二度寝から目覚めてのっそりと身体を起こし、ぼんやりとした頭のままで表を見上げる。……どうやら、表のはまだ庭の手入れをしているらしい。あと、いつの間にやら麦わら帽子なんて被ってた。どのくらい手入れを続けているのか分からないけれど、影の感じから昼にはまだなっていないと思う。多分。
表のはゴム手袋を付けた手で鳥兜を丁寧に根っこごと引っこ抜いていた。鳥兜って結構危ない毒を持っている植物だったと思うんだけど、大丈夫かなぁ……? どんな中毒症状になるんだっけ? まぁ、死ぬ前に癒せばどうにかなるか。はぁ。
『鳥兜は植物全体に毒を持ちますが、特に根に多いようです。中毒症状は嘔吐、呼吸困難、臓器不全など。皮膚、あるいは口などから摂取してから一分足らずで死亡する即効性がありますね。ですが、適切な処理と容量、用途をもって使用するならば強心作用、鎮痛作用などの薬としても使われていますよ』
『聞きたくなかった……』
思ったよりヤバいじゃないか……。ゴム手袋してるからまだマシだろうけれど、花粉を吸って中毒なんて洒落にならないぞ。癒せばいいんだけどさ。はぁ。
明らかに不自然な挙動をしたら、そこで慈しむように悠長に微笑んでやがるのを引っ張って即行表に出てもらうとしよう。そうしよう。
「……ふふ、こんなところね」
それから十数分。表のは鳥兜含むいくつかの種類の花を引っこ抜き終えたようだ。きっと、それら全てが大なり小なり毒を持っている花なのだろう。幸い、表のが途中でふらつくなどはしなかったので、私の勝手な心配は取り越し苦労となった。ま、それならそれで別にいいんだけどさ。
表のはそれら引き抜いた植物を麻袋に入れ、そそくさと飛び出していく。はて、何処に行くつもりなのやら。
「これを捨てたら代わってあげるから、もう少し待っててね?」
『はーいっ!』
そんなことを考えていたら、表のはそう呟いた。そして、それに無邪気に返事するのが一つ。どうやら、私が寝ている間にそんな約束をしていたらしい。
表のが見下ろす幻想郷は、庭と同じように所狭しと何でもかんでも花が咲いている。わーお、改めて見てもこれは凄い。こんな風に季節外れに咲き乱れる花々は見てて楽しかろう。そりゃあ代わりたがるわけだ。
そして、表のは少し外れた場所にゆっくりと降り立ち、麻袋ごとポイッと捨ててしまった。そんな雑な廃棄でいいのかなぁ? ま、いっか。そんな雑に捨てても気にする酔狂なのはいないでしょう。
『はい、どうぞ』
『わーい! 僕、行っきまーすっ!』
そして、表のが入れ代わる。
『お疲れ様です』
『お手入れは楽しかったけれど、ちょっと疲れちゃった。少し休ませてくれる?』
『おーおー、寝とけ寝とけ。私みたいにさ』
表から戻ってきてふぅ、と一息ついて休んでいるのにそう言ってやり、私は表を見上げる。
「ふふふーん、ふふふーんふーん」
表のは陽気な鼻歌と共にスキップしてた。さっきからキョロキョロ周囲を見回しながら興味が湧いたであろう満開の桜へ進み、その途中でさらに興味が湧いたであろう真っ赤な牡丹が咲いているところへと向かい、それからその途中にあった白詰草の中に跳び込む始末。結局何処へ行こうとしているのかサッパリ分からない。
跳び込んだ白詰草の絨毯の上をゴロゴロと転がり、大の字に寝転ぶ。いや、本当に何したいのか分からない……。ま、楽しそうだしいいか。
「あーっ! 見ぃーつっけたーっ!」
そして急に叫んだと思ったら、白詰草の中からプチッと一つ摘まみ上げる。それは四っ葉のクローバーだった。幸運の象徴とも言われているとか何とか。
「幸せになーれっ!」
そう高らかに笑い、表のは摘み取ったクローバーを投げ上げる。それは風に乗って何処かへと飛んでいった。