東方九心猫   作:藍薔薇

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ふざけないでください

 表のの最後のスペルカードが尽き、命名決闘法案は魔理沙の勝利となった。お互いの煌びやかな弾幕を眺めていて、被弾したかどうかなんて気にしていなかったけれど、あちらが被弾するようなことはなかっただろう。多分。

 

『あ。終わったから、癒しよろしく』

『そうですね。それでは、いってきます』

 

 近くで待機してくれていたのにそう言えば、すぐに表へと向かっていった。

 

『あー、楽しかった!』

『申し訳ありませんが、身体を癒したいのです。代わっていただけませんか?』

『いいよー!』

 

 表で無邪気にはしゃいでいるのと入れ替わり、表へと浮上してくのを見守る。無邪気なのが表にへばり付かなくてよかったよ。

 そのまま表の様子を窺っていると、命名決闘法案の勝者である魔理沙が近寄ってきていた。

 

「さて、知ってる事洗いざらい吐いてもらおうか」

 

 そう言ってきたのだが、表のは何故か魔理沙を視界から思い切り外してしまった。表のは目を合わせるのが嫌だ、とかいう性格じゃないはずなんだけど……。

 なんて思ったのも束の間。思い切り左を向いた理由が目に入る。白に赤が滲んでいる、血濡れの雪。その中心で横たわる、数本のナイフが突き刺さった人影。橙。彼女が怪我をしたまま意識を失っていた。

 

「おい待て! どこ行くんだ!」

 

 向こうの命名決闘法案は物騒だったんだなぁ、何てことを考えていたら、表のが橙の元へ駆け出していってしまう。しかも、魔理沙の制止を聞き流して、だ。それは流石にまずいって!

 命名決闘法案の敗者は勝者の要求に応えることになっている。それなのに、表のはそのルールを無視してしまっている。それはあまりよろしくない。紫様は命名決闘法案のルールを決めた一人であり、私はその式神の一人なのだから、私がそのルールを破るわけにはいかないのだ。

 けれど、表のはそれを分かっていないのか、それとも分かっていて止まらないのか……。そんなもの、分かってる。後者だ。目の前に傷付いた者がいるのだから。

 

「大丈夫ですかっ!?」

 

 表のは橙の元にしゃがみ込み、目に付いた傷に手を添えた。その手からは淡い光が流れ出していき、光に触れた傍から傷が塞がり治癒していく。……私としては、この身体の治癒を先にしてほしかったんだけど、まぁ、しょうがないか。この身体より橙の方が重傷だし。橙は藍が大切にしてるし。

 ナイフを引き抜いてすぐに治癒を繰り返していると、背後から魔理沙と思われる足音が止まった。

 

「……なんだ。逃げるわけじゃなかったのか」

「えぇ、必死にお仲間の怪我を治してるわ。健気ね」

「それにしても咲夜。勝ってもこの様じゃあ意味ないだろ?」

「ちょっと加減を失敗してしまって……。訊き出せなくなっちゃったわ」

 

 そんな二人の会話を聞いた表のの様子がおかしくなったことに気付く。……これ、結構まずくないか? そう思い、念のため飛び出す準備をしておく。

 案の定、表のは治癒の手を止めずに振り返ることもなく、責め立てるような口調で話し始めた。

 

「……今、なんて、言いましたか? 橙さんを刃物で傷つけ、突き刺し、気絶させ……。その上で、貴女はそんなことを言うのですか……?」

「それの何が悪いの?」

「ふざけないでください」

 

 やばい! これ以上はまずい。勝者は敗者に追い打ちせず、敗者は勝者を逆恨みしない。どのような決着だろうと受け入れる。これもルールだ。

 即時決行。私は表へと飛び出した。原則、表には一つだけ。うん、分かってるよ。私だってやりたくない。けれど、今の表のは完全に表のみに意識が向いていて、内側に引っ張れるような状況じゃないんだ。だから、やりたくなくてもしょうがないんだよ!

 

「止めて――何故止めるのですかっ!?」

「「!?」」

 

 橙の治癒を終えると同時に振り返り、右腕を伸ばそうとした身体を中途で押し留める。うぐ、思ってたより意思が強い……。けれど、発射しようとしていた妖力弾は明後日の方角へと吹っ飛んでいったので、まぁ、よかったとしよう。

 突然、一人二役になった私に驚いている二人はどうでもいい。今は、目先のことの方が重要だから。

 

「怒りたいのは分かったけど、抑え――誰かを傷付けて平気な顔をする人間を! どうして庇うのですかっ!?――落ち着いてって。ね? 敗者は勝者に従う。これ、ルール。だから、さっさと答えてさっさと行ってもらう。ね?」

 

 橙は起きないが、傷は治癒したからいい。私の身体は結構痛いのだが、それはしょうがない。目の前の人間は早く異変を解決したい。だから、私が紫様から受け取った情報を渡して、さっさと冥界へ行ってもらう。これでこの場で顔を合わせる必要はなくなる。怒りは、まぁ、帰ってからゆっくり消化してもらおう。

 

「……なんなんだ、この化け猫?」

「さぁ……? 私にはさっぱり……」

 

 二人が何か言っている気がするが聞き流す。

 少し待つと、隣のは内側へと戻っていった。

 

『……少し、奥で落ち着いてこようと思います。申し訳ありませんが、後は任せてもよろしいですか?』

 

 出来ればこの身体を癒してから戻ってほしかったけれど……。まぁ、これ以上ルールを破らずに済みそうなのでよしとしよう。うん。

 

「はぁ。……さて、知ってること洗いざらいでしたね。この冬をどうにかしたいのでしょう? 今すぐ冥界に行ってください。そこに元凶がいます」

「はぁ!?」

「……根拠はあるのかしら?」

「信じたくないのならそれで結構。言えることは言いましたので、それでは」

 

 会話を打ち切り、屋根の上で静観していた霊夢を見上げる。私を見下ろすその顔は、かなり不満気であった。……知ったことか。

 私は橙の膝と背中の下に腕を入れてゆっくりと持ち上げ、二人を後にする。そして、橙が住んでいる家のベッドに横にしてあげ、そっと布団を掛けてあげた。

 

「……じゃあね」

 

 起きるまでここで待っていようかと思った。けれど、目覚めた時に私がいたら、貴女は不快だよね? だから、私は帰るよ。紫様の元に。貴女が住むことの出来ない、紫様の元に。ごめんね。けれど、これはしょうがないんだ。

 外に出ると、霊夢を含んだ三人の人間は既に迷い家からいなくなっていた。あぁ、寒いね。早く、春にならないかな……。

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