妖夢の振るう刀から幾度となく迫る飛ぶ斬撃。表のは結界を張って斬撃を防ぎ続けていく。……あー、これがずっと続くとなると面倒だなぁ。いつかは勝敗が決まるだろうけれど、下手すれば明けない夜さえ明けてしまいかねない。何せ、飛ぶ斬撃は問題なく結界で防げるし、表のは攻撃を一切しないのだから。
『まさか、このままずっとなんてことはないよね?』
『流石にねぇだろ。あっちは刀だぞ?』
いつの間にやら隣にいたのにそう言われたとほぼ同時に、妖夢は表のに向かって軽快に走り出した。おぉ、よかった。そりゃそうか。武器を扱っているのなら、その間合いに入ったほうがきっと強い。膠着状態を文字通り切り開くかな?
……けれど、あの刀でスッパリ斬られて死んじゃった、なんてことにはならないだろうか? ま、いいか。死んだらそれはそれで。
「やぁっ!」
「きゃ――っと」
威勢のいい掛け声と共に振り下ろされる袈裟斬りに対し、表のはぎこちなく右に跳びながら相も変わらず結界を張る。さて、どうなる?
「脆いッ!」
僅かな拮抗はあったものの、妖夢は結界を打ち破った。おぉ、凄い凄い。すぐさま返す手で表のを追うように切り上げを放つが、表のは既に刀が届かないところまで跳んでいた。おぉ、危ない危ない。流石にスパッと斬られてお陀仏はねぇ? ……え? さっきと言ってることが違う? いいじゃん、別に。気にするようなことじゃないでしょ。
表のは数度地面を跳ねるようにしてさらに後退していき、妖夢はそれを追いかけてくる。うわ、速いなぁ。表のより速い。すぐ追い付かれる。……というか、どんどん加速してない? しかも、何やら納刀までして居合の構えまでしちゃって。
なんて思った矢先、妖夢が踏み出した一歩でいきなり数段速度が上がった。そして、跳ねて移動していた表のの脚が地に付く前に妖夢が目の前に迫る。
「人符『現世斬』!」
「結界を――はい――防符『守護結界・二重』」
鞘から滑るように振るわれる居合一閃。あぁ、こういうのが達人ってやつなんだろうなぁ、と見てて思わされる。私にはそういうの出来ないよ。羨ましいとは思うけれど、やりたいとは思わない。
対する表のは、刀に切り裂かれてしまう前に二重の結界を張る。先程までは一つが結界を張って防御していたが、今回のは二つ分が二枚だ。……んー、どうなんだろう?
結果は破られた。呆気なく。薄いガラスをちょっと厚くしたところで、ガラスを二枚に増やしたところで、破られるときは呆気ないものだ。残念ながら。
しかし、表のはそのまま切られるつもりはないらしく、妖夢が結界を割っている隙に一歩踏み出した。刀身よりもさらに内側に潜り込んだのだ。しかも、殴る蹴るよりもさらに近く、それこそちょっと動けばぶつかり合うほどに肉薄している。
「うぇっ!? さ、彩さんっ!?」
そして、表のは妖夢を抱き締めやがった。突然の抱擁に妖夢も吃驚仰天らしい。そりゃそうだ。やり合っていた相手が急に抱き着いてきたら私も驚く。多分。
けれど、ある意味安全とも言えるのだ。何せ、あまりにも近過ぎて刀の間合いを通り抜けてしまったのだから。ついでに動揺させているところもいい。……まぁ、表のはそんなつもりで抱き締めたわけじゃないと思うけれどさ。
妖夢を抱き締めている表のは、そのまま人差し指を額に押し当てた。あ、被弾一つ、かなぁ……? いや、そういう状況じゃないか。
「めっ!――そんな危ないものを振り回しちゃ駄目よ?――危ないわよ」
「えぇ!? い、今は決闘の最中です! そんなことを言われても困りますよ!」
「だから――降参するわ」
「……え?」
表のの降参宣言に、妖夢が呆けた声を上げる。あー、そっか。その手があったか。別に負けてもいいんだし、相手の要求は私から何かを訊き出そうとしているだけのようだし、さっさと降参して終わらせるのもいいのか。
『……けっ!』
一つ文句ありげだけど、無視だ無視。聞いたら口うるさくなりそうだし。どうせ、自ら負けを認めるのが癪なだけなんだから。
表のは妖夢を腕の中から放し、そして上から二人の決闘法案を見下ろしていたふんわり微笑んでいる幽々子を見上げる。
「幽々子さん。私に訊きたいこととは何でしょうか?――知ってることなら答えるわ」
「あらぁ、随分と潔いのねぇ」
「幽々子は私から何か訊き出したいんでしょ?――私は争いを避けたいのです――だったら、こうするのが一番傷付かないで済むもの」
そういう意味でも、気の合う二つだった。
「あの、若干納得いかないんですが……」
隣で妖夢がそんなことを言っているけれど、幽々子に微笑まれてすぐに口を閉ざした。……うわ、怖っ!