東方九心猫   作:藍薔薇

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それがちょっとだけ羨ましかった

「だらららららぁぁぁーっ!」

 

 馬鹿みたいに大声を張り上げる表のは、白黒魔法使いの弾幕を掻い潜りながら縦横無尽に駆け回る。その軌跡に妖力弾を放ちながら。しかし、その妖力弾は決して動くことはなく、かといって弾けることもなく、ただただそこに留まるのみ。……あぁ、表のが何をしたいかよく分かったよ。白黒魔法使いはさっさと逃げたほうがいいよ。うん。……ま、伝わるはずもないけどさ。さらに言えば、伝えるつもりもない。

 

「なんだ? こんなちんけなもんで私を捕らえたつもりか?」

「るっせ」

 

 ふぅん。気付いてて逃げないのか。表のは白黒魔法使いをあの場に留めるために弾幕を留めている。弾幕で線を引いて、柵を敷いて、それはまるで鳥籠のように。飛べない鳥は、猫にだって簡単に仕留められてしまう。

 けれど、相手はそんな貧弱な小鳥ではなく、鷹よりも恐ろしい人間だ。果たして、狩られるのはどちらになることやら。

 

「仕掛けて、引っ掛けて、嵌めて……。そんで、最後にまとめてぶっ飛ばすッ!」

「いいこと言うじゃねぇか。やっぱり、弾幕はパワーだぜ!」

 

 表のが走り続けながら両手に妖力を込め始める。それに対し、白黒魔法使いは何やら八角形のものを手に取り膨大な魔力を込め始める。……うわぁ、何ですかあの兵器。下手したらここら一体が丸ごと吹っ飛ぶんじゃない?

 

「爪符『スーパーメガスラッシュ』ッ!」

「恋符『マスタースパーク』ッ!」

 

 表のが右腕を振り下ろし、巨大な爪撃を放つ。白黒魔法使いが白い魔力の砲撃を放つ。……うーん、思った通りあちらの方が強大だ。

 その推測通り、一瞬の拮抗を経て爪撃が魔力に飲み込まれ、しかし決して勢いが削がれることはなくそのまま迫りくる。

 

「ちっ! もいっぱあぁーつッ!」

 

 それを見た表のが左腕も横薙ぎに大振りするが、最早焼け石に水としか言いようがない。あーあ、残念。

 それでも表のは右へ大きく跳んで回避しようとしたのだが、時既に遅し。間に合わず、白い魔力の中に飲み込まれてしまった。……うひゃあ、痛そう。それはもう物凄く! 今は絶対に表に出たくない。というか、次のに傷を残して代わるって辛くない?

 

『ぐぇっ』

 

 そんなことを考えていると、表から内側に吹っ飛んできた。……おぅ、こりゃ駄目だ。完全に目を回して気を失ってるよ。

 それを見た無邪気なのは、颯爽と表へ飛び出していく。

 

『よーし! やっと僕の番だね! いってきまーす!』

『あ、うん。いってらっしゃい……』

 

 表の様子を窺えば、空が見える。白黒魔法使いの魔力の砲撃は既に終わっているようだ。そして、身体は多分仰向けになってる。

 

「大丈夫かー? どうすっか……、このままお寝んねは困るんだがな」

「やっほー! ね、名前教えてくれない? 僕、ずっと気になってたんだー!」

「うぉっ!? 今度はやけにテンション高いな……。魔理沙だ、霧雨魔理沙」

「まりまり! 僕と一緒に楽しく遊ぼ!」

「ま、まりまり……?」

 

 へー、あの白黒魔法使い、霧雨魔理沙って名前なんだ。霊夢と一緒に異変解決する人間なら、またいつか会うかもしれないし、一応覚えとこ。あと、相変わらずそのあだ名はどうにかならないのかな? ……まぁ、別にいいか。

 

『紫様がおっしゃった通りの名でしたね』

『あれ、言ってたっけ?』

『言ってました』

『そうだっけ……?』

 

 聞いてなかった。けれど、そう言われれば名前を言っていたような気がしないでもないような気がしなくもない……。んー、分からん。しかし、あちらは私と違ってちゃんと聞いてたらしい。流石、聞き逃しなし。うん、真面目だ。

 

「ちゃららー、ちゃらららーん。ちゃらん。ちゃららー、ちゃらららーん!」

「おいおい、歌ってる暇なんかあんのか?」

 

 ちょっぴり反省しつつ、表の様子を見てみた。表のは最初のが伸ばした爪を仕舞い、両手両足を地につけて体勢を低くし、それはもう軽快に走り回っていた。傷とか痛みとかを一切感じさせないくらいに。しかも、またもや歌いながら。いや、まぁ、遊戯を楽しむのは自由だし、むしろ楽しむべきだろうし、いっか。

 表のが地面から手足を離すと、そこから弾幕が噴水のように噴き出す。それはもう勢いよく上空に舞い上がり、そして広範囲に散らばってから落ちてくる。魔理沙が放つ様々な弾幕を躱しながら駆け回っている表のは、それはそれは楽しそうに笑っていた。

 

「絢爛『きらきらイリュージョン』!」

 

 そう宣言しながら、表のが魔理沙のほぼ真下で四肢を地面に固めた。そして、地面に妖力を拡げていく。そして、爆ぜた。赤橙黄緑青藍紫。そこら中から弾幕が煌びやかに噴き出し、見渡す限りを極彩色に彩っていく。

 これまでのが使ったスペルカードとは一線を画する。理由は単純。表のは命名決闘法案が得意だから。遊ぶの大好き。だって、楽しいから。勝っても負けても、楽しければそれでいい。今が楽しければ、それでいいのだから。

 

「よ、っと。ようやくらしいのが出たな!」

「ふっふーん。ねぇ、楽しい? 僕は楽しい!」

「ああ、だが、私の方がもっと派手で、綺麗で、そして強い! 魔符『ミルキーウェイ』!」

 

 魔理沙はそう言い放ち、あの八角形を箒の穂に捻じ込みながら飛び回り始めた。そして、箒の穂からは大量の星形弾幕が零れ落ちてくる。

 噴き出す極彩色。降り注ぐ天の川。……あぁ、これが、これこそが命名決闘法案。美しいね。綺麗だね。そして、儚いね。私には、ここまでのことは出来ない。それがちょっとだけ羨ましかった。

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