東方九心猫   作:藍薔薇

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不合格ね

「不合格ね」

「あっそうですか」

 

 帰ってきて早々、私は紫様にそう言われてしまった。ここ最近で見た苛つく表情堂々第一位にランクインしそうなくらいニヤニヤしながら。……落ち着け、私。相手は紫様だ。だから握った拳を開くんだ。うん。はぁ。

 阿求と話している最中、刺すような視線を感じた。視線を感じた場所に目を向けてみれば、その目には明確な敵意が見え透いていた。それと、口端から僅かにはみ出た牙。そこまで確認してから、私は紫様に通信してどうすればいいか問うたのだ。その返答は、一人で対処してみせなさい。

 

「貴方、自信満々に『出来らーっ!』なんて言ってたじゃない」

「言ってねぇよ」

「貴女は言ってなくても、貴方が言ってたのよ」

 

 ……やっぱり一発くらい殴らせてほしくなってきた。いや駄目だ。どうせ意味なんてない。もういい。どうでもいいんだ。もう済んだことだし。はぁ。

 私は真面目に話を聞かない方が楽だと思い、その場にゴロリと横になる。床が冷たくて気持ちいい。外寒かったけど。そんな私を見下ろす紫様が続きを話し出す。

 

「私が出した条件は迅速に、隠密に、安全に、無害に、抹殺することよ」

「知ってますよ」

 

 だから即座に行動し、人間の里に無害であるようにしつつ、内心嫌だと思いながらいくつか表に出てもらい、殺したのだ。

 

「まず、迅速に。これはいいでしょう。丸あげるわ」

「丸なんて並べても零にしかならないからいらないです」

「そうねぇ。不合格だったのだし、丸は没収ね」

 

 そう言ってケラケラと揶揄うように笑う。たかが戯言にまで付き合ってくれてありがとう。はぁ。

 まぁ、一分一秒縮めるならまだしも、劇的に速く事を済ませるのはちょっと無理がある。出来たとしてもやりたいとは思わないけど。面倒だし。

 

「次に、隠密に。これは及第点ね。よりによって阿求に露呈しまったもの。けれど、そこには目を瞑って一人で済ませたことと、認識阻害の結界を用いたことを評価してあげる。三角あげるわ」

「なんか刺さりそうな気がするんでいらないです」

「そう? それなら三角も没収するわ」

 

 認識阻害の結界。結界なんて壁を作るものだと思ってたけれど、本来は境界を作るものだそうだ。ここから先は立ち入り禁止を物理的にしているものが普段使っている、私が認識していた一般的な結界。

 けれど、守る手段は防御以前に立ち入らせないことも含まれる。それが今回の認識阻害の結界なんだそうだ。つまり、ここから先は進んではいけないと思わせ、あるいは無意識に進む道を逸らさせ、あるいは空間を捻じ曲げてしまう。それをすると聞かされた時は、そういえばそんなのもあったような気がするとぼんやり思い出していた程度だけど。そんな器用な事出来ないからすっかり忘れてた。

 

「次に、安全に。これもいいでしょう。前々からもしかしたらと警戒していた人間だったけれど、起きてみれば別に大したことなかったわね。ふふっ、あの時の貴女なら過剰戦力だったでしょう?」

「……まぁ、安全に、ですからねぇ」

「よろしい」

 

 私は抹殺対象の後を付けながらいくつか表に出て来て、と呟いた。こういう時に内側から表を見ることが出来ても、表から内側を見ることが出来ないのがもどかしいと思うのはいつものことだ。まぁ、表で感じている五感の大半を内側では感じれないと不便に思っているのでお相子な気がするが……。はぁ。

 私の呼びかけに応えたのは五つ。一つは抹殺と聞いて、一つは戦闘と知って、一つは自信ありげに、一つは計画を立てて、一つは結界を張るために。そんなに出てきちゃうのかと頭を抱えたくなったけど。はぁ。

 

「次に、無害に。これは駄目ね。人間の里に対してはほぼ無害に済ませたけれど、阿求の心に負った傷はかなり深刻だもの。すぐに多少のケアはしていたようだけど、そもそも付いてこないように屋敷に帰すべきだったわね。だからバツをあげるわ」

「それこそ刺さるからいらないです」

 

 そう言った直後、私の上にスキマが開き、十字架が顔に落ちてきた。刺さりはしなかったが単純に痛い。まぁ、これは十字架じゃなくて斜めに傾けてバツの意味なんだろうけど。いらないと言ったのに、丸と三角は最初からくれなかったのに、これはくれるのか。……まぁ、どうでもいいか。はぁ。

 あの後、阿求が落ち着くまでその場で付き合い、それから結界を解除しつつ屋敷まで一緒に戻った。私では赤く腫れた目に癒しを掛けてあげたくらいしか出来なかったけれど、他のだったらもっと出来ることがあっただろうなぁ……。ま、もう済んだことだ。

 

「最後に、抹殺。あれなら確実に死んでたけれど、派手に爆散させたから処理が少し面倒だったわ。そこはちょっと減点。いつかは痕跡一つ残さないように出来るようになってくれたらいいのだけど」

「……そうですか。期待しないでください」

「期待してるわ」

 

 実は、出来ないこともない。消滅の妖術は存在するし、空間断裂の妖術も存在する。他にも色々あるけれど、私としては疲れるから嫌だ。殺すだけで何度そこまで小難しい妖術を使わなければならない? というか、妖力の負担が大き過ぎる。私では、消滅の妖術は米粒一つ消すくらいが限界だろうし、空間断裂の妖術は引き裂く前に妖力が尽きるだろう。無理だ。

 それより、私としてはその場から身体を動かさずに抹殺したことの方が重要だ。棒立ちで済むならそれに越したことはないだろう。身体から離れた妖力の操作は、他のの干渉が多少あったとしても損失は少なく済むから。

 

「だから不合格よ」

「六割取れてるんだから合格じゃないですか? というか、唐突な抜き打ち試験なんだからもう少し甘くしてくださいよ」

「現実はいつだって突然よ。これはまたいつか再試験かしら」

「……嫌だな、やり直しは」

 

 重ったるいため息を吐き、私はそのまま目を閉じた。やり直しは面倒だ。明日は特に何もないまま過ぎ去っていきますように。けれど、同じことの繰り返しは起こりませんように。退屈だし、嫌になるから。

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