東方九心猫   作:藍薔薇

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ちょっと付き合ってあげるわ

『話せば分かってくれそうじゃない?』

『どうだか』

 

 確かにあのおしとやかという第一印象からは、心優しいお姫様とでも付けてやりたくなる。けれど、私が真っ先に思い当たったのは世間知らず、浮世離れといった悪印象である。よく言えば箱入り娘、さらに悪く言えば非常識。何でだろうなぁ……。人間の汚い面を見過ぎたからか? ま、いいや。どうでも。

 そんな姫様は口元を袖で隠しながら微笑んでいるのだが、薄っすらと開かれた目がやけに鬱陶しい。細部に至るまで不躾に観察されている気分だ。たかだ化け猫に対して不躾だなどと自意識過剰かもしれないが……。はぁ。

 

「遂にお出ましね。ちょうどいいわ。二人まとめて叩きのめしてさっさと帰るわよ」

「そうね。手早く済ませましょう?」

「せっかちねぇ。焦らなくてもいいのに」

 

 黒幕二人を目の前にやる気マシマシな霊夢と紫様。それに対して姫様は鈴を転がすようにカラカラと笑っている。随分と余裕そうなことで。しかもそのまま目を瞑ってしまった。その隙に攻撃されて平気だとでも言いたいのだろうか? ……いや、隣に守ってくれるであろうものがいるからかなぁ。ま、どうでもいいか。

 十秒いかないくらいだろう。姫様はゆっくりと瞼を開いた。その瞳は楽しいことでも閃いた子供のように爛々と輝いているように見える。

 

「……うん、そうねぇ。最近はずーっと永琳が屋敷から出させてくれなかくてつまらなかったの。その、命名決闘法案? だったかしら。外で娯楽としてはやっているのでしょう? 面白そうじゃない。ちょっと付き合ってあげるわ」

「姫様?」

「永琳は横で黙って見てなさい。せっかく楽しそうなものを見つけたのに、水を差されたくないわ」

 

 急に何言いだすんだ、この姫様。幻想郷に命名決闘法案が発布されたのは本当に最近の話だぞ。私の中の世間知らずの印象が崩れ去ったんですけど。……何か引っ掛かるけれど、まぁいいや。気にすることでもなかろう。

 永琳と呼ばれた人間っぽいのを下がらせ、姫様は両腕を大きく広げて言い放つ。 

 

「スペルカード? は五つにしましょう。多いほうが楽しめそうだもの。……ん? 被弾してもいい数も決めなきゃいけないわね。数合わせでこれも五つにしましょう」

 

 そう言って姫様がルールを決めてしまった。そんな随分余裕そうな態度が癪にでも触ったのか、紫様の表情があまり芳しくない気がする。しかし、あちらに持ち出されたのは紫様が発布した命名決闘法案である。ここで乗らないのはあまりよろしくないだろう。多分。

 

「随分暇そうね。こっちはそんな暇じゃないのに……。霊夢、早急に片付けるわよ」

「そうね。黒幕を懲らしめられるなら何でもいいわ」

「彩、準備はいいか?」

「あまり。ですが、やれるだけのことはしましょう」

 

 その答えを聞き、姫様はこれまた嬉しそうに笑う。そんなに遊びたいのか。……まぁ、別にいいや。霊夢と紫様ならどうにでもなるだろうし、勝負は表のに任せてしまうわけですし、私には関係ないだろう。

 

「これに私が勝てば貴女達に何かしらを要求出来るのでしょう?」

「考えるだけ無駄よ。霊夢には誰も敵わないわ」

 

 随分な自信だ。まぁ、私も博麗の巫女である霊夢が負ける姿はいまいち想像しにくい。

 紫様の言葉を受けた姫様はわずかに頬を膨らませたが、すぐに怒りを話捨てたかのように優しく微笑む。

 

「本当にせっかちねぇ。私が勝ったらその世にも珍しい九心猫を戴くわ。ちょうど兎じゃない新しい愛玩動物が欲しかったところなのよ。九つの人格で須臾を超越した存在。無限の過去の中でも一つ輝く記憶になると思うのよ」

「……何ですって?」

 

 あれ。なんか急に関係が出来たんですけど。なんでや。

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