うわ、危なっ! 躱さなかったら眉間に直撃コースだったんですけど。なんて思いながら、私は平然と藍の背後に滑り込む。
「彩、自分で戦え。何度私を盾にすれば気が済むんだ?」
「無理無理。戦う相手を間違えてるって」
だから、そんな怖い声出さないでくださいよ。ここは手頃な安全地帯なんだから、使わないなんてもったいない。というか、使わないとやってられない。どうせちょっとくらい盾にしたところで、藍にかかる負荷は大して変わらないでしょう? 弾数がちょっと増えたところで問題なく防げるはずだ。多分ね。
まぁ、藍が怒りに身を任せて前に飛び出さないのはいいことだ。少なくとも、今のところは。正直、いつ飛び出してもおかしくないと思う。私が藍を好き勝手盾に出来る時間もあまりなさそうだ。命じられでもすれば喜々として飛び出すだろうし、あと一つや二つ何かあれば独断で出ていくだろう。それを紫様が止めるなら止まるだろうけれど、きっと止めないだろうなぁ……。はぁ。
藍の背後からヒョイと顔を出すと、即座に妖力弾が飛んでくるのですぐに引っ込める。ピンと伸ばされた人差し指から放たれる妖力弾は、照準は気持ち悪いほど正確で、弾速はむかつくくらい高速。さらには躱すとその先に妖力弾が置かれてるなんてこともざらなので、先読みされてる嫌な気分になる。結界? 私が張っても貫かれてお終いだから。妖力の無駄。はぁ。
「……ん――えぇ……」
またどれか出てくるだろうとは思っていたけれど、無関心なのが出てきちゃったよ。こんな状況になったら代われとか言えないじゃん。もしも言ったら、この身体は棒立ちして分かりやすい的になるだけだ。あの兎の撃つ妖力弾で余程のことにはならなさそうだし。それを見越しての選択だとしたら、内側で行われているであろう選出は結構厭らしいぞ……。
まぁ、いいや。たとえ基本は棒立ちでも、動いてほしいと頼めば動いてくれる方だ。身勝手に動かれるよりは遥かにマシだろう。うん。言い換えればわざわざ口に出さないと伝わらないってことだけど、それはもう大体そんなものな気がしてきた。
「ねぇ、紫。私もいい加減本格的に出たいのだけど」
「そうねぇ……。黒幕も目の前だし、いいんじゃないかしら」
前から聞こえてきた霊夢と紫様の会話に思わず頭を抱えたくなりながら、ちょっと固い感じがする身体を力任せに右に向ける。隣のは留まろうとも動こうともしていないから、最悪私一つでもこの身体を無理矢理動かせそうだ。結構動きづらいけど。
「右に出るよ――ん」
そう呟きながら、私は藍の背後から右に跳ぶ。当然のように着地点に飛んでくる妖力弾を、地面と水平に浮かべて張った結界に着地して回避。一呼吸おいてから結界を消し、静かに着地する。
……ん? なんか兎の目に若干の戸惑いが見えるんだけど。どうしたんだろう?
「宝具『陰陽鬼神玉』」
なんて考えていたら、霊夢が宣言したスペルカードによって兎が空色に輝く霊力に照らされてよく見えなくなってしまった。うわ、あの陰陽玉って全部退魔の霊力なの? あんなの喰らったら痛いじゃ済まなさそうなんですけど。
けれど、あの陰陽玉がいくら強力であろうと、霊力によって廊下一杯に巨大化していようと、その形状が球体である以上、四隅には空きが出来てしまう。ほら、右下に跳んで躱されたよ。まぁ、そのことを既に分かっていたかのように霊力弾を右下へばら撒いていたが、これを兎は妖力弾で難なく撃ち落としていく。
「やっぱり、地上って大したことないわね」
あ、まずい。
「紫様!」
「あら、藍ったら。式神『八雲藍』。さぁ、いってらっしゃい」
なんて思ったところで既に藍は飛び出し、それに便乗するように紫様がスキマを開いて兎の前に送り出した。……やっぱり止めないじゃないか。はぁ。
藍が放つ弾幕は点や線どころか面ですらない、空間を埋め尽くす膨大な密度の弾幕。それでいて複雑怪奇でありながら規則性を嫌ってほど押し付けてくる幾何学模様を描いている。まぁ、こちらは飽くまで命名決闘法案のスペルカード。不可能弾幕はナンセンス。
「その程度の弾幕、造作もないわ」
そんな兎の言葉が聞こえてきたと思ったら、突然藍がぐらついた。あの藍が、だ。何かされた? 何をされた? そんな心配を抱いていると、藍の放つ弾幕に不規則性が滲み始め、美しさが損なわていく。華美の押し付けがスペルカードなのだから、これはスペルカードと呼んでいいのだろうか? ……別にいいか。あっちは命名決闘法案をするつもりがないだろうし。というか、多分相手は知らない。
ちょっと一筋縄ではいかないらしい。だからと言って、私に出来ることなどないのだが。はぁ。