ありとあらゆる花々
『起っきろーっ!』
『げぶぅ!?』
横になって眠っていた私の上に何かが圧し掛かる。無理矢理叩き起こされて非常に不愉快だ。というか、私に乗ってるのは何処のどいつだ……。
圧し掛かっているのの頬を両手で潰しながら起き上がる。……何だ、その挟み込んでも分かるくらい楽しそうな笑顔は。圧し掛かった理由が無邪気なら許されるとでも思ってんのか。私は許さんぞ。ま、だから何かするでもないけど。はぁ。
『で、何かあったの?』
『凄いんだよー! 表見てっ!』
『表ぇ?』
両手で挟んでいたのを横にぺいっと放り投げ、私は表を見上げる。どうやら、庭の手入れをしているらしい。鼻歌まで歌っちゃってとってもご機嫌なようだ。
『……うわぁ』
そしてその光景に純粋に驚く。
朝顔。紫陽花。アネモネ。梅。弟切草。カーネーション。桔梗。菊。金盞花。金木犀。コスモス。桜。山茶花。ジャスミン。白詰草。水仙。鈴蘭。菫。ゼラニウム。蒲公英。チューリップ。躑躅。椿。デイジー。鳥兜。薺。撫子。菜の花。ハイビスカス。花水木。薔薇。パンジー。ヒヤシンス。昼顔。藤。フリージア。ポインセチア。鳳仙花。鬼灯。牡丹。ポピー。マリーゴールド。紫露草。桃。木蓮。山吹。夕顔。百合。夜顔。ライラック。ラベンダー。蘭。龍船花。竜胆。蓮華。その他諸々……。
季節も、時間も、一切合切関係なしにありとあらゆる花々が咲き乱れている。しかも、この庭では見たことのない花だろうと構いなしだ。圧巻である。
「あ、紫様。おはようございます」
「おはよう、彩。随分と楽しそうね」
「まぁっ! 紫様にもそう見える? 楽しいわ、とても。こんなに賑やかな庭は初めてだもの」
「そうね。……もうそんな時期なのね」
縁側を歩く紫様は、僅かばかり目を細めて庭に咲く花々を眺めてそう呟いた。
『そんな時期?』
『大体六十年周期に起こるようですよ』
『へぇ、知らなかった』
少し引っ掛かった単語に首を傾げていると、後ろから答えが返ってきた。んー、六十年前は生まれてないな。多分。
『いくつか花食えそうだな』
『止めた方がよろしいかと。この花の大半は外の世界から過剰に流れ溢れてしてしまった幽霊が憑依しているそうですから』
『うげっ、食ったら面倒そうだな』
『私に何か出来ないでしょうか……?』
『そういうのは他の誰かがやってくれるでしょ』
幽霊の成仏は妖夢にでもやらせておけばいい。勝手に成仏させたらいけないらしいけど。
もう少し詳しく訊いてみれば、死神が許容量を超えて溢れ返ってしまった幽霊の回収に回っているはずなので、放っておけば時期に収まるらしい。ほら、他の誰かがやってくれるってさ。
「ところで、今日の朝食は出来てるかしら?」
「出来てるわ。ご飯とわかめの味噌汁、卵焼きに菜の花のお浸し。悪いけれど、私はここのお手入れで忙しいから自分でよそって食べててね」
「そう? なら、程々にね」
そう言って紫様は去っていった。表のはそれを見送り、そして庭の手入れを再開する。
幻想郷中がこんな感じなら、観賞して回るのも悪くなさそうだ。そんなことを思いながら、私はゴロリと横になった。さて、もう一眠り……。