「あら、この難題ももう時間切れ? 三も五も大差ないわねぇ」
姫様の放つスペルカードが終わりを迎えた。しかし、命名決闘法案はまだ終わったわけではないらしい。つまり、さっきのはまだ四枚目だったということか。あれで最後だったらよかったのに。はぁ。
しかし、姫様はここに来て最後のスペルカードの宣言をしない。このまま流れるように最後のスペルカードも宣言するものだと思っていたから、少しばかり意外だった。けれど、宣言しないならしないなりに弾幕を張るものだ。何もせずに、いやこちらの弾幕は避けているけれど、それでも何も手を出さずにいることに違和感を抱かずにはいられない。
「そのまま降参してくれないかしら。そうすれば楽なんだけど」
「道理で夜が明けないと思った」
霊夢のぼやきは聞こえていないらしく、姫様は冷ややかさを僅かににじませた目で紫様を見ながらそう呟いた。
「貴女の仕業ね?」
「それがどうかしたかしら? 貴女の後ろに浮かぶ本物の月を返せばそれで済むわよ」
後ろ? そう言われて表の奥のほうを見遣ってみれば、ここから遥か向こう側には確かに月らしきものが見えている気がする。へー、あれが本物の月なんですか。秘術だか何だかでどうにかしたっていう。何故隠しているかなんて知らんけど。というか、どうでもいい。
『月を挿げ替えて何がしたいんだろうねぇ』
『独り占めとか? 月見酒をパーッと楽しむために!』
『それは違うかなぁ、流石に』
ふざけたことを抜かす口の両側を潰し、頬に溜まった空気をぶふーっと吐き出させる。ちょっと手を緩めればまた膨らんでしまうわけだが。風船か。
それはさておき。そんなことのために姫様を隠すのはどうかと思うし、あの兎は姫様を連れ出せないでしょう、って言ってた。姫様は誰かから逃げている? 逃亡者か罪人か何かなのだろう。多分。まぁ、そんな姫様が月見したいみたいな理由で独り占めするなんて悠長なことをしている余裕があるとは思えない。そんな余裕あったら、さっさと隠れるべきだ。……あぁ、隠れるための秘術か。あれ? よく分からなくなってきた。もういいや。どうでも。
私の思考がこんがらがってきたのでいつも通り横に投げ捨てていると、姫様はさっきまでの冷たい目が嘘のように暖かに微笑んだ。
「まぁ、いいわ。今は続きを楽しみましょう。これが最後の難題よ。難題『蓬莱の弾の枝 -虹色の弾幕-』」
最後のスペルカードの宣言。名前の通り、七色の弾幕が広がる。相変わらず視界一杯を産め作る妖力弾で目が痛くなりそうだ。頑張れ、表の。もう一踏ん張りだよ。うん。
そう思っていたら、何故か一つ表から内側に戻ってきた。あれ、いいの? 尻尾が一つ減るとその分弱まるんだけど。
『どうしたの?』
『私はこういった類があまり得意ではありませんから。先程から他のと比べて出遅れがちでしたので』
『そっか。……あれ?』
荒事は苦手だもんなぁ、と思っていたのだが、両手の中にいたはずのがいない。……まさか。
「てーれってれー!――るっせぇ!」
あーあ、出ちゃった。表から聞こえた声を聞き、私は思わず頭を抱えてしまう。やらかした。
……まぁ、いいや。遊びじゃないとは言ったし、あれで最後だし、変なことにはならないでしょう。まぁ、遊びに関して真剣であるし、最悪遊んでいても大丈夫かなぁ? 命名決闘法案に対して真剣に取り組んでくれるなら、それはそれでいいかもしれない。けれど、やっぱり不安だ。色々と。はぁ。
そんな不安を払拭するように、表のは妖力弾が飛ばない場所へ次々と駆け抜けていく。真っ直ぐと進み、すぐに曲がってさらに走り続けている。よくもまぁ、あんな細い隙間を真っ直ぐ突き抜けようと思えるなぁ。当たってないからいいけど。……ただ、姫様から距離を取ろうとすると若干動きが鈍くなる点は気にしないでおこう。
そんな表のはそうやって走り続けながらも騒がしい。
「何しに出て来てんだよ!――遊びにっ! ねぇ、スペルカードやってもいいよねっ?――構わん――いーんじゃね?――よーっし!――おい、勝手にや――彩虹『しゅわしゅわレインボー・よんっ』!」
宣言と共に身体から七色の弾幕が炭酸水の気泡のように湧き上がっていく。同色の妖力弾が触れ合って混ざり合ったり、時には姫様の妖力弾を受けていくつかに割れて分かれたりで忙しない。
表のは姫様を見上げている。楽しそうに笑っている。実際、楽しいのだろう。面白いのだろう。そう言ってたし。
『……はぁ』
『おや、どうかしましたか?』
『いや、何でもないよ。……何でもないさ』
けれど、私は楽しくない。長い付き合いだからか、そんな私の言葉を生暖かく笑われる。それこそ生まれた時からより長いとはいえ、内心が透かされるている気がするからなんか癪だ。
結局、私はいつだって間違える。