さっきの半獣が指差した方向に飛んでいったら、迷いの竹林が見えてきた。よほどの強運の持ち主でもない限り自力での脱出は不可能と噂されている、あの迷いの竹林である。そんな場所に迷いなく突っ込んでいきやがった霊夢はよほど楽観的なのか、迷わないとでも思っているのか、それとも何も考えていない馬鹿なのか……。まぁ、きっと迷わないのだろう。博麗の巫女だし。はぁ。
そんな霊夢の後を当然のように飛んでいく紫様を見て、私は思わず肩を落とす。あぁ、やっぱりここなんだなぁ……。迷いの竹林を通り越したその先とか、ちょっとだけ期待したんだけどなぁ。……まぁ、最悪の場合は紫様に頼んでスキマを開いてもらえば問題ないでしょ。多分。
私と藍は紫様の後を付いていくわけだが、私は迷いの竹林の目の前に一旦止まってしまう。あー、行きたくないなぁ……。この奥から面倒事の予感がする。まぁ、異変解決の時点でお察しだけど。
「どうした、彩。早く行くぞ」
「はいはい。分かってますよーだ」
迷いの竹林に入ってすぐに藍が止まり、そんな私を呆れ顔で促される。はいはい、分かってる分かってる。私は紫様の式神ですし、役目ですからね。はぁ。
私は重くため息を吐き、諦念を抱きながら迷いの竹林に突入した。藍と共に少し先を飛んでいる霊夢と紫様に追いつき、それからは二人の後に追随する。霊夢は脇目も振らずぐんぐん進んでいくのだが、付いていく私としては違和感が拭えない。
「ここ、かなり飛びづらいんだけど。竹は多いし、霧は立ってるし、なんか変な感じがする」
「文句を言うな」
「言うさ。さっきから真っすぐ飛んでるのに飛べてない。思いっ切り捻じ曲げられてるじゃあないか」
「あんた、さっきからうるさいわね。この近くに異変の黒幕はいるわ。黙って付いてればいいのよ」
「……そうですか」
さっき指差していた時はまるで違う方向だったことは言わない方がいいだろう。それと、異変の黒幕ならすぐ隣にいるかもしれないよ。まぁ、偽りの月の方じゃなくて、夜を止めた方だけど。
そんなことを考えていると、霊夢と紫様の前に真っ白な魔力のレーザーが雨のように降り注いできた。見覚えあるんだけど、なんだっけ?
「動くと撃つ!」
ようやくレーザーが止まり、もうもうと舞う土煙が晴れる前に上のほうから聞き覚えのある声が響いてきた。
「間違えた。撃つと動くだ。今すぐ動く」
……あぁ、魔理沙か。道理で見覚えがあって、聞き覚えがあると思った。チラリと藍を見遣るが、首を振って肩を竦められた。どうやら、ここに来るところは見ていないらしい。
さて、盛大に弾幕をばら撒かれたわけだけど、霊夢は割と落ち着いて魔理沙を見上げていた。
「何でこんな場所に魔理沙がいるのよ?」
「さぁな。私は迷惑な妖怪を退治しているだけだぜ。いつも通りな!」
「へぇ、奇遇ね。私も迷惑な妖怪退治をしている最中よ」
「私が言ってるのは『迷惑な妖怪』を退治だ。お前の場合は迷惑な『妖怪退治』だろ?」
「そうでもないわ」
平然と会話しているけれど、魔理沙はよく見る八角形のものを手に一触即発の雰囲気だ。というか、さっきから霊夢よりも紫様に視線が向いてないかな? 気のせいじゃないよね?
「へぇ、こんな夜に貴女一人で何が出来るかしら」
「迷惑な妖怪退治だ。今日の月はもう見飽きた。そろそろ明日にしてもらうぜ」
「で、その迷惑な妖怪は一体誰の事かしら?」
「お前らの事だよ。紫と、その後ろの怪しい化け猫」
あん? どうして私が指差されてるんでしょうか? 意味が分からないんですけど。
それから魔理沙は紫様が昼夜の境界を弄ったことを指摘し、ついでに私のことをなんか怪しいとのたまう。怪しい、って……。しかも、何となくって。まぁ、別にどうでもいいけど。はぁ。
霊夢が後ろを見ろ、月を見ろと言って応戦しているけれど、私としてはそんな問題じゃない。
「紫様」
「何よ、彩」
「立派な異変の黒幕ですね」
「今更よ」
あーあ、推測が確定しちゃったよ。はぁ。