紫様が我先にと向かっているので、私もどうにか付いていく。竹を避ける際に多少横に逸れることはあれど、基本的にはほぼ真っすぐ飛んでいるだけなので、隣のの動作に合わせるのはかなり楽だ。……まぁ、実際のところは真っすぐ飛んでいるつもりなだけだが。はぁ。
しかし、なんでわざわざ追いかけるかねぇ? こちらの目的は偽りの月だ。逃げるなら放っておけばいいのに。
「面倒くさいなぁ――仕方ありませんよ」
「途中で邪魔立てされるなら、今のうちに片付けたほうがいいだろう? それに、あれは紫様を侮辱した」
「あー、はいはい。よく分かりました」
分かってるよ、そんなこと。けれど、私としては面倒が先立つのだ。だって、私は関係がない。え? 紫様の式神の時点で関係あるだろだって? そんなくだらない理由で巻き込まれる身になってみろ。気分急降下だ。
わざとらしくため息を吐きながら飛び続けていると、ようやく遥か遠くに見えていた魔理沙が立ち止まり、おもむろに振り向いてきた。
「あれ、霊夢じゃないか。こんなところでどうしたんだ?」
「白々しいにも程があるわ」
「さっきのは紫と化け猫分。今度はお前分だ!」
などとほざき、星形魔力弾の弾幕をばら撒き始めた。どうやら、命名決闘法案の再開らしい。はぁ。
まぁ、私がやるとこは変わらない。前のほうは霊夢と紫様に任せておき、零れ弾に対処するだけ。魔力弾の軌道を見て、被弾するものを選び、軌道上に小さな結界を張り、用済みになれば消す。それを繰り返すだけ。
「このままじゃ埒が明かないな。さっさと明日にしてもらうぜ! 魔空『アステロイドベルト』!」
そう思っていたのに、魔理沙はスペルカードを宣言して弾幕密度を爆発的に増やしやがった。あぁ、面倒な……。しかも、一発一発の魔力弾の威力も跳ね上がってるから、さっきまでの結界では防ぎ切れない。それは妖力を多少多めに流して強度を増すことで対処出来るとして、問題は躱して素通りした後の魔力弾。それらが竹やら地面やら結界やらにぶつかると、炸裂して小さな魔力弾になってくるのだ。それが横やら背後から来るのだから、非常に面倒くさい。幸い、一度しか炸裂しないからまだマシか? んなわけあるか。はぁ。
霊夢は難なくヒョイヒョイ避けてるし、紫様は背中に目でも付いてるのかって疑いたくなるくらい正確にスキマを開いてるし、藍も霊夢ほどではないだ問題なく躱せている。私? 隣のに合わせて動いてるだけだよ。時折、周囲をグルリと見回してからいくつかの魔力弾に視線が映るから、それに合わせて結界を張るだけ。まぁ、結界だけで対処できなくなったようだから、多少は動いてるよ。けれど、やっぱり細かい動作は厳しいものがある。
「苦戦してるな」
「そうですね――だから代わったほうがいいって――そんなことはありませんよ」
私なんかより出来るのはいるんだから、さっさと代わった方がいい。そう思っているのに、隣のはそうは思わないという。止めろ。冗談じゃない。
なんて思っていたら、突然パチッと弾ける音がした。それと同時に右手の指先に僅かな衝撃が走り、その正体を知る。親指と人差し指の間に、パチッパチッと断続的に電流が走っている。雷の妖術。私一つでは静電気にも満たない役立たずな代物にしかならないはずの妖術。
「これを使いましょう」
なんて提案を持ちかけられる。今は二つだから、多少なりとも見れるものになっているのだろう。経験ってのは、時に厄介なものだ。
……まぁ、いい。私が隣のを止める理由は特にないのだから。けれど、せめてもの抵抗として、結界を張りながら小さくため息を吐いた。
「……いいけど――では、お願いしますね――はぁ?」
提案したなら最後まで責任持ってほしかった。後はよろしくとか、それは私が言いたいことだよ。けれど、そんなこと言ってられないよなぁ……。はぁ。
私は藍の隣まで近付くために、今出来る最高強度の結界を藍に向けて張る。いくつも被弾して今にも壊れてしまいそうだが、そのたびに新しく張り直して対処。私は結界に手を当てて滑るように藍の元へ接近した。
「急に何だ?」
「肩に手を乗せて、妖力を流してくれないかな?」
「……構わんが、どの程度だ?」
「人間が死なない程度かな」
などと適当なことを言い、藍の手が左肩に載ったところで私は紫様に通信をする。
「紫様」
『こんな時にどうしたの?』
「この通信を切ってすぐ、私を魔理沙の前に出してください」
『やる気になってくれて嬉しいわ』
「そりゃどうも」
話は済んだが、もう少し通信は繋げたままで。藍から流された妖力を受け、右手に走る雷が馬鹿みたいに激しい轟音を鳴り響かせる。……えっと、これって明らかに過剰量な気がするんですが。もしかして藍、紫様を侮辱したこと根に持ってこんな量にしたわけじゃないよね?
こうして他力がなければ使い物にならない。私一つ、どうしようもなく役立たず。他力本願。いつものことだ。はぁ。
「なんだ!?」
まぁ、こんだけ大音量でビカビカ光ってれば当然魔理沙にもバレるわけでして。ま、警戒されるよなぁ。関係ないけど。
私は通信を切った。瞬間、目の前にスキマが開いて紫様に引っ張り上げられる。出てみれば、私は紫様の前にいた。つまり、魔理沙の前にいる。ここなら、問題はない。
「一撃で仕留めてやる。雷符『藍電一閃・弐式』!」
宣言と共に右手の人差し指を真っ直ぐと魔理沙に向ける。雷の速度って知ってるか? 光ほどじゃあないが、音なんぞよりも速いんだ。この距離で人間が反応出来る速度じゃないんだよ。ま、スペルカードとして最低限避けれるように軌道は単調にしてやるが。
「ガッ!?」
撃った、と思ったら感電していた。空気が灼けるような音がし、周囲の竹が爆ぜる。……あっれぇ? やっぱり過剰量じゃない?
「ア、ガガ……。き、効いたぜ。ズガンとなぁ……。お返しだ。恋符『マス」
撃った。お代わりもう一撃。当然、魔理沙は感電した。煙が出ているけれど、本当に大丈夫かなぁ? ま、いいや。多分生きてるでしょ。平気平気。最悪、死んでも問題はない。そういうルールだ。あんまよくないけど。
流石に二発喰らって意識は保てなかったらしい。魔理沙はそのまま落ちてった。ピクピク痙攣するように動いてるのは、生きているからか、それとも雷の所為か……。
「さっき一撃で仕留めるとハッキリ言ったばかりだったのになぁ……。ごめん、ありゃ嘘だった――どうやら生きているようですし、これでいいでしょう」
何だ、生きてるのか。よかったよかった。