東方九心猫   作:藍薔薇

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負けたら死ぬ

「ふふっ。見せてあげるわ。私からの美しき難題を! 難題『龍の頸の玉 -五色の弾丸-』」

 

 私は内側で姫様が振るう目が痛くなるほど豪華絢爛なスペルカードを眺める。赤黄緑青紫の妖力弾とレーザーが所狭しと降り注ぐ。あんなのを避けろだなんて、私はやりたくないね。出来る出来ないの問題じゃない。はぁ。

 なんてことを考えていたら、表のは光を避けて陰に入った。無論、都合のいい壁なんてものはない。そこにあるのは妖気を纏う九つの尻尾である。

 

「少し失礼しますね」

「彩、また私を盾にするのか!? そんな余裕はないぞ! お前も前に出て戦え!」

「そう言われましても、今の私の出来る最善は戦わないことですから」

 

 全くもってその通り。撃ったところで雀の涙。むしろ、撃つ暇があったら被弾する。表のは弾幕を避け続ける必要がある。そして、被弾しない方法は盾に籠ること、と。

 

『負けたら向こうに飼われるってさー。どう思う?』

 

 さて、表のが頑張っているけれど、内側ではちょっとお話をしようか。何、別に大切なことでもない。どう転ぼうと、転がろうと、関係ない話。

 

『構わん』

『……ん』

 

 一つはボソリと呟き、もう一つは生返事。真っ先に返事をした二つはどちらでも構わない様子。知ってた。

 

『どっちだろーと関係ねーな。が! 負けんのはぜってー嫌だね!』

 

 一つは勝敗が関わらなければどちらでも構わないらしいが、この条件なら紫様のほうを選ぶということでいいでしょう。

 

『ゆかりんとどっちのほうが楽しいかなー? 僕は楽しいほうがいいんだけど』

 

 一つはどちらか決めかねている様子。まぁ、先のことは分からないからね。けれど、まぁ、別にどっちに転んでもどちらにせよ無邪気に楽しんでそうである。

 

『俺は拾われた身だしなぁ。勝手に出て行くのは悪いんじゃないか?』

 

 一つは紫様を選んだ。確かに、死に際の私は紫様に命を拾われた。式神を憑けた。それは私だって感謝している。一応。

 

『んー、帰る場所が度々変わるのはあんまり……』

 

 一つは紫様を選んだということでいいだろう。まぁ、昔はその日暮らしだったからねぇ。……昔のことはあまり思い返したくないな。

 

『私は今のままがいいです。ペットよりも式神である方が自由ですから』

 

 一つは紫様を選んだ。家に閉じ込められたら困るか。犬は外に連れ歩くのに、どうして猫は外に出さないんだろうね?

 さて、表のに聞く余裕はないからこれで大体揃ったね。まぁ、姫様よりも紫様のほうがいいらしい。別に構わないが。

 

『おいおい、待て待て』

『ん? どうかした?』

『どうかした、じゃねぇよ。まだ言ってねぇじゃねぇか。訊くだけ訊いといて言わねぇのかよ』

『あー、ごめんごめん。私はどうでもいいよ。ペットでも、式神でも、大して変わらないだろうから』

 

 どちらにせよ生きている。賽がいくら投げられようと、生きてさえいれば何度だろうと投げられる。ついでに言えば、愛玩動物は暇そうだけど、式神は仕事が割と面倒。どっちもどっち。

 そう考えて答えたのだが、何故かため息を吐かれてしまった。なんでさ。

 

『……あー、気付いてないかもしれないから言っておくが』

『まだあるの?』

『紫様から離れるってことは、式神を外されるだろうから大分変わっちまうぞ』

 

 ……はい? 今、何と言いました? ……式神を外される? つまり、あの頃に戻るのか。戻されるのか。待て。嫌だ。止めろ。ふざけるな。……あの頃が瞬間的に脳裏に流れていく。嫌な記憶だ。思い返したくない記憶。記憶ってのは厄介だ。なかったことに出来ないのだから。

 

『剥がされんなら別にいいじゃねーか。あん時みてーに強くなれんだろ?』

『えー!? 皆消えちゃうのやだ! 痛いし苦しいし!』

『……ふん』

『あの頃、ですか……。あまり戻りたくないですね』

 

 周囲で何か喋っている気がするが、耳の奥がキーキー甲高い音がしてよく聞こえない。ふと、ありもしない中身をぶちまけたくなる感覚がした。思わず口元を押さえるが、混み上がってくるものは当然ない。ただただ気持ち悪い。何でもいいから吐き出せればまだ楽になれたかもしれないのに、ここではそんなことも出来ない。

 一分、十分、あるいは数秒か。肩を大きく揺さぶられ、私はその手のほうへ顔を向けた。揺れ動く焦点の合わない目では何がなんだかよく見えなかったが、徐々に焦点が合ってきた。それと共に耳鳴りと吐き気が大分収まってくる。

 

『おい、大丈夫か?』

『……全然大丈夫じゃない。あーあ、負けられない理由が出来ちゃったじゃないか。はぁ』

 

 私は思わず頭を抱える。ここで負けたら死ぬんじゃあないか? ……何だ、いつものことだった。だから何だとも思う私もいるけれど、別に好き好んで死にたいわけじゃないから。

 

「おい! いつまでそこにいるつもりだ!」

「私一つではいつまでも、としか」

「情けない! 彩、お前それでも紫様の式か!?」

「はい。これでも紫様の式ですよ」

 

 なんか表のも大変なことになってるし。藍が滅茶苦茶苛立ってる。目の前のスペルカードの対処に手一杯で余裕がないのだろう。はぁ。

 

『……とりあえず、どれか表のの手伝いに出てって』

 

 とりあえず死ぬのは何となく嫌だという消極的理由から、私は内側に一声上げた。

 ……え、私? 休むよ。休ませてほしい。はぁ。

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