東方九心猫   作:藍薔薇

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命名決闘法案

 表の視界は斜め上に浮かんでいる霊夢含んだ三人の人間に向けられていて、隣にいる橙の様子は窺えない。だが、そのこと自体は割とどうでもいい。問題は、橙と一括りに挑まれる可能性だ。……あぁ、嫌だ嫌だ。

 

「……何の用?」

「いやぁ? ただ吹雪の中を飛んでたら着いただけだぜ。どうだ、お前はここにいたんだ。場所くらい知ってるだろ?」

「迷い家よ。道に迷う者が行きつく場所」

 

 白黒魔法使いと橙が話し合っているうちに、私は内側で一言号令をしてみる。

 

『命名決闘法案をやる気があるの、集合』

 

 命名決闘法案。通称、スペルカードルール。人間が妖怪に勝つために、妖怪が人間と戦えるように、危険性を削ぎ落して派手さと美しさを混ぜ込んだ遊戯。その内容は細かいようで割と雑なルールなのだが、現状で最も重要な内容は()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだ。挑み方は、目の前で名乗りを上げてスペルカードの使用回数と被弾回数を提示してもいいし、実は不意討ちだろうと構わない――この場合は大抵基本であるスペルカード使用回数三回、被弾回数三回となる――ことが非常に質が悪い。ちなみに、逃亡は無効試合になりがちだが、妖怪側は自身のプライドがそれを許さなかったりする。

 私があの人間の誰かに命名決闘法案を挑まれるだろう、と推測するのは至極普通なことだろう。そして、表にいる無関心なのは、きっと挑まれても棒立ちしたまま被弾して終わる。それと比べれば、やる気のあるのどれかが出たほうがよほどマシというものだ。ゆえに、挑まれると推測出来るのなら、相手である人間のために代われるのを準備していたほうがいい。

 

『おう』

『やるやるー!』

『俺が出るッ!』

『ふん、やらせろ』

 

 ふむ、四つね。一つはこういう時に矢面に立つから、一つは無邪気にも楽しい遊びとして、一つは威張り散らすように、一つは暴れたくて、といったところかな。まぁ、この四つならどれが出ても特に問題はないと思う。

 

『じゃあ、挑まれたら出てってね。よろしくー』

 

 ちなみに、私は戦うのはあまり好きではない。それに、私より出来るのがいるのだし、別に構わないでしょう?

 集まっている四つのどれが出るかで言い争っているのを聞き流し、私は少し距離を取って奥の方へ行ったのに声を掛ける。

 

『あのさ』

『はい、何でしょうか?』

『終わったら治癒よろしくね』

『そうですね。身体の傷は私がしっかりと癒しましょう』

 

 うん。これで事後処理もよし。次は、っと。

 

『おーい』

『おや、どうしましたか?』

『紫様に異常気象について連絡する?』

『いえ。まだ確証を得ておりませんし、もう少し調べてからの方がよいのでは?』

 

 あー、確かに推測だもんなぁ……。以前に似たようなことがあっただけで、今回の原因がそれとは限らない。

 

『けど、紫様は何か分かったら連絡して、って言ってたよね? ……どうする?』

『ふむ……。そうですね。連絡してみましょう』

 

 何か分かったら、とは曖昧で困る表現だよね、といった感じに言ってみたら、連絡する気になったらしい。よし、これで命名決闘法案で負けた際に訊き出されるであろうことがよりよいものとなるだろう。人間が解決してくれるのならば、欲しい情報を渡して解決してもらうとしよう。わざわざ私が解決する必要なんてないよね。

 え? 私が連絡すればいいだろ、だって? 私より知ってるのがいるんだから、そっちに任せた方がいいに決まってるでしょ。

 

『紫様』

『彩。何か分かったことでも?』

『飽くまで推測ですが、春の損失が原因ではないでしょうか? 以前にも似た事象がありましたので、何者から春を奪っているのでは、と』

『春……、奪う……、集める……、開花……』

 

 おや、紫様が何やらブツブツと呟きながら考え始めたようだ。こういう時の紫様は、話しかけても思考に没頭して大抵聞いていない。なので、私は黙って結論が出るのを待つことにする。

 そして、一分ほど待っていると、紫様は何やら慌てた口調で私に命じた。

 

『彩。今すぐ冥界へ向かいなさい。境界は私が緩めるわ』

『冥界ですか?』

『関係ないならそれでいいわ。……けれど、もしかしたら、よ。その事態だけは避けなければならないの』

 

 唐突な冥界。あの情報からどうなって冥界に繋がったのだ。未だに慌てているのか、詳細なものではなく曖昧なことしか分からない。けれど、それが紫様にとって非常に重要なことなのは嫌というほど伝わってくる。

 けれど、残念ながらそれは無理だ。

 

「スペルカードは三枚、被弾は三回。いいな?」

「ん」

 

 今、表のが白黒魔法使いに命名決闘法案を挑まれてしまった。そして、どうやって選ばれたのかは知らないけれど、一つが表へと飛び出していく。

 

「ふん。覚悟はいいな?」

「あん? おいおいどうした、キャラ変わり過ぎじゃね?」

 

 表のがジャギン、と両手の爪を真っ直ぐと伸ばしながら冷めた目で白黒魔法使いを見上げている。……あぁ、一足遅かった。

 

『あのー、紫様。今、白黒魔法使いに命名決闘法案を挑まれてしまったのですが……』

『魔理沙に? 近くに霊夢はいる?』

『います。それがどうしました?』

『なら、霊夢に冥界へ向かうように伝えて頂戴。それが済んだら、貴女は帰還して結構よ』

『はぁ、分かりました。元より半分以上はそのつもりでしたので』

 

 よりよい情報を提供出来るように、と思ったら最重要な情報になってしまった気がするけれど、別に構わないだろう。

 異変の解決は博麗の巫女に任せた方がいい。色々な意味で、ね。

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