内側から観戦するつもりな私としては、橙と私をまとめて二対二の命名決闘法案にならずに済んでよかった、と思うのみである。ちなみに、橙は給仕服の人に挑まれており、霊夢は屋根の上にニヤニヤ笑いながら私達を見下ろしている。
目が痛くなるような色合いの星形弾幕を表のは伸ばした爪でザシュッと引き裂き、抉じ開けた隙間から右側へと一気に跳び出していく。うっわ、最初から妖術の身体変成と身体強化を使っちゃってるし、この調子じゃあすぐ妖力切れ起こしそう……。
「そこかっ!」
おや、あの白黒魔法使い、この速度を目で追えるんだ。流石、異変の解決に乗り出すだけある。
表のはそのまま右回りに駆け回りながら弾幕を置き去りにしていく。そして、右手を大きく開きながら爪に妖力を込め、右腕を思い切り振りかぶった。
そして、表のの視界から白黒魔法使いが消えた。
「んなっ、消えた……?」
白黒魔法使いの動揺した声が聞こえてくる。まぁ、消えてないよ。ただ、白黒魔法使いの視線が右手に向いた瞬間に切り返して視界から逃れただけだから。
派手に妖力を込めて、しかも大振りの攻撃をしようとしていた右手。視線が私の身体から右手に向かうのもしょうがない。身体からわざと大きく外した右手に向かうのも、しょうがない。その瞬間に、派手な妖力だけをそこに置き去りにして切り返す。すると、置き去りにした妖力によって相手が攻撃の幻想を勝手に思い浮かべ、表のが消えたかのように錯覚してしまう。
身体強化をさらに重ねて使ってさらなる加速をした表のは、足音一つ立てずに背後へと回り込む。これだけ速く地面を蹴ってるのに音を立てないとか、どんな脚の使い方してるのやら……。
「ふん」
「ッ、とぉ!?」
そのまま後頭部へ叩き込んだ膝蹴りを、上半身を大きく前に倒して躱しやがった。……うわぁお、どんな反応してるんですか? 無音かつ背後から強襲を躱すとか。やっぱり、異変解決に乗り出す人間はどこか普通じゃあないね。
そんなことを他人事のように感心していると、表のが白黒魔法使いを上を飛び越えて正面に着地したと同時に内側に戻ってくる。
『代われ』
『最初から飛ばし過ぎなんだよ。爪、そのままな』
『ふん、構わん』
……あぁ、もう交代するんだ。いや、別に妖力はまだ残っているだろうけれど、流石に使い切る必要はないよね。
そんなやり取りをしながら表のが交代される。
「来いよ。相手になってやるぜ」
「あん? またキャラ変わってね? ま、関係ないな。魔符『スターダストレヴァリエ』!」
「へぇ。んじゃ、俺も使うか。疾符『爪刃演舞』」
白黒魔法使いから一際大きな星形弾幕が広がる。それに対し、表のは妖力を纏わせた爪を振るい、爪撃を飛ばす。そのまま跳躍して縦に横に乱回転しながら爪撃を放ち、星形弾幕をかき消していく。……いやぁ、演舞って名付けただけあってかなり踊ってるね。いつもより多く回っております、ってうやつだよ。うん。
時折弾幕を引き裂きながら肉薄出来るのだが、ヒョイと躱されてしまうのはしょうがないことだろう。だって、この程度の速度なら目で追えるんだもんね。わざとらしく掠めるようなギリギリを狙うあたり、あちらもそれなりに遊んでいるに違いない。
『いやー、お互い楽しんでるねぇ』
『そのようですね。……ですが、争いはあまり好みません』
『戦闘とはいえ一応遊戯だから。ね?』
『傷付けば遊戯も争いと大差ありませんよ』
……んー、手厳しい。ま、それでも傷は癒してくれるでしょ? と目を向けて呟けば、当然です、と返された。あぁ、相変わらず優しいなぁ……。
結果、両者スペルカードを一枚使い切っても被弾することはなかった。あらら、残念。
「正直、化け猫だからって舐めてたぜ。こっから上げてくぜっ!」
「そんじゃま、精々付いてってやるか!」
あーあ、お互いニヤニヤ笑っちゃって。白黒魔法使いは星形弾幕だけじゃなく、レーザーやらミサイルやらドンドンばらまいちゃって。それを喜々として捌こうとしている表のも表のだけどさ。
時に体をよじって躱し、時に爪を振るって引き裂き、時に大きく横に跳んで待避する。表のも合間を縫って多少の爪撃を飛ばしているものの、容易く躱されてしまっている。だが、お互い楽しそうだ。……ま、楽しんでるならそれでいいか。所詮遊戯なんだし、楽しまなきゃ損だよね?
けれど、楽しい時間は突然に終わる。
「フッ、シッ!――ぐ……ッ」
「これで一つだぜ。ま、結構頑張ったんじゃないか?」
ビシッ、と左肩にミサイルが着弾して軽くよろめいた。これで被弾が一回目。表のは視界に映る様々な弾幕を必死に躱し、引き裂いていた。私も表のはとても頑張っていたと思う。けれど、それでもいつか限界がくる。それは単純な理由で、表のの実力より目の前に浮かぶ白黒魔法使いの方が上手だってだけの話。
右手で左肩を軽く押さえながら、表のが内側に戻ってくる。ふぅん、ここで交代なんだ。被弾したからなのかな?
『それじゃ、次に交代だな』
『っしゃー! ようやく俺の出番だな!』
『おう、いってこい』
そう叫びながら、表へと跳び上がるように交代していく。……んー、騒がしい。けれど、楽しみなのはよく分かった。
「っし! 舐めてんじゃねーぞ! シロクロ!」
「はっ、今度はがきんちょの真似事か?」
……んー、何だろう。二つの遊戯を見ていて、ちょっとだけムズムズする。戦うのはもちろん嫌いだけど、やっぱり楽しそうだし、私も付き合えばよかったかも。
なんてことを考えながら、私は表の様子を眺め続けるのでした。