『雑魚だったなー、ムシ』
『そう言ってやるな。……まぁ、まさか気絶するとは思ってなかったがなぁ』
『んー、楽しかったー!』
私は内側に戻ってきた三つの会話はそのまま聞き流し、代わりに表に出たのが虫妖怪を癒しているのを見上げながら紫様へ通信を始める。
『出ない……』
しばらく繋げていたのだが、一向に紫様が出てきてくれない。しかし、妨害されているわけでも、出て即行切断されたわけでもない。繋がってるけど出てくれないのだ。……んー、今、忙しいのかな? 別の誰かと交戦中とか? ま、いいや。とりあえず、終わったら伝えろって言ったのはあっちだし、出てくれるまで繋げとこう。
「ふぅ。これでいいかしら?」
一通り虫妖怪を癒したらしい表のは、キョロキョロと首を左右に振って見回している。何かあったのだろうか? 見た感じ、何かあるようには見えないけれど。
「あそこに彩さんがいますよ、幽々子様」
「幽々子さんと妖夢さんですか。こんばんは」
「はい、こんばんは」
……なぁんて思ってなのになぁ。表のが夜空を見上げてみれば、そこには幽々子と妖夢がいるじゃないか。二人も偽りの月が気になって出てきたのかなぁ? もしそうだったら、それに関しては霊夢と紫様に任せてください、とでも言ってお帰りしてほしい。幽々子なんか表のを見詰めて愉快に微笑んでるし、面倒なことになりそうだから。
「あらぁ、ちょうど知ってそうなのがいたじゃない。妖夢、ちょっと吐かせてみなさい?」
「えぇっ!? 幽々子様!?」
そして、そういう嫌な予感ってのは得てしてよく当たる。幽々子の言葉に戸惑う妖夢だが、しかし片手で頭を抱えながら表のの前に下りてくる。もう片方の手が刀の柄に添えられているあたり、そういうことなのだろう。はぁ。
あーあ、表のも戸惑ってるだろうなぁ……。戦えないわけじゃないし、むしろ私なんかより殺せる方だけど、いかんせんそういうことを忌避しているのだから。きっと、表のは一発も攻撃せずに回避しかしない。万が一でも、相手を傷つけないために。そうなると、スパッと被弾して負けるか、それとも相手が降参してくれるまでの長期戦になるか……。はぁ。
『彩? 少し遅れたわね』
『もう少し早く出てほしかったです、紫様』
『……場所を教えて頂戴。スキマを開くわ』
ようやく出てきた紫様が若干申し訳なさそうにそう言ったのだが、見上げている表では妖夢が居合抜刀した刀身から霊力の籠った斬撃が飛来する。表のはそれを屈んで難なく躱した。それなりの速度ではあったものの、躱せないほどじゃない。
けれど、そういう問題じゃないんだよ。重要なのは、妖夢に攻撃されたという事実だ。
『今さっき妖夢に命名決闘法案を挑まれたんで、後でまた通信します』
『……そう、分かったわ』
その言葉を最後に、紫様は通信を切った。私は思わず頭を抱える。あぁ、あと数秒早ければなぁ。そうすれば、何かされる前にそそくさと逃げれたのに。え? 敵前逃亡は卑怯者のすること? プライドなんぞ知らん。そんなもの、遥か昔にその辺に捨ててきた。
けれど、そんなもしもの事なんて考えたところで、都合よくいくわけがないのだ。ほら、表のはやけに刀身の長い刀を向けられている。ここでやっぱ止めにしましょう、何て言ってくれるわけがない。
「彩さん。突然で申し訳ありませんが、紫様の式神の実力を拝見させていただきます!」
ほら、やっぱり。いくらもしもがあろうと、上手く事が進むなんてまやかしだ。知ってたけどさ。
『はい、集合』
『ふん』
『余裕かどうかは知らないけれど、今表に出ているのと息が合いそうなのもう一つくらい表に出よう』
『はいはーもが』
『それじゃあ、私が出るわ』
『うん、よろしく』
そう言って出て行くのを、内心複雑な気持ちを押し込めながら見送る。癒しと結界なら相性も悪くないだろう。……え? もう一つ意気揚々と挙手していた? 気のせい気のせい。
表の様子はというと、目の前に斬撃が飛来していた。それを右に飛んで躱そうとする前に、新たに表に出たのが目の前に結界を張る。
「あら――お手伝いしに来ました」
「……えっと、彩さん?」
結界に弾かれた斬撃にホッとしながら、私は表を見守る。苦い思いをしながら。