一つ、二つ、少し遅れて三つと表に飛び出していくのを見遣り、思わずため息を吐く。大丈夫かなぁ? ちゃんと動けるかなぁ? ……多分、無理でしょう。けれど、ただの一尾の化け猫ではどうにも出来ないことも理解している。
それなら他人任せでいいじゃない、と囁く声がした。私はそうしたいけれど、そうはいかないんだよなぁ。非常に残念ながら、そうするとその他人が押し潰れてしまう。その結果、負けて姫様のペット直行待ったなしだ。死ぬ。はぁ。
「悪い、待たせた――ふん――っしゃーっ!――おや、三つも来ましたか……」
「どうやら一つじゃなくなったようだな。ならば早く行け!」
「下らん――うぉっ!?」
藍の言葉に碌に返事もせず、一つが先走っていく。しかし、三つの反応の遅れはあまりにも致命的で、右脚がつんのめって前のめりに倒れかけてしまう。が、すぐさま左脚を前に出して転倒だけは回避した。咄嗟の反応ってのは意外と噛み合うものだ。あー、危ない危ない。
視界に映るのは降り注ぐ青白いレーザーと翡翠色の星形弾幕。藍の後ろにいる間に、姫様のスペルカードは別のものへと移り変わってっていたらしい。これ、何枚目だ? ま、いいや。終わる時には終わる。
「闇雲に駆けても被弾するだけだぞ!?――裂く――んで、近付いてぶちかませばいいだけだろ?――それはいいですが、この数をどう捌きましょうか……」
両手の爪を伸ばしつつ真っ直ぐと駆け抜けながらの四つの会話。幾重にも掛けられているであろう身体強化の妖術でとんでもない速度になっているのだが、目の前にレーザーが落ちてきそうだと判断した瞬間その手前スレスレで急停止して別の方向へ走り出し、今度は星型妖力弾がぶつかる一歩手前で急停止して走り出すの繰り返し。被弾していないだけマシなのだが、急停止はともかく急発進がズレていて見ているこっちはヒヤヒヤする。
見上げた先には私達に向けて弾幕を放つ姫様の姿。一直線ならば二、三秒あれば届く距離。しかし、細かく左右に躱しながら駆け抜ける、なんて繊細な動作が出来ない。右に避けようとしたら大きく右に跳んでいくか派手にずっこけるのが目に見える。だからいちいち止まらなければならない。その分、近付くのが遅くなってしまう。
……ん? 今、何か飛んでたぞ。いや、気のせいじゃない。姫様の腕に何かが被弾して弾ける。
「痛っ。……こんな弾、私は求めてないわ。貴女達が私に差し出すべきは仏の御石の鉢よ?」
「私は弾のお客様だもの。一つと言わず、五つ貰いなさい」
「こんな見当違いな代物、こっちから願い下げよ」
さっきのは霊夢の霊力弾か。それに被弾したからか、姫様の弾幕の手が一度止まる。多少残留している妖力弾はあれど、ほぼがら空きだ。
「シッ――おい待て――好機と言えば好――だーっ! 行くぞっ!」
そう思った時には既に一つ駆け出していた。なし崩し的に残りの三つも動き出し、ものの数秒で姫様の目の前へと到達する。両腕に込められた妖力が輝く。
「あら、早速こっちに来てくれたのかしら?」
「悪ぃが――ちげーよっ! 爪符『超超超超絶激烈連発爪波』!」
「違うの? なら、次の難題を出しましょう。難題『火鼠の皮衣 -焦れぬ心-』」
表のが両腕を振り下ろし、目の前の姫様は数多に広がる火炎を解き放つ。数百に分散した爪撃は炎に飲み込まれ、焼き尽くされて消えていく。むしろ、より燃え盛らせてしまったような気さえする。うへぇ、熱そう……。
そのまま身体ごと焼かれてしまう前に表のは空中で後転しつつ大きく後退っていく。ついでに両腕から爪撃を放っていたが、全て焼き尽くされてしまって残念ながら被弾させることが出来なかった。まさか炎を引き裂くなんて馬鹿なことをしようだなんて思わないだろうな、とちょっぴり思ったが、流石にそんなことはなかったらしい。よかった。
それからも表のはめげずに爪撃を放つが、数を増やすために分散させただけあって一つ一つが弱っちい。あの炎を切り抜けることが出来ない。さらに、いくつもの火炎球を避けるのはなかなか厳しい。細かい動作が出来ない。私が出ているよりマシだろうが、それでもかなり難しそうだ。はぁ。
『……大丈夫かなぁ』
『大丈夫よ、きっと』
そう言われても、不安なものは不安だ。負けられないからねぇ。
さてさて、どうしたものやら。