さっきからずっとお屋敷の中を進んでいるのだが、真っ直ぐと続く廊下の終わりが全く見えない。というか、進んだ距離だけですら既に廊下がお屋敷の外見よりも長い。明らかに捻じ曲げられている。面倒だなぁ……。はぁ。
そもそも、わたしは内側でのんびりしようって思ってたのに。そうだというのに、なんかさっきからずっと表に出ている気がする。なんでさ。
「……次は代わってやる」
「彩、何か言ったか?」
「愚痴」
ま、いいか。私だって一応紫様に命じられてるし、いくら愚痴っても文句垂れても出来るだけはするよ。出来るだけはね。流石に何もしませんは気分が悪いから。……既に結構やってる気がするのだが、まぁ、そこはしょうがない。うん。はぁ。
そんなどうでもいいことを考えながら歩くこと十数分。進んだ距離を考えるともしかしたら迷いの竹林を抜けてるんじゃなかろうか、ふとそんなことが思い浮かんでいたら、先の見えない廊下に人影らしきものが見えてきた。あー、よかった。このまま延々と何もないなんて嫌なこと考えずに済んだわ。
「遅かったわね。扉は全て封印したわ。もう姫様は連れ出せないでしょう?」
その姿を見て真っ先に兎だと思っていると、いきなりそんなことを言われた。……姫様? 誰だそれは。偽りの月の黒幕? ま、いいや。
紫様はとりあえず倒したらどうだ、なんて物騒なことを霊夢に提案している。それもそうねみたいな感じに頷く霊夢もどうかと思うけど。私としては紫様の決定にとりあえず従っておくだけだ。そういうものだから。
私は黙って兎を見詰めていると、私達をジーッと観察して何故だか分からないけれど急にホッとした様子。
「なんだ、ただの妖怪か。そもそもここまで来れるはずがないし。あーあ、心配して損したわ」
こんなふざけてるように見えますが、一応幻想郷の大賢者なんて呼ばれる程度には凄い妖怪なんです。それをただのって言うのはあまりよくない。まぁ、紫様は多分気にしないだろうし、私もどうでもいい。よくないのは藍だ。ほら、急に目付きが鋭くなって若干殺意が漏れ出ちゃってるし! しかも、これでも押さえ込んでる方で、内心は沸騰していても何らおかしくなさそうだ。はぁ。
「貴女、何を心配していたのかしら? 偽りの月を浮かべて」
「偽りの月? あー、地上の密室のことね。それはお師匠様のとっておきの秘術よ。貴女達に判るかしら?」
「鈴仙。そんな説明じゃ人間には判らないわ。それに、満月をなくす程度、とっておきでも何でもない」
なんか面倒なことになってきたなぁ、と漠然と思っていたら、兎の背後から赤と青が半分ずつ配色された奇抜な格好をした人間が現れた。うわ、何か新しいのが出た。……ん? 人間? あれって本当に人間かなぁ? いまいち人間っぽくない気がするけど、人間だとも感じる。けれど、妖怪かと言われればそれも違う。何だろう、この感じ。ま、いいや。どうでも。
赤十字って外の世界の病院のマークじゃなかったっけ、と帽子を見ながら思い返していると、紫様はその赤十字の帽子の人間を鋭く指差した。
「霊夢、あれが黒幕よ。そんな匂いがするわ。さぁ、この偽りの月を元に戻してもらいましょうか!」
「そう? ……んー」
「それはまだ早いわ。今この術を解くわけにはいかないの」
というか、この人間が兎のお師匠様か。そりゃあ、いかにも黒幕っぽい。というか、よく考えれば偽りの月を浮かべた張本人じゃないか! 黒幕だわ。なんかいまいち釈然としないけれど、自ら出てきてくれたのならば手っ取り早い。探す手間が省けるから。
「鈴仙。荒事と狂気は貴女の仕事でしょう? ここは任せたわよ」
「お任せください」
なんて思ったのに、黒幕はさっさと先の見えない廊下の奥に消えてしまった。あーあ、残念。
とりあえずさっきから首を傾げている霊夢は放っておき、私は隣に立つあまり近寄りたくない雰囲気を醸し出す藍を見遣る。
「ねぇ、藍」
「何だ、彩」
「とりあえず落ち着いたら?」
「私は落ち着いている。これ以上なく冴え渡っているさ」
「……あっそう」
妖気を滾らせながら言う台詞じゃないでしょ、それ。まぁ、確かに頭は冴え渡っているだろうけれど、それ以外考えてないなんてことはないだろうね? ま、別にいいか。どうせ、紫様は当然のように藍と私を引っ張って目の前で邪魔をしている兎と戦うだろうから。
そんなことを話しているうちに、霊夢はお祓い棒を構えて目の前の兎とやり合う準備が整ったらしい。紫様と藍は最初からなので、私もやらなきゃいけないわけだ。はぁ。
「月の兎である私の眼を見て狂わずにいられるかしら?」
狂う、か。あんまりいい思い出はないな。