東方九心猫   作:藍薔薇

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お手合わせ願います!

 幽々子様が見守る白玉楼の前に広がる庭にて、私は腰に提げられている楼観剣の柄に軽く手を添えた。

 

「それでは彩さん。お手合わせ願います!」

「あの、止めにしませんか?」

「えぇっ!? あの時約束したじゃないですか!?」

「お互い傷付け合うなんて無益――はいはい、今更言ってもしょうがないでしょう?――手合わせ願われたってだけで巻き込まれた身にもなって諦めろ」

 

 憂いを帯びた表情から苦笑いの表情へ切り替わり、そしてため息交じりの言葉で締めた彩さん。気の抜けるような一人芝居としか思えないが、何でも一つの身体に九つの命が宿っているからだそうだ。幽々子様がそう言ってた。

 ガクリと落ちてしまった肩を立て直し、改めて柄に手を添える。緩んでしまった糸をピンと張るように、波立った意識を澄ませていく。

 

「お互いに実力を出し切りましょう」

「さて、文句は?――あります――はい、ないね。あっても止まらないから諦めな――それは流石に横暴じゃない?」

 

 私は踏み出した。楼観剣の間合いまで一気に踏み込み、鞘を滑るように抜き放つ一閃。

 

「右に結界――分かってるわよ――仕方ありませんね」

 

 ガギン、と硬いものに阻まれる。この結界、以前よりも確実に強度が増している。しかしッ!

 

「まだ脆いッ!」

「知ってる――じゃあ、どうするの?――丸く出来る? 球体に――出来るわよ。……あぁ、そういうことね。分かったわ」

 

 居合の一撃を屈んで躱す彩さんが何やら早口で喋っているのだが、そんなものを聞いている余裕はない。そして、喋る隙も与えない。返しの袈裟斬りを振り下ろす。

 その振り下ろした楼観剣に、彩さんの手の甲が刀身に沿うように触れた。結界が張られる。その結界は先程とは形状が異なり、なだらかに曲がっていた。

 

「守るのは受け止めるだけじゃないってことよ――そういうこと」

 

 そして、楼観剣は地面に垂直に振り下ろされる。彩さんのすぐ横の地面に突き刺さる。刀身が結界に沿うように滑り、無理矢理軌道が曲げられたのだ。

 私は地面から楼観剣を引き抜きながら後ろに跳んで距離を取る。あのままでは確実に反撃を貰ってしまう。

 

「逃げんなよ」

「く……っ!」

 

 だが、やはりと言うべきか、彩さんは距離を詰めてくる。しかし、完全に詰められてはいない。私は地面に着地し、楼観剣を構えて迎え討つ構えをした。攻撃を楼観剣で受け、返り討ちにしてみせる。

 

「ガッ!?」

 

 そう思った矢先、私の顎に衝撃が走った。何もなかったはずなのに、不意を打たれた私の身体が後ろに大きく傾いていく。見えなかった。何が起きた?

 仰向けに倒れていく最中、それをようやく視認した。結界だ。拳ほどの大きさの結界。私の顔が合った場所に浮かんでいた。

 

「結界は防御のための――壁、天井、床を作る妖術でしょ? 防御の妖術じゃないよ――違うわよ。もう」

 

 そんな言葉を最後に、私は結界に押し潰される。重い……ッ!

 

「うおぉぉ……はぁっ!」

 

 が、今までの結界と比べて明らかに脆く、私は力業で無理矢理持ち上げ、突き破り、立ち上がった。そして、楼観剣を周囲全域に振るい、押し潰していた結界を破壊し尽くす。

 

「まだ終わりではありませんよ、彩さん!」

「ふざけないで――ならどうして出来る?」

 

 何やら言い争いをしているように聞こえるが、私は距離を詰める。対する彩さんの手は淡く輝いていた。横薙ぎの一閃を先程と同じように上向きに曲がった結界に軌道を曲げられそうになるが、曲げられる寸前に加速させて斬った。が、破られるのを読まれていたのか、彩さんは既に体勢を低くして私に向かって大きく踏み込んでいた。

 

「出来ることをしないでわざと負けたなんて、向こうが許さないでしょ――……それを言うなら残り六つが出――あーあー! 何言ってんのかなぁーっ?――……もう。後で必ず癒しますからね?」

 

 そして、光る手が私の膝に触れる。

 

「ッ!?」

 

 膝から何かが突き出した。白い棘状のものが何本も。そして、脛や太ももに向かって皮膚が一気に捲られるように破れ出し、派手に鮮血が弾けた。

 

「誤治療って奴だ。我慢しな――まぁっ、随分とえぐいことするわねぇ」

 

 突然の激痛に思わず身体が固まる。しかし、それは致命的な隙でしかなかった。続く光る掌底をもう片膝にも受け、今度は肉が内側から爆ぜた。血に濡れた骨が露出しているのに痛みを感じない。私の痛覚がおかしくなってしまったのか、それとも痛みを感じるべきものごと吹き飛ばされたからか……。

 しかし、両脚がこの様では手合わせを続けようがない。私は全く力の入らない両脚の代わりに楼観剣を杖代わりにして地面に突き刺した。

 

「……参りました」

「すぐに療します――今度は間違えないから安心しなって」

 

 そう言われて膝に淡い光が当てられると、内側から突き破るように露出した白い棘が皮膚の中に戻っていき、破れた皮膚が塞がっていき、爆ぜたはずの肉が復活していく。……流石にこの惨状でそのブラックジョークは洒落にならないと、私は苦笑いを浮かべるしか出来なかった。

 疑っていたわけではないけれど、やっぱり彩さんも紫様の式神なんだなぁ……、と思い知った。私も精進が足りない。もっと頑張らねば!

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