『……うぁ?』
私が死んだら一人の魂となるのか、それとも九つの魂となるのか少し気になっていたけれど、どうやら九つの魂になったらしい。ま、別にどうでもいいか。死んだらとりあえず三途の川か彼岸にでも流されるものだと思っていたけれど、ここは何処なんだろう? 私は死んだはずだ。あの状況で生きてられるとは思えないし。
『あれ?』
そんなことを考えていてちょっとだけ落ち着いたところで気が付く。周囲に他の八つが転がっている。……生きてる、のか? まさか、あの状況から? どうやって? どうして? というか、ここは内側じゃないか。見上げてみれば表が見える。……いや、瞼を閉じてるから実際は見えないけれど。
ひとまず、私は表へ出ることにした。表を空にし続ける理由はないのだから。
「……っつぅ」
表に出た瞬間、全身に痛みが走り、思わず声が漏れる。重度の筋肉痛みたいに身体が重く、少し動くだけでピシッと針を刺したような鋭い痛みを感じてしまう。頭が鉛のように重い。ゆっくりと瞼を開けば、眩しいほどの光が目に刺さり思わず目を閉じる。……あぁ、生きてるのか。はぁ。
光に目を慣らしながらもう一度目を開けてみれば、見覚えのある天井がぼやけて見えた。……ここ、私の寝室じゃないか。
「起きたか、彩」
横から聞き慣れた声が聞こえ、そちらに首を動かそうとしたが、痛みの所為で動かすのもままならない。それでも、どうにか少しずつ頭を傾けて目を移せば、そこにはやはり藍が座っていた。多分、声色的に心配していたのだと思う。
とりあえず身体を起こそうとしたが、手を付けた瞬間右手から激痛が走り、それと同時に両肩を藍に押さえられて起き上がることを諦めた。まぁ、あれだけやらかしたんだ。しょうがないよね。
「……おはよう?」
「まだ痛むか?」
「まぁ、そこら中……」
私はやったこと自体に後悔はない。けれど、やらないと決めてたことを破ったことを後悔している、気がする。力を求めていた。死ぬかもしれないと分かっていた。けれど、それでも渇望した。それなのに、どうして後悔してるんだろう? どうして後悔していないんだろう? 自他問わず嘘を吐き続けた弊害か、自分でも自分が分からない。嘘を吐くことが私のアイデンティティなくせに、そのせいでこの様だ。本当、使い物にならないなぁ。
「思ってたより傷は深刻だったのだな……。傷は残していないつもりだったのだが」
「……別にいいよ」
この身体になけなしの癒しをしようとしたのだが、その前に藍からの癒しが施される。しかし、いまいち足りていないのか、それとも的がずれているのか、多少痛みが引く程度で完治した感じがない。……もしかしたら、九つ揃えた障害がそれだけ深いのかもしれない。いや、まさかね。
それにしても、どうして生きているんだろう? てっきり私は紫様に遠回しな処分をされていたものだと思っていたのだが……。しかし、こうして紫様の住まいに運ばれて治療まで施されているとなると、とんだ見当違いだったのではなかろうか。
「あのさ、藍」
「なんだ? 何処かまだ痛むのか?」
「とりあえず右手。……まぁ、それは置いといて。藍に言われた場所で待ってたら鬼が現れたんだけど」
「……らしいな。昨晩、紫様はそうおっしゃられた」
「……藍は別の仕事がある、って言ってたよね。紫様に何を命じられたの?」
「……博麗神社の宴会に参加して他の者を監視することだ」
嘘だな。悪意からくるものではなく、だからといって善意からくるものでもない。おそらく、即興でその場限り。宴会には参加していないし、つまり監視もしていないのだろう。
けれど、隠していることをわざわざ暴きたいわけじゃない。面倒だし。だったら、これ以上の追及は別にいいや。
「そういえば、誰がここまで運んでくれたの? 出来れば礼を言っておきたいんだけど」
「それなら私だ。紫様に命じられてな」
「監視していたのに?」
「……そうだが」
ふぅん、そっか。傷も一通り癒してくれたみたいだし、今も右手に手を施してくれているし、ここまで運んでくれたし。藍には感謝するべきだ。
「ありがとね」
「気にするな。同じ主を持つ式の仲だろう?」
「……あー、うん。そうだね」
どう考えても藍のほうが上位でしょうに。それなのに、まるで隣にいるような言い方だ。前は上に立つ者特有の気配が垣間見えていたはずなのに、どうして鳴りを潜めている? ……藍は知らないはずだ。一度たりとも口にしていないはずだ。……ま、いいや。どうでも。はぁ。
藍が私の右手から手を放し、そっと布団の上に置いた。念入りに施してくれたからか、痛みはない。相当悲惨な傷になっていたはずだし、よかったよかった。
そんなことを考えていると、藍は私の目の前に人差し指を向けた。目だけで藍を見上げれば、僅かに眉間に皺を寄せている。
「彩。当分はここで安静だ。分かったな?」
「……えー。すぐ治るよ、多分」
「駄目だ。あんな重体だったんだからな。数日絶対安静だ」
「……はーい。分かりましたよーだ」
どうやら、宴会には当分参加出来そうもないらしい。別にいいけど。正直な話、ちょっと酒を呑みたい気分じゃない。
「勝手に布団から出るなよ?」
そう念押ししてから、藍は静かに部屋を出ていった。……あ、鬼が妖霧の正体だって言い忘れてた。ま、いいや。紫様から聞いてるでしょ。多分。霊夢もいつか勝手に気付くだろう。博麗の巫女ですし。
さて、私は寝るとしましょうか。絶対安静のようですし。それに、どうやらまだ生きているわけだし、さ。おやすみ。