東方九心猫   作:藍薔薇

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全部、私の所為だ

「この状況、どう打破する!?――殺す――引き裂く!――撃つ!――観察を――まずは癒し――守りま――見事にバラバラじゃねぇか!」

「賑やかだねぇ、あんた!」

 

 ……どうして。本当に、なんでかなぁ。表に八つ。私は一つ。表は必死だ。生を諦めていない。私は諦めてしまった。無理だ。私は表に出ない。出られない。だけど、このままでは死ぬ? ……馬鹿言わないで。足掻けば死ぬ。どちらにせよ、この身体は朽ち果てる。鬼を打破出来るほどの強大な力には、当然のように甚大なリスクが伴う。ハイリスク、ハイリターン。身に余る力は身を滅ぼす。すなわち、死だ。

 だから、私は弱くていい。弱くていいじゃないか。わざわざ強くある必要なんてない。ただ生きているために力なんて必要ない。不要なリスクを背負う必要なんてない。ローリスク、ローリターン。身の丈に合った力は、身を生かす。すなわち、生だ。死にたくないでしょう? 終わりたくないでしょう? 消えたくないでしょう? それでいい。当たり前じゃないか。いいに決まってる。

 それなのに、どうして、そうやって力に手を伸ばす? もう八つだ。残り一つ。つまり、私。欠けているものは、私だけ。

 

『……分かってる。全部、私の所為だ』

 

 あぁ、そうだとも。分かってる。知ってる。全部全部、回り回って私が仕出かした行いの結果なんだから。

 弱くていい? んなわけあるか! 私だ。他ならぬ私が力を求めたんだ! 貪欲に渇望した! 力を! 私はいつも満ち足りなかった。乾き切っていた。だってそうだろう? そこにいるのは、どれもこれも優秀なのばっかりだ。率先して前に出ることが出来る。家事全般を万全に熟せる。記憶力が非常に高い。物事を純粋に楽しめる。行動予測と瞬間威力が高い。物事を達観している。傷を癒すことが出来る。最適な身体の動作が分かる。けれど、私には何もなかった。だから、私も何か欲しかった。けれど、私は何をしても駄目だった。私が一歩進むころには、他のは二歩三歩と先を行く。何も勝てない。何も出来ない。何もない。圧倒的劣等感。私にはそれしかなかった。

 だから、何もせずに勝つことなく勝てるものを得ようとした。つまり、嘘。口先。誤魔化し。話術。戯言。何も勝つ必要はない。弱者は弱者のまま、無能は無能のまま、言い負かせばいい。けれど、それじゃあ駄目だった。満たされない。乾いたまま。そりゃそうだ。何の解決にもなっていないのだから。

 

『迫り来る脅威に立ち向かうにしろ、脅威から逃げ切るにしろ、まずは単純で強大な力が必要だと思わないかい?』

『何か守るには、それを守り切れるだけの力が必要だ。何もかも破壊されてからそれを建て直すつもりなんてないでしょう?』

『知識を身に付けるのは結構だ。けれど、それを生かすにはまず何が必要か……。知識を持っているなら分かるはずだ』

『駆ける、跳ぶ、引っ掻く、撃つ……。それだけで満足かい? もっと出来ることが多いほうが、私は楽しいと思うけど』

『今いる立場で十分かい? あぁ、分かってるとも。もっと伸し上がりたいんでしょう? ちょうど、いい方法があるんだ』

『弱者は淘汰され、不適者は絶える。目的はなくとも、ひとまず生きていたいんでしょう? だったらやることは一つだ』

『弱者に手を伸ばしたい。けれど、その手が脆ければ誰も掴んでくれないよ。引っ張り上げられる強い手が必要だ』

『敵は殺す。けれど、その敵が圧倒的に強ければどうする? ……うん、分かってくれて何よりだ。共に成し遂げよう』

 

 だから、私が全てを巻き込んだ。口先に出任せを乗せてその気にさせて、机上の空論を見せつけて、そして実行した。

 あぁ、成功したとも。けれど、失敗した。そりゃそうだ。あるべき過程を丸ごとすっ飛ばせば、まともな結果を得られるはずがない。想定していたよりも過剰な力に、何も変わっていない身体が耐えられるはずがなかったんだ。だから、死にかけた。私の所為で。

 だから、もう二度と御免だ。私の所為でああなった。失敗した。同じ轍は二度と踏まない。だから、私は弱くていい。強くある必要はない。……満たされなくて、乾いたままで、いい。

 そう、私は嘘を吐く。そうだ、これが普通なんだ。これが、これこそが私である。そうやって、私は私に嘘を吐いた。

 

『ねぇ、どうしたいの?』

 

 答えは返ってこない。当たり前だ。私以外、どれもこれも表にいるんだから。

 

『……どうすればいいの?』

 

 答えは返ってこない。当たり前だ。私以外、どれもこれも表にいるんだから。

 

『……教えてよ』

 

 答えは返ってこない。当たり前だ。私以外、どれもこれも表にいるんだから。

 

『……はぁ』

 

 静かだ。ため息一つさえも何度も木霊し耳を揺らすほどに。私は一つ。……あぁ、弱いなぁ。本当に、身も、心も、何もかも弱い。

 

「っとお!?――結界!――癒しは――無理だ!――いっくよー!――待ってくだ――ん――ふん」

「へー、あんたは八匹かい。だけど、私は百鬼だ! 数が全然足りてないね!」

「俺は一人だ!――私は一人ですよ――僕は僕だよ!――ふん――俺は一人だが――……ん――私は一人なんですが――私は一人ですよ」

「はぁ? なーに言ってるんだか。……いや、あと一匹いるのかな?」

 

 どうして力を求める? 求められる? ……私の所為だ。あぁ、そうだとも。

 ……本当は、気付いてたんだ。表に一つの原則を私が一番破ってる。もう一度至りたいんだろう? 死のリスクを冒してでも、強大な力が欲しいんだろう? そんな醜い欲望に嘘を吐いて、誤魔化して、それらしい理由を並べて、蓋をして……。

 なぁんだ。最初から、分かってたじゃないか。私。

 

『私はっ! 最初から最後まで! 嫌だと言ったからなああぁぁーっ!』

 

 答えは返ってこない。当たり前だ。私以外、どれもこれも表にいるんだから。

 ……これで死ぬ? いいよ、どちらにしろ死ぬ。前に歩いて朽ち果てるか、その場に留まって殺されるか。それだけの違いだ。

 私は、醜い劣等感を抱いて表へ跳び出した。これで、表に九つ。

 

「ごめん――遅ぇよ」

 

 カチリ、と欠けていた破片が埋まる音がした。ドクリ、と心臓が大きく跳ねる。内側から尋常じゃないほどの熱が湧き上がる。私という存在が大きく捻じ曲がっていくのが分かる。

 ……あーあ、遂に至ってしまったよ。悪かったよ、私の都合に巻き込んで。けれど、それでも目の前の鬼を討つために表に出たんだろう? だから、私は悪くない。

 そうやって、私は私に嘘を吐く。そうでもしないと、私は私じゃなくなってしまう。

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