであった。その場から弾き飛ばされ、つまり周囲を取り囲む大量の札に捕まり、グルグルと雁字搦めに縛られていく。……うへぇ、これは酷い。色々と。

 

「おいコーハク! 放せコラー!」

「あんたに勝ち目なんてこれっぽっちもないんだから、早々に切り上げさせてあげたのよ。さ、きびきび訊かれたことに答えなさい」

 

 簀巻きにされて納得いかないらしい表のがジタバタと暴れているが、霊夢は何処吹く風である。まぁ、あんな風に捕縛されてしまえば、被弾三回なんて一瞬である。一応、負けは負けだ。若干納得いかないところもあるけれど、必要以上にボコボコにされていないから別にいいかなぁ、と思ってしまう私もいる。

 

『……どうする? どれか代わってあげる?』

『場合によっては代わりましょうか』

『あんな喧嘩腰じゃ、霊夢とちゃんとお話し出来るか心配だもの』

『それじゃ、駄目そうならどれか代わろっか』

 

 まぁ、過程はどうであれ、結果は負けなのだ。敗者は勝者に従い、訊かれたことにしっかりと答えるのがルールってものだろう。はぁ。

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